2 眠ってる間に
「さて、私が眠っている間のことを教えて」
「お嬢様の眠っている間、ですか」
うーん、とメイドは唸るように考えている。
「色々ありましたよ。まず泥だらけの旦那様が母屋にいらして…」
「泥だらけ?何故?」
「その、転ばれたそうです」
まあ、お父様は丸々と太ってるし、書斎仕事で忙しいですから無理に走ると、ね。
「それでお嬢様が死にそうだと言い出すんですもの。もうびっくりしちゃって」
思い出し笑いをするメイドを小突きたい。
それは私もびっくりするわよ。
死、なんて軽々しく言わないでほしいわ。よくわかんない内に転生してるけど…、痛かったには痛かったんだもの。
「急いで医者を呼んだんですがね、その間にリドレイ坊ちゃまがお嬢様を運ぶとか言い出して、奥様が病状が悪化するかもしれないと大層心配なさって。口論にまでなってしまって」
え?なぜ?
リドレイは倒れるでしょ。重すぎても、大丈夫だ、とか言いながら、落とすでしょ。やだよ、痛いの。
というわけで、お母様、ありがとう!
「それを旦那様が全て鵜呑みにして、もう助かる方法は無いなど言って倒れてしまって」
いやいやいや、いいよ。
私につられて倒れないで。きっと私より運ぶ人が大変だから。
って、私お父様の事をいじってない?
私らしくな……くな…。
アリコスらしくないんだ!
やっぱり駄目じゃん。
「幸い意識は失わなかったんですがね」
あー、よかった。
「自分も後を追うから、葬儀の為にレイお嬢様とルードリックお坊ちゃんに葬儀に来るように伝達しろとおっしゃって…」
えっ?嘘でしょ。
「本当に伝達したの?」
「それが…はい」
「なんで?」
「ホウキの速達便です」
「ホウ…。そう」
理由、聞きたかったんだけどな。
まあいっか。
「その直後に医者が来てお嬢様が無事だとわかったんですが、やはりリドレイ坊ちゃんが運びたがって…」
「平気だったのよね?」
「はい。そこの衛兵二人が運びました」
そっか、また彼らには申し訳ない事を。
衛兵達を見てぺこりと頭を下げてみた。
日本人の風情と言うのだろうか。この行動もつい一昨日にはやらなかった事と思う。
そして、角度の問題で見えるはずがないと言いたいのだろう。メイドは何をやっているんだという目でアリコスを見た。
いいじゃないか、伝える気持ちが大事なのだ。と精一杯に表してみたがスルー。
メイドは再び話だした。
(話を振ったのは私だけど、何もそんなスルーすることも…)
「そしてその後は、私が誠心誠意看病をしたんです」
「……」
意外としょうもなかった。
「……終わり?」
「い、いえ。昨日はリドレイ坊っちゃまがいらして、お見舞いと言って、お嬢様の手を握って体調を聞き。それはそれは微笑ましく」
その話が聞きたかった!
まあ、リドってば可愛いんだから。
と、侮っちゃいけない。
リドレイは対象キャラじゃないけど、人付き合いが良く、結構なイケメンに育ち、確かイネック王子と親友になっていたはずだ。
ま、イネック王子とアリコスが対決する時には、イネック王子の側についてたけ…ど……ね。
うわーーん。嬉しんだか、悲しんだか。
じゃなくて、今の内に可愛いリドレイやかっこいいルードリックお兄様や美しいレイシアお姉様方をアリコス側の味方につけなくちゃ。精神的にそうしていたい。
それに権力的には、私が王子の許婚になるんだもの。
きっと(いい意味で)ロクな大人にならないわ。
(…ん…?)
何かの取っ掛かりが取れたみたいに、突然に気がついた。
あれ?これまであの二人の衛兵っていたっけ?と、思ったままに考えてみた。
「話を戻すけど、あの二人の衛兵ってこれまでも屋敷に居た?」
「えっ?居ませんでしたよ?」
「じゃあ、もしかして…」
(もしかしてお父様の国務室の方々だったり?)
「その通りです。新しく雇ったのです」
えっ?
もう笑うしかない。
「ハハッハッ」
これはっ?
私への挑戦よね?
この浪費。これは流石にアウトでしょう。
あとでお父様に直談判しなくちゃいけないわ。