1 せっかくだから調べてみよう
長い長い道はひとりでいると、走っても怒られないので早く進める。
そういえば今日のアリコスの服装は、部屋着を早速取り入れて、ひらひらし過ぎていないタイプのドレスだ。ワンピースをゴージャスにして重さを倍にしたイメージをすればわかると思う。
それでも普段に比べて、すごく動きやすい。
息切れに対応して4回、歩いて走るのペースを繰り返すと、もう第一倉庫についた。
「ラストスパートよ!」
一気に猛ダッシュし、壁にかかっていた提灯のような灯に、近くにあったマッチで火を灯す。
(ジェイってば、気が利いてる)
正確にはわからないが、この屋敷のほとんどの人は魔法が使える。何もないところから火を出すのも、飲み水を出すのもトレース並みの簡易魔法でちょちょいのちょいだ。とこないだセサリーに教えてもらった。
だからマッチも火消し水も不必要なんだろう。
ちょっとお行儀悪いが、まだ灯っているマッチの火を吹き消す。
ところがゴミ箱が見当たらない。
せっかくだしアイテムボックスを使おう。
「アイテムボックスに収納」
マッチが消えた。
成功?いやまだだ。あと取り出しさえできれば完璧だ。
そういえば、井戸は必要らしい。
いつだったか覚えていないけど、お風呂など、大量の水を魔法で出すのには割が合わないとかなんとか聞いた。
「魔法の本…」
灯を片手に、呟きながら中へ入る。
前はとにかく薄暗くておばけがでそうだったけど、今は胸を張って歩ける。
(そういえば指南書の題名、前に聞いた気がする。ルーお兄様とかかな?なんて題名だっけ?)
そして結論。魔法を使うのは当たり前のことで、この国の使える人はみんな、卒業するまで学園に通う。そして魔法を使うのと使わないのの精密な区別はない。全部個人任せなのである。
知っている知識に想いを馳せながら、それっぽい本を探していく。
(確か魔法の?…なんだっけ。せいれい…精霊?あったこれだ)
喜んで目の前の『精霊の魔法』を手に取ったが、思っていたのと違った。名前通り、精霊の使う魔法について載っている。隣にも『精霊図鑑』という本があったので、試しに棚全体を照らしてみる。
『精霊図鑑』、『英雄図鑑』、『召喚魔法の正しい使い方について』…。
どうやらこの棚は召喚魔法の話らしい。
(さっきゴブリンも載ってたけど、ダンジョンにいるのはまさか精霊?)
精霊をモンスターと訳すのだろうか?魔物の存在置き換えるなんて!
ゲームクリエイターが恨めしい。
とりあえず『召喚魔法の正しい使い方について』を手に取り、ひと通り見ると、隣の棚へ移動する。
この繰り返しで『簡易魔法の使い方』『魔法とは何か』『魔法の使い道』『魔法学のすすめ』、そしてお目当ての『魔法と精霊の古』を見つけた。
まだ三つも棚を見ていないが、6冊も集まれば十分だろう。
灯を机に置き、腰をかけて、本を置く。
(わくわくしてきた!)
一番それっぽい『魔法とは何か』には、魔法の基本知識が書いてあった。『魔法学のすすめ』も多少の違いはあれど、似通った事が書いてある。
[魔法はほとんどの人が使える、運動のようなものだ。しかし魔法自体も、魔法の限度や制限も謎だらけである。]
『魔法学のすすめ』の第一文だ。
どちらも読み進めると、昔から随分聞かされてきた知識ばかりが載っている。
ようするに、[こうして頭を使うことを諦めた人間は、魔法は精霊が与えるものであり、魔力量がその強弱を左右しているとした。いまは魔力量は測る事ができ、それによって使える魔法属性も、威力も変わるとわかっている。そして魔法は制限できるようにならないと、非常に危険である。]という事。
それが意味する事は、この本つまらない。
(次の読も)
そして学園のクラス分けと、主なダンジョンの入場許可はこの魔力量を基準にしている。
つまりステータスなんかに許可をもらわずとも、ダンジョンには余裕で入れる!
…はずなのだが、今朝セサリーに確認すると、裏山にダンジョンなんて物騒なものはないらしい。
次に開いた『魔法の使い道』という本は、攻撃魔法、守備魔法、召喚魔法、錬金術4部構成にその他を加えた、大まかな指南書のようになっている。
ざっと前の4つを読んだが、錬金術はやった事があるだけにわかりやすかった。
そしていい事がわかった。手先が器用なのは魔法道具の作成において、相当重要な事らしい。錬金術の見出しの下に、[もしあなたの手先が器用なら、付与魔法の付属も簡単にできるでしょう。]と書いてある。
「でも付与魔法ってなんだろう?」
「能力向上効果のある書体の、呪文のこと」
「そうか、それで課金ショップの武器は能力向上効果がついてたんだ。ならもしかして、それによって形状が変わったり…」
「するよ?例えばこの本」
開かれたページが出てきてびっくりした。
「きゃーーー!!」
と叫んだのもそのせいだ。
先ほどまで話していた声が、おっと、と言って本を置き、上へ逃げていった。
開かれたままのページには、ゲームよりたくさんの種類、デザインの剣が書いてある。
「ごめんなさいっえっと、もう叫ばないわ。驚いただけなの」
話しながら階段を登って声の主を追うと、耳を塞ぐ青年がいた。
あかりで照らすと足もある。
「それで、おばけには見えないけど。どなたかしら?」
ついついちょっと長くなってしまいましたが、初親族外のメイン男子です。の予定です。登場遅くなりました。




