1 魔法の使い方
『簡易魔法の使い方』を片手に一足先に外へ出て、人の来なさそうなそれでいて広い場所、倉庫の裏を見つけた。
ノエタールを待つ間に8ページ目の、[魔法の流れを感じよう]を読み直す。
目を閉じて、鼓動と手足の先に集中する。らしい。
[杖の持ち方]
手頃な枯れ枝を近くの木の下から拝借し、持ち方を見よう見まねで習得する。
体のうく感覚になれたら、目を開けて細くまっすぐな枝を持って、枝に集中し同じことをする。すると枝が体の一部になる。らしい。
ドスンッ
倉庫の内側から音がしたが、ノエタールくんなら平気だろう。倉庫に戻るのも面倒なので気にしない事にする。
[魔法の感覚を取り入れたら魔法を使ってみよう]
飛躍し過ぎている気がした。急すぎると思う。
本見出しの下にかかれた、注意書きだけのページをさっと読んで、[魔力量が切れると危険です。きちんと配分して使いましょう。]という文に目を留めて、魔力量140は余裕だから大丈夫と息巻いて、次。
[初級魔法を唱えてみよう]
テンポが、早い。
すぐ下には数々の呪文が書かれている。短いと3文。多いと15文で、すべて3か5の倍数だ。
一番上の、火をつける魔法を唱えてみる。
「着火」
これがセサリーの言っていた口頭で魔法陣ができる代物らしい。確かに枝の先から青に近い緑色の丸い光が出ている。魔法陣といわれれば魔法陣に見えなくもない。
その先には青い火がある。チャッカマンのような青い火だ。
先ほどの木の下に秋らしくつもった落ち葉に火を近づける。
当たり前だが、燃えた。
焦ったアリコスは呪文を記載するページを3回も行き来し、《水》の魔法を見つけ、声に出す。
「消火」
ちなみに中級魔法だ。全くこんな危ないものは、この呪文の隣に書いていしてほしいものだ。
それにしても、まさかルィフラエル学園もこんな授業なのだろうか。前世ではあんなにみんなしてあこがれた魔法が、こんな簡単に独学で習えるものだと思うと、妙な感じだ。
「バカリコスー持ってきた、よ?アリコス?」
ノエタールは言われた通り本の束を抱えてきたが、入り口にアリコスの姿がない。あのおてんば娘の事だから、変なところにいるんだろうと、アリコスと何度か呼んでみる。
「ここよノエタールくん。裏にまわって」
「わかった」
そしてノエタールは一目で、アリコスがやばいやつだと思った。草で青いはずの地面が若干黒くなって、水がタプタプに乗っている。何をしたらこうなるのだろう。ランプのあかりが消えていない。この火がこぼれたのか?嫌な予感がしたのでそう思う事にした。
「ろうそくなくなるからそろそろ消したら?」
「うん。消火」
緑の光と水が現れて、ろうそくの火に6滴ほど落ちて火を消した。
今度は成功したとアリコスは思っていたが、ノエタールは信じられないような目で見ていた。
「魔法使えるのか?」
「ええ簡単よ。本に初級魔法は書いてあるんだもの」
「すごいんだな、アリコスも」
「ノエタールくんもすごいわよ、色々知ってて。さて、吹き飛ばすやり方だけど試してみる?」
「僕が?やだよ、魔法なんて聞いてないよ!」
「平気よ。多分。それにちゃんと練習はするし。その紙の束で」
「はあ…」
「えっと…間接移動《チ・ヨ・…?》間違えた。今のなし」
杖の先に集まっていた光が消えた。
呪文を取り消した理由は正当にある。本によれば《知》と同じ発音の、《地》の魔法があるため、《知》の魔法は頭に思い描けば無詠唱で行えるらしい。
詠唱してもいいらしいが、Bクラスの魔法は騎士クラスなので、失敗を考えると後が怖い。
「頭の中でやるのに間違えたって思ってた?」
「え?」
「なんだ違った?」
「いえそうよ。なんでわかったの?」
「魔法についても何にも知らなさそうだから」
ノエタールはやはり面白そうに笑う。




