3 無事復帰です
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「えっと、衛兵の雇用についてなんだけどね?」
迷う事なく口を開き、衛兵さん達に聞こえないよう、極限まで声を抑える。
「大体いくらくらいなの?お父様のお給料についても教えてくれると嬉しいわ」
「そうですね…。私は専門じゃないのですが、彼らは多分最高の腕前なので、一日銀貨2枚くらいでしょうか。旦那様のお給料は日払いではなく月払いなのですが、大臣の中でも一番上の位なので金貨10枚より多いと思います」
「そう…」
お金の価値はよくわからないが、金貨は触ったこともない。
この世界は硬化だけが存在し、他に白銀貨と銅貨があり、白銀貨、金貨、銀貨、銅貨の順に硬貨には価値がある。ちなみに白金貨というものは、いわゆる記念硬貨の別枠で、実用性はないらしい。
いずれにしても、衛兵なんて私には不必要だわ。
雇う必要があるのはRPG的な旅に出る時かしら。でもアリコスだって、ヒロインより上(ワンランク下)の魔法が使えるかもしれないのだから、いずれにせよ不必要ね。
その間、アリコス専属メイドは、自分の仕えるお嬢様が難しそうな顔をしているのを見て、何か手伝える事はないかと思いを巡らせていた。
「あ、あの!そういった事については、私よりも詳しい執事も居ますよ」
「え!どこに?」
アリコスは目をキラキラとさせて言った。
「旦那様直属の第三執事兼、使用人の長を務めていらっしゃる、マクスという方です」
(よし。それでは今日中にでもその執事から色々ね情報を聞いて、我が家の浪費を防いでいこう。それが娘の使命というものだ)
ちなみはアリコスは、それこそ家のお金に目を向けるのは、爵位の家の子供としてもっての外だという事に気が付いていない。
一方メイドは、お嬢様が何か欲しいものでも見つけたのだろう、と思って喜んだ。
そう。このメイドも結構世界観がズレている。
そのおかげでアリコスにとてもとても振り回される事になるのだが、それについては両者共、気がつく由も無い。
「今日はお父様と話せるかしら?」
「ええ。旦那様だけでなく、奥様やルードリックお坊ちゃん達もいらっしゃっていますよ」
「ええ⁉︎ルードリックお兄様がいらっしゃるって事は、手紙で?」
「そうです」
「ではレイシアお姉様もいるのね!」
「はいっ!」
それならまずは、愛する家族に回復を伝えなきゃ。
「母屋に行きましょう」
「わかりました。歩けますか?」
「えっ?ああ、多分平気よ」
ドアを見張っていた衛兵が危なっかし気に見つめている。メイドが私に手を貸してくれる。
そうして地面に垂直たつ。二日横になっていた足の筋肉は、すぐに落ちるもの、じゃなかった。
(よかった、歩けて)
………
……
…
私の寝室を出て18段の螺旋階段を降りて、一つ廊下を抜けて、私の館を出て、隣接する母屋を目指す。さすがお金持ち。家族へ会いに行くのも、とても遠い。
あっ、そういえばこちらのメイド。彼女の名前はセサリー。
私が、いやアリコスが物心ついた時だから…確か三、四歳の時から面倒を見てる。でもセサリーに学園の授業のある間は、セサリーのお母さんのマリコッタが見てくれていた。
セサリーは私と六歳差の女の子だ。考えてみれば来年は丁度、私の享年と同じだ。
(気が合いそうだな、仲良くしよう)
「お嬢様、着きましたよ」
「うん」
数歩足を進める、と扉が突然に開いた。
「アリコスー!」
「アリーお姉様ー!」
お父様と弟のリドレイがほぼ同時に叫びながら、駆けてくる。
そうそう、アリーというのは私の愛称だ。とりあえず、家族間でのみ使われている。
そうだった。私もお姉様やお兄様やリド(=リドレイ)に、使い忘れないようにしなくちゃね。
それはそうと今私は、家族だから許される笑いに陥っている。
お父様の少し贅肉の増え始めた体。
リドレイのまだ背の低い、幼い体。
二つの個体が私に向かって一直線に走ってきてくれるのだ。
「ふふふっ」
二人が一緒に来る度に、つい比較しては笑ってしまうのだ。
かけっこの結果はお父様の勝ち。一足遅れてリドレイが着いた。その間歩み寄れた私の歩数は、四、五歩といったところか。
「平気か?」
「平気です」
「お姉様、病気だったの?」
「ううん」
「アリコス、本当に平気か?」
「大丈夫ですよ、お父様」
「お姉様、いつもとちょっと違う」
「えっ?」
(げっっ!)