5 再会
昨日失踪した場所に、瞬間移動したようだ。
ここは階段と部屋とをつなぐ、いつもの廊下だ。
私の行方不明は結構なおおごとらしく、この館も、窓から見える屋敷も人がいない。
とりあえず執務室に行けば誰かいるだろう。
そんな安易な考えで、移動する。
誰ともすれ違う事なく執務室についてしまった。ノックをして名乗る。
普段通りの動作なのに、なんと言えばいいか、絶対に怒られるに違いないと考えてしまうたび、手を動かす事がためらわれる。
「あ、アリコスです…。どなたかいらっしゃいますか?」
「アリコス!!」
声とほぼ同時にドアが開けられ、がしっと抱きしめられる。
お父様だ。
「アリコス!心配したよ。何をしたんだ?いや違うな、どうして瞬間移動なんか…。魔力を使い果たすと死ぬかもしれないんだぞ」
(その辺は大丈夫ってわかってやりましたー)
余計なことを言うと言及されそうだから、適当にあしらおう。
それにしても瞬間移動立て続けに使わなくてよかった。
「昔からやってみたくって。おとといは着火《》が使えたから」
「おおおおっ。消しなさい」
お父様のYシャツが焦げそうになった。どこも黒くなっていなくて、アリコスも安心する。
「ご迷惑をおかけしました」
「ああ。心配はしたが、失敗は誰にでもつきものだ。私もアリコスを森に行かせた張本人だからな。気にするな。それよりもお前を探していた他の者らに礼を言いなさい」
「はい」
怒られなくてよかった。
ただ私を部屋の前に置いて、お父様がマクスに撤収するよう指示を出す声が聞こえる。
自分自身、捜索で見つかる事を期待していたが、これは申し訳ない。
「ルー達に会うのはあとでな。他に領民も有志団体を作ってくれたようだから、あとで礼をしなければ」
「領民の方々まで!?」
「ああ。一部にサイモンが触れ回ったようだ。いやぁそれにしても大事に至らなくてよかった。その様子だと魔力量が回復してから瞬間移動をしたのだな。いい判断だ」
「じゃあ今後も魔法を使っても?」
「いいやだ……」
究極の上目遣いで、高速瞬きする。
「だ…」
あともう少し。目がチカチカしてきたが、もう少しでお父様が折れる。
「だーっ。魔力量を考えながらな。ただし瞬間移動はもう使うな。心が持たない」
「わかりました」
どのみち瞬間移動は1日1回では、泊まり込み確実になるのでやめようと思っていたのだ。
自給自足のサバイバルは嫌いではないが、毎日三食のご飯と、ふかふかのベッドと、モンスターを殺さなくていい生活のほうが好きだ。
「そうだお父様、薬草を持ってきました」
「どこに?」
「あ、えっと私の館に…置きっ放しです」
「取りに行かせよう」
「それともう一つ!お父様の研究はポーションを作る事ですか?」
「そうだな。正確には低級ポーションの材料から中級ポーションを作る事だ」
「へ?そんな研究聞いたことがありません」
「もちろんだ。私が第一人者だからな、ハハハ」
お父様。それ絶対失敗します。
だってそんな事したらゲームの課金要素がなくなっちゃう。
「やり方を教えていただけますか?」
「いいだろう」
「ありがとうございます!」
よし、これで次にダンジョンに行った時も安泰だ。
(リアルじゃ一層、ポーションのストックがないとね)
ふつうにダンジョン行く時も、余程レベル高くて自信ないと、ポーションなしは自殺行為だ。
今回大した怪我をしなかったのが不思議なくらいだ。
(そうだ、あとでステータスみよ。何かしら上がってるでしょ)




