2 《知》の魔法
暗くて気付かなかったが、ノエタールは、ずっとベルトにかかっていたホルダーから、黒くてかっこいい杖を取り出した。
「僕だって使えるよ。着火」
でもおかしい。同じ呪文のはずなのに、ノエタールの魔法陣は青く、赤い火がついた。
「なーんだみんな使えるのね。しかも赤い火」
「こんなの使えて当然だからね。その本杖の持ち方から書いてあるだろ?そんな基礎知識も本読みながらする人とか、僕こそ初めて見たよ」
感じ悪っ。
「知らなかったの。安全第一。基本でしょ?」
つまんなっ。ノエタールはそう思って矢継ぎ早に話を変える。
「はいそうですか。そういえばこの杖、魔力増幅機能ついてるらしいんだ。なのに赤い火だ」
「使った事ないって言ってなかった?」
「うん、初めて使ったんだよ。自分の魔法を」
「そうなのね、私と一緒だわ!」
「なーんだそっか。じゃあわかんないよな」
「なにが?」
「魔力の密度について」
「はい?」
「本当なにも知らないんだな。火は赤いとの青いのと…」
「はいはい!その辺は知ってるし、検討も付くわ。魔力の密度が高いとより温度の高い火が出るってことね?」
「そうだよ。教わったわけじゃないからよくわからないけど」
「ノエタールって何クラスだっけ?」
「は?」
「今の忘れて!」
ゲームにノエタールっていなかったような、いやいたんだろうな。こうして話してるのに何にも思い出せない。でも魔法使えてるしルィフラエル学園にいた事に間違いないはず。
この感じだとAランク?Bクラス?いや、ストーリーにいなかったならBクラス?でもAクラスにもモブはいたし…。
よくわからない。
「いいや。ルィフラエル学園に行けばわかるでしょう?」
「うんまあおそらくは」
「じゃあ今は一緒に《知》の魔法使ってみましょうよ」
「え?わかった」
束を解いてバラにする。1メートルほど離れた場所に陣取り、それぞれ動かす紙を決め、他は避けて置く。
「準備はいい?」
「もう始めてる」
「そう」
(間接移動)
変化がない。
ノエタールを見ると、杖を紙に向け、真剣に紙を見ている。
思い出したように枝を向けてもう一度。
(間接移動)
だめらしい。呪文の読み方が悪いのかと、ちょっとずつ変えながらやってみる。
(間接移動。間接移動)
変化しない。
今度は目を閉じて、紙を思い浮かべて唱えてみよう。
そうして枝を向けたまま目を閉じ、前に紙を思い浮かべると、不思議な事に草の上に紙がある様子がはっきりと思われた。
この調子で最初の唱え方をする。
(間接移動)
まぶたに浮かぶ紙は思いっきり奥へ動いた。
「アリコス!アリコス!」
「なに?」
「動いてる」
左からのノエタールの言葉に驚き、目を開ける。
本当だ。動いている。しかし瞬きをしても、その紙の様子は見えなかった。
「私、《知》の魔法が使えたのね!」
「すごいよアリコス。《知》の魔法は高度で、なかなか使えるものじゃないんだ。素質があるんじゃない?」
「そう?ありがとう!じゃあ私もう少しここで練習するわ。それで瞬間移動するわ」
「そうか、随分長くなりそうだね。頑張って!」
「ノエタールは帰っちゃうの?」
「うんそろそろ」
ノエタールが空を見上げるまで気付かなかったが、空は半分しか水色が残っていない。残り半分は夜の青と赤色だ。
「そっか。ノエタールも早く《知》の魔法使えるように頑張ってね!」
「いや僕は…いややっぱりアリコスに負けないよう頑張るよ」
「ええ!また会いましょう。明日も来る?」
「まさかっ。今度はいつだろうな。来月には絶対来るよ」
「長いわね」
「保険だよ。またね」




