1 不思議な目覚め
アリコスはまず、寝たふりをした。
が、なんの音沙汰もない。
それにより、今にもまぶたは落ちそうになっている。
(丸一日寝て、どういうことだ!)
とつっこみたいのは山々だが、みんな気づいていないことだし、体を前に倒してみた。
(ふう、ずっと楽だ。朝が来たって感じがする)
絶賛リラックス中のアリコスだが、思考回路が止まったわけではない。
「
記憶が戻った。
↓
不幸な事が必ず起こる。
」
的な予言をしたからといって、簡単に屋敷から出して、王子様との名誉な婚約を破棄させてくれるような家族も、世間様もいらっしゃいませんから、回避は相当難航するでしょうね。
それはさておき、目先のことを考えましょう。
例えば、
「どうも、お父様、お母様、ルードリックお兄様、レイシアお姉様、リドレイ。アリコスは転生したらしく、前世同様の若々しい19歳でございます。なので、精神年齢はルードリックお兄様やレイシアお姉様の年上ですが、今後ともよろしくお願い致します」
なんて自己紹介は難しい、と。
すると今後に起こるであろう、言葉遣いを中心とした問題はどう解決すれば良いのだろうか。など、考えることや決めることは山ほどある。
それと、隣で寝ているこのメイドが起きる前に。
………
……
…
「……。」
「アリコスお嬢様。どうなさいましたか?」
「………うん。」
第二公爵令嬢付きのメイドは困った。
公爵からは色々と仰せつかったのにも関わらず、当の病み上がり(?)の第二公爵令嬢からは、曖昧な返事しか返ってこない。
「どうしましょう」
メイドの困りの原因は、あまりに深く考え込んで、周りの声が入ってこないアリコスのせいなのだが、アリコス自身も困っていた。
(どうしよう。このメイドが起きる前に、何かと考えておかないと…)
既に“この”メイドが起きている事に、気づかない様子のアリコスであった。
「「…大変なことになっちゃったなぁ・なりましたね…」」
そうして互いにため息をつくアリコスとメイドである。が、その拍子にちらりと向けた視線が偶然に合った。
「あ、ああ」
((ど、どどどどうしよう))
「ど、どうかなさったのですか?」
「い、いいえ…?」
「「……」」
メイドとアリコスの主な思考は同じであった。
視線を外せない。
そして言葉が詰まる。
何を話せば良いのだろうか。
ここまでがメイド。アリコスの場合は
視線を外せない。
そして話を隠せそうにない。
何か聞かれたらなんて応えようか。
「「……」」
今日は最低だ。一気に問題抱えてどうするのっ!ってどうすればいいのでしょう。
「あ、あのぉ…」
アリコスがまたもや思考の彼方へ向かった頃、メイドは硬直状態から解放されていた。
「えっと、お目覚めで体調が優れていらしゃらなければ、旦那様が直接お薬を持っていらっしゃると仰っていらっしゃ……」
「ゴホッゴホッ」
体調が悪ければもう少し考える時間がもらえるのだろうか。なんて事は少しは考えたが。
そしてようやくアリコスは気がつく。そうだ二人は、アリコスの身の回りの変化について話せばよかったのだ。
「い、っえ?体調は悪くないわ、よ?」
メイドとどのように接していたか、
「先程咳をしていらっしゃったじゃないですか」
空咳をした理由をどう説明しようか、私の演技ではなくてこのメイドが騙されやすい体質なのか、お父様にはいらっしゃらない方がいいけれど…。
アリコス、ただいま絶賛混乱中!
「い、いいえ。平気。長い時間喋らなかったからかしら。ちょっと喉が…、ね?」
「ふう、それなら良かったです。旦那様をお呼びしますね」
「待って!お父様は平気よ、その。伝えなくて」
メイドはきょとんとして、ベットの隣に座りなおした。
「さて、私が眠っている間のことを教えて」