1 HPはどこに?
「では着替えましょうか」
なんでもワンピースから動きやすて、怪我しにくい服に着替えるらしい。若干時間がかかりそうだから、セサリーが服を選んでいる間、小声でステータスを開いてみた。
《フォアミーが施行されているため、ステータスは本人にしか閲覧できません。ステータスを開きますか?
YES/NO》
YESに触れ、ステータスが表示される。
《名前:アリコス・カルレシア
年齢:12歳(子供)
レベル:1
職業:未定
称号:〈ステータス持ち〉〈ユーザー〉〈転生者〉
髪:白薄紫 瞳:紫 肌:白
魔法属性:青緑
魔力量:推定140以上。Bクラス(解放前)通知▶︎ …
スキル:〈貧乏性Lv.19〉▶︎レベルアップ〈高飛車Lv.5〉〈知識欲Lv.6〉▶︎レベルアップ〈舞踊Lv.3〉〈魔法学Lv.6〉▶︎レベルアップ〈護身用剣術Lv.3〉》
見たところ、〈貧乏性Lv.19〉と〈知識欲Lv.6〉に1アップ、〈魔法学Lv6〉に2アップしている事以外、変化はない。
問題は魔力量だ。
通知に触れるとまたページが表示される。
《通知▶︎魔法の使用により魔力量が減少しました
通知▶︎睡眠をとったので魔力量が全回復しました》
「アリコスお嬢様ー失礼しまーす」
「ステータスクローズ(小声)。入って」
セサリーの選んだスパッツとTシャツのコーデに着替える。アリコスはその間も考えることをやめない。
ゲームと違ってこのステータスにはHP、SPの欄がない。そのため、魔力量がSPを示しているとすれば、HPは何が示しているのだろう。
HPがゼロになったら死ぬ。普段死ぬと[セーブポイントからやり直す]という選択肢があった。しかし今はセーブポイントも何もない。
もし今日本当に、初級ダンジョン《裏山》に行くのなら、HPを確認しながら進み、引き際を間違えないようにしなければ事実上死んでしまう。
(そうだ、ダメージを喰らえば通知が来るはず)
「着替え終わりましたよ。どうですか」
ジーンズがあればもう少しピシッとするはずだが、これはこれでいいコーデだ。
しかしこんな事は生死に比べればなんて事ない。
「セサリー、私を殴って」
「は、はい?」
「私を殴って」
「私なにか…」
「なにもないわ。私が生きるか死ぬかの瀬戸際だからよ」
ダンジョンに行かないという選択肢ももちろんあるのだが、それはスティラに先を越されそうで、なんとなく嫌だ。
どちらかというとスティラより先にダンジョンを制覇して、悔しがらせたい。
セサリーがどんなに辛そうな顔をしてもだめだ。
「…殴りますよ?えいっ」
泣きそうな顔で握られた拳は、とてつもなく弱く、叩かれた左腕は何か当たった、かもしれない程度の感覚しか伝えない。
「これじゃだめよ」
「えーー……」
「あたりまえじゃない。もういいわ。試すだけ試すから」
「試すって…」
ドア付近に立つセサリーを見ながら、着替え室へ入る。
「いいから、セサリーはカイの手伝いをしてきて…」
が、着替え室の段差につまずき、派手に転んだ。
「大丈夫ですか!」
「ええ。極めて平気よ。早く手伝ってきて」
角がぶつかったお腹と、スライディングした膝、そしてガンっと音を鳴らした頭が痛い。
でもこれで絶対ダメージを受けた。今だからこそラッキーだ。
セサリーは、試すってなにをという疑問を自分で消化してくれたらしい。回れ右して部屋を出て行く。
「さてさてさて」
よっこらせとばかりに立ち上がり、鏡と対峙する。
「ステータスオープン」
《名前:アリコス・カルレシア
年齢:12歳(子供)
レベル:1
職業:未定
称号:〈ステータス持ち〉〈ユーザー〉〈転生者〉
髪:白薄紫 瞳:紫 肌:白
魔法属性:青緑
魔力量:推定140以上。Bクラス(解放前)
スキル:〈貧乏性Lv.19〉〈高飛車Lv.5〉〈知識欲Lv.6〉〈舞踊Lv.3〉〈魔法学Lv.6〉〈護身用剣術Lv.3〉》
さっきのと変わりばえしない。
じゃあHPはないのか?リアルタイムで徐々に体感して弱っていくタイプ?
それならそれでいい。
初級ダンジョン《裏山》が今から行く山である事を確認すると、ステータスを閉じる。そして袋とスケッチと、いつも護身用剣術の稽古で使う真剣を持ち、走ってセサリーを追いかける。




