5 一刻も早く
「失礼します、アリコスです」
「どうぞ」
考え事をしているうちに着く。
これからはこれを癖にしよう。
そんな事を思い、扉を開けると、やはりマクスさんだけがいた。
「旦那様からの伝言をお伝えします。体力回復も兼ねて、山に薬草を採りに行くようにとのことです」
「薬草ですか?」
「はい。新しいポーションの作成に必要な薬草らしく。これがその薬草のスケッチです。決して見分けにくい薬草ではないのですぐ見つかると思います」
どうぞ、と渡されたスケッチは見たことのある緑の薬草で、ああこれか、とすぐに思い出した。
ダンジョン探索のチュートリアルで使われるような薬草だが、生息地が定まっており、思いのほか高値で売れる。
(確か…[体力10パーセント回復の低級ポーションのみを作れる。]んだっけ?)
他にも様々なポーションがあり、そのどれもが違う薬草を材料に使っていた。
毎年豊作なカルレシア領の山になら、なんらかのいい薬草が生えていてもおかしくない。あったら一緒に採ってこようかな。
(あ、でも混ざらないほうがいいよね。だからといってアイテムボックスは人前で使いたくない。でもセサリーは同行しそうだし…)
「他の草を持ち帰っても邪魔にはなりませんか?」
「それでは袋を二つお渡ししますので、分けていただければ」
「わかりました。同伴者はセサリーだけですか?」
できれば一人で行きたい。一人で行ってダンジョンに挑戦したい。セサリーだけなら巻けそうだし、カマをかけてみたが反応はどうだろう。
「その予定でしたが、だれか連れて行きたいのなら…」
「いいえ、そういうわけじゃないんですけど」
危ない。邪魔なのが増えるところだった。
さて、次は本題だ。
「あのもう一つ全く違う話なんですが、館の管理の一環で、使わないものを引き取ってもらいたいんです」
「わかりました」
「それだけじゃなく、他の物と交換してもらいたいんです。たとえばアロマキャンドルを市販のろうそくと交換するとか」
「なるほど、時価相場に触れたいという事ですね。わかりました、それも大丈夫です。手配しましょう」
すごい。すごく的確にしてほしい事をわかってくれる。さすがはお父様の右腕だ。
「ですがいくらかストックがないといけないものもありますから、ほどほどにしてくださいね」
「わかりました。その辺りはカイに任せているので、それでよければ」
「まあいいでしょう。これでもうよろしいですか」
「はい」
一昨日と同じテンポで、今日も楽しい仕事が終わった。あとはカイにアロマキャンドルを持たせて、母屋で交換するよう伝えるだけだ。
お金が浮く事にわくわくしている私は、果たして異常だろうか。
「ええ!まだやるんですかっ」
引き気味というか、あからさまに嫌そうな声を上げてカイは反抗する。
「ええそうよ。この部屋のアロマキャンドルをぜーんぶ母屋にやって、マクスさんに指示された量を持ち帰ってくる」
「そろそろ筋肉がついてきちゃいますよー」
「それはよかったじゃない」
最近思ったが、セサリーがカイに冷たい。
セサリーのキャラ的に、優しいのは私に対してだけなのかもしれない。それなら私がみんなをいたわってあげないとっ。
「そして筋肉痛?」
「そうです!でも無償の回復士はこの辺にいませんからね、あんまりこき使わないでください。せめて父さんとか…」
しまった。変な正義感のせいで、カイに的違いの質問を投げかけてしまった。
「じゃあカイがおっきな木から机を作るのね」
「ああ!それは無理っ。ろうそく運びまーす!」
(おお!セサリーナイス!)
やっぱりセサリーはこのままがいい。なんだかんだみんなからも慕われて、みんなも予定通りの仕事をしてくれる。
ある意味同い年の私でも、ちょっと難関度が高すぎる。
あれ?そういえばここでの19歳って、結婚適齢期じゃない?
セサリーはダッシュしているカイを見て笑っている。
だめだ、今はとても聞けない。
セサリー以外に気を向けようと、カイに向かって叫ぶ。
「ありがとー!ろうそくは一階の突き当たりでいいわよー」
「はーーい」
4本のアロマキャンドルを抱いて階段を降りるカイの声を見送った。




