3 ポーションをプレゼント
ガチャ
「アリー、いるか?」
「はい。…お父様!?」
声質に気がついてアリコスは驚愕した。
どうやら走ってきたらしい。一体何の騒ぎだろう。
「ルードリックが帰ってきたよ。このまま学園へ戻るそうだ。見送りをしよう」
「はい。あの、お父様…」
………
……
…
「はあはあ。アリー、会えてよかった。無事を聞いて授業抜け出してきたんだ」
「まあっ」
母屋で待機していたルードリックは息が荒れている。
よほど時間を繕ってきてくださったのだろう。
でもアリコスにはそれもまた気がかりだった。
(そこまで?)
相変わらずの自分の愛されように驚く。
(これではどこも悪役令嬢とは思えない。ただの裕福で円満な家族の娘じゃない)
まあそんな事はどうでもいい。
自由に生きると決めたのだ。
私にとっての基本的で落ち着く生活を営む手札は揃っている。
そして今は好感度を上げるのだ!
「心配させてすみません。でもルーお兄様、先程お父様に手伝っていただいてポーションを作ったんです。昨日山で採ってきた薬草です。お父様にも合格をいただいたので安心ですよ」
「そうか。アリーが」
「ルーお兄様はがんばりすぎて怪我をしそうですから、特別に2本差し上げます」
「おお、ありがとう」
アリコスからポーションを受け取るルードリックお兄様は、心なしか、動揺の色をしている。
「もったいなくて使えないな。怪我をしないようにがんばるよ」
「はい。お気をつけて」
「ああ」
その時、ひょこっとルードリックの後ろで影になっていたケーカが、話に入ってきた。
「突然、どうしたんですか、アリコス様」
「え?どうしたってなんのこと?」
「だから、たとえルードリック様が、アリコス様捜索という臨時演習授業により、本来はそのまま帰還する予定だったのを、一旦帰宅することにしたとしてもですよ?アリコス様なら、こんな事、しませんよね?」
「つまり、らしくないと」
「そうです。らしくないです」
「ケーカ、変なこというな」
「お前にはわからないよな。鈍感王子ののサイモンだもんな」
サイモンまで出てきて、いつものメンツが揃ったのに、思いの外喧嘩は怒らなかった。
なぜかといえば、ケーカがすぐ、アリコスに視線をずらしたからだ。
「アリコス様はもっとわがままでいいんです。おかわいらしいから」
かわいいと言われたことは何度もある。主に家族から。
しかし『おかわいらしい』なんて言われると、さすがのアリコスも頭がぐるぐるしてしまう。
「おいケーカっ。アリコス様に言うことじゃないだろ」
「そんなこと言ったって、僕は思ったことを言ったまでで」
「だったら余計にタチが悪い」
「知らないよ。何にもわかってないお前のがタチが悪いっ」
「お前に言われたくないっ」
相変わらずの小声の口喧嘩合戦が始まる。
ようやく思い出した。ケーカはセサリーとくっつくのだ。
こんな天然たらしの口車に、よく乗らなかったなとアリコスは思う。
(セサリーは余程結婚したくない理由でもあるのだろうか。それとも単にケーカが、間が悪くて、浮気誤解され体質なのだろうか)
頭の上でぽわんぽわんと思考回路が回っていく。
しかし思ったところで全て憶測だ。部屋に戻ったらまず、セサリーの意思を確認しなくては。
「それじゃあもう行くな」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「気をつけてな」
「はい、お父様」
こうしてルードリック、その他サイモンとケーカと、お父様の付けた護衛の傭兵らしき人物2名は屋敷を発った。
「これがお父様の分です」
「おお!ありがとう、アリーの作ったポーションだもんな。大事にしよう。一生物だ。ルーが初めて魔法で割った石のとなりに置いておこう」
「ど、どうも」
お父様は子供の「はじめての〇〇」をアルバムにするタイプの人間なのだろうか。なんか、母屋の二階ってガラクタだらけの気がしてきた。
「それじゃあ私は研究をしてくるよ。いい結果を期待していなさい」
「はいっ」




