4 レシピを作ってみたのだけど
お父様を見送ると、アリコスはすぐ後ろの母屋へ入っていく。
『6冊目』はセサリーが持っているので、厨房に直行だ。
「アリコスよ。だれかいる?」
厨房には水の流れる音がしている。そのため誰か居るのは確かなのだが、返事はないし、人影もない。
「とって食ったりしないから出てきなさい」
「本当ですかっ!?」
答えてくれたのは、威勢のいい少年だ。
私のイメージってどうなってんのと思ったが、ここで怒ったりするのは面倒なので何も考えなかったことにしよう。
「ええ、本当よ。ところでレシピは読める?」
「読めます」
「わあびっくりした」
さっき答えてくれた青年の後ろから、別の少年が現れた。
サイモンに似た、青い髪の好少年だ。
「もしかして…」
「なんでしょう?ここにフォークはありませんよ」
「フォーク?」
少年はうなづく。
そしてふと、この厨房にフォークを持って振り回したことを思い出す。もう何年も…いや、3ヶ月ほど前、クッキーが口に合わなかった時の話だ。
「その節は…ごめんなさい」
「!?」
少年もあからさまに驚いた顔をする。
「メイト。あのね…」
セサリーが前に出て、アリコスと対峙する少年に、そっと耳打ちをする。
「ああ。それはそれは」
ムスッとした顔に突然の異変が起きた。
少年は笑った。
もう一人の少年は、ただただ驚いている。
勘違い、というか私の変わり身に納得した様子だ。
「そういえば、初めましてよね。私、アリコスよ。それでもしかしてなんだけど、サイモンの親戚?」
「ああ、弟です。それと初めましてじゃありませんよ。もう一年前から弟子入りしてます」
「俺もです!」
なんで学園にいないのかと聞くのは野暮だろう。
きっと魔法が苦手だったに違いない。
そういえばこの少年も水色の髪だ。
「あ、弟です」
「そう。三兄弟なのね」
「いえ、上にもう一人」
「へ、へぇ」
どこもかしこも子沢山のようだ。
「えっと、それでレシピについてなんだけど」
「はい」
「これの通りに作ってみて欲しいの。レシピの読み込みにはどのくらい時間がかかるかしら」
「割とすぐです」
メイトと呼ばれた青髪の少年は即答する。
「あの!絶対にこれの通りにですか?」
「別に。でもどうして?」
「その…」
言いにくそうにしている。
カイの時は冗談で言ったつもりだったが、本当に毒を入れるとでも思ってるのだろうか。
「まあ、一旦読んでみてくれない?」
「エティっ」
「あ、うん」
メイトに急かされ、メイトの弟、エティもノートを囲んで読む。
二人とも真剣な顔になって、文字を追っている。
向こうの方で、いつ来たのか、20歳くらいの男性が二人ほどスープを煮込んでいる。
色的に、アリコスはトマロ───煮るとトマトと似たコクのでる、三角錐の赤い実の野菜────のスープだと予想した。
(鑑定。トマロ)
トマトのイメージが湧く。正解らしい。
(今日もリドはわかるかしら)
他にも検討もつかないような食材を鑑定していく。
例えばオリオンを鑑定し、玉ねぎ。
ベリーズを鑑定、ストロベリー。
C級モンスターのミノタウルスのドロップアイテム、ミノタウルスの乳を鑑定して、牛乳。
そして何故か、B級モンスターグズベリーのドロップアイテム、グーベを鑑定して、クワノミ。
etc.
ガシャーーーン!
そのうちに、スープを作る横で、鉄製の鍋の蓋が落ちた。
無駄に凝った石製の床と、部屋のせいで反響する。
アリコスも思わず耳を塞いでしまった。
そして思い出したように、メイト達の様子を見る。
あろうことに、ちょっと顔を上げて、すぐ下を向いた。
エティに至っては、ずっと同じところを小声で読みあげる事を繰り返し、身じろぎひとつしていない。
(すごい集中力…)
つい感心してしまう。




