6 郷土料理、卵かけご飯
「というわけで、私が作ったレシピがあるんです。ベーキングパウダーという、あ、夢でね、夢で、生地を膨らませる粉を入れてケーキというふわふわできめ細かくて美味しいものを作ったんです。それを再現したくて」
「そうでしたか」
「ああ、それで…」
「ん?どうした?」
「だから、料理とは無縁のアリコスお嬢様がなんでこんなに知ってるんだと思ったんですけど。夢ですね。まぐれですね。よかった」
「メイトはオリジナルレシピ、作ったことないもんな」
「メイトにいちゃん羨ましいんだね」
「エティに言われたくない」
「でも母さんが初めてオリジナルレシピ作ったの、17歳だったって…」
「うるさい。俺は母さんの卵かけご飯を超えてやるんだ」
卵かけご飯、ね。
メイト、それなら誰でも超えられるし、あなたがちオリジナルじゃないかも、しれない…よ?
「ああ。メイトのお母さん、C級モンスターのニワココの卵をトーストにかけた料理作ったんです。手順は簡単なんですよねー。でもこの卵が新鮮な生卵で。こないだ食べさせてもらったんですけど、これがうまくて!」
(え?まさかのトースト。しかも生!?目玉焼きでさえない。白身が固くない?どうやって食べるんだろう…。あ、でもメイトの競争心には納得。絶対おいしいもん)
ニワココの卵というのはいわゆる卵なのだが、なぜか卵白がない。そしてこれまで考えもつかなかったが、程よく醤油の味がする。絶妙なバランスの卵なのだ。
前世で見るような、本物の卵に近いのはニワトトの卵なのだ。
「ん、これがそのレシピなんですけど…」
メイトが許可なくハワードに見せる。
別にいいのだけど、こういうところで粗探しをしてしまうのが、アリコスが断罪されるわけだっていう事だよね。
ハワードは順調に読み進めていく。
「ああ、それでビックアント」
「え?いつからいたんですか?」
「ついさっきだよ。スープの味見して、向こうから小麦粉運んできたら、お前らがまだ騒いでただけだ」
文脈から察するに、スープの味見をしたのは鍋の蓋の落ちた後。向こうというのはこの館《母屋》の隣、第三倉庫であり食料庫から、ここに置かれたボストンバッグいっぱいくらいの粉を、ここまで運んで来たのだろう。
お疲れ様なことだ。
「これを作るためにアリコスお嬢様が?それとも代理を頼もうと?」
「本当は作りたいのですが、お父様が許してくれないだろうと」
「そうですか。じゃあこの2人と調理器具をお貸ししましょう」
「はああ!?」
メイトが不満に叫ぶ一方、エティはいい子だ。キラキラした目でハワードを見ている。
「ありがとうございます、ハワード様。では遠慮なくお借りします。といっても、私は出来上がったら来るので、ほとんど彼ら任せですが」
「ええ。こき使ってやってください」
「はい!」
「そうだ、材料は緻密に計算されているので、マクスに一言いってからにしてください。そうしないと俺が怒られちゃうので」
「わかりました。じゃあ、行きましょうか」




