4 ステータスを開いてみよう
「アリコスです」
「お入り下さい」
聞こえてきた声は、マクスのものだったのでアリコスは驚きながら扉を開けた。
「はい」
「旦那様はまだ部屋です。そしてこちらが先日頼まれたものです」
「はい」
渡された封筒を確認する。丁寧に、書類が分けてくれているようだ。
そしてアリコスが確認している間に、なにやら長方形に切りそろえられただけような、大きめの鉄の塊がセサリーに手渡される。
「これは?」
「先日おっしゃられていた、貯金箱です。この溝に貨幣を入れると、白銀貨、金貨、銀貨、銅貨でわけられ、それぞれ100枚まで入ります。また防犯用に魔法で、アリコスお嬢様以外がお金を取り出そうとすると火傷し、指紋が刻印される仕組みです」
「指紋が刻印…?」
恐ろしい響きだ。できれば一生、その刻印とやらを見たくない。
「ええ。指紋の鑑定など、我々でもできますから。これでもうよろしいですか?」
「はい。ありがとうございました。それでは」
「はい、それでは」
こうして執務室を出、部屋へ戻り、書類にじっくり目を通す。
改めて思うが、マクスは帰れオーラが半端ないが、聞けば質問にも答えてくれるし、仕事は絶対できる人だ。お子さんにリドレイと同い年の双子がいる事も、アリコスとしては点が高い。
(さすがはお父様の右腕ね)
こんなにマクスへの信頼が厚くなった理由は、手本のようにまとめられた資料にある。
我が家の在庫についての封筒には、アリコスが必要とするのを見越したように、シンプル家具、市販のろうそくをはじめとする相場はもちろん、普段から発注している店までまとめられているのだ。
「さすがね」
これを読み終えると、アリコスはすでに分別されているものから、一部を代用品との交換する作業を指示した。
そしてセサリーとカイが、母屋と、館の階段前の部屋を往復している間に、アリコスはステータスの確認をするという予定だ。
「よろしくね」
「わかりました」「はーい」
アリコスが二人を見送りに降りると、カルの気楽さにセサリーがちょっとした注意をした。
「ちょっとカイ?」
「いいだろ別に。仕事はするんだから」
「もうっ。それでは行ってまいります」
セサリーの視線がアリコスと噛み合うと、セサリーはようやく肩越しの掛け時計を見て息を飲んだ。だから大概の察しのついたアリコスは、大学生ってこんなもんだよなとすこし顔を綻ばせた。
「頼んだわよ?」
「はい」
それにしても、だ。セサリーやカイだけではない。こないだの掃除を頼んで以来、みんな私の前でも素を見せてくれるようになった。おかげでこちらは気楽だ。
さて、見送りが終わると部屋の鍵をかけ、着替え室に入る。
「ステータスオープン」
《通知一覧より通知の内容を確認できます》
一番上のステータス機能についてに触れる。
《フォアミーが施行されているため、ステータスは本人にしか閲覧できません。ステータスを開きますか?
YES/NO》
もちろんYESを押す。
すると黄金色の光が一面に広がった。
これはすごくまぶしい。思いっきり目を閉じ、ゆっくりと開ける。
《名前:アリコス・カルレシア
年齢:12歳(子供)
レベル:1
職業:未定
称号:〈ステータス持ち〉〈ユーザー〉〈転生者〉
髪:白薄紫 瞳:紫 肌:白
魔法属性:青緑
魔力量:推定140以上。Bクラス(解放前)
スキル:〈貧乏性Lv.18〉〈高飛車Lv.5〉〈知識欲Lv.5〉〈舞踊Lv.3〉〈魔法学Lv.4〉〈護身用剣術Lv.3〉》
うわー。転生者って書いてある。本当に死んで、新しい生をもらったんだと肯定された気がする。
次に魔法属性。これは魔力量によって変わるそうだが、詳しい話は国家機密とか言われていて、一般にもゲームでも明かされていない。でも学園で大体教われるだろう。
それにしてもスキルは不名誉なのが多いな。他はアリコスの習い事。
「新しいスキルって取れるのかな?」
《音声認識が完了しました。検索しています……》
なんか急に出てきた。
便利な機能が付いているのはありがたい。
《スキルの習得について…各条件を全てクリアし、基準値まで実践していた場合、稀にあることができます。スキルの習得は拒否できません。取得条件を知ることはできません。何度でも挑戦できますが、その度に全条件をクリアする必要があります》
ありがたいけど、すごく曖昧だ。ゲームセンターの確率機を思い出す。
そしてステータス画面へ戻る。
それにしても、この年でBクラス。
魔力量の大きさと政略結婚で、家柄が今に落ち着いていると教わったが、さすがは公爵家。さすがは将来Aクラス。半分に抑えられているとはいえ、もう魔法が使えるということだ。しかも瞬間移動も!
(それならせっかくだし、今すぐにでもその手の本を読み漁ろう!)
こうしてアリコスは部屋に、第一倉庫にいます、と置き手紙を残して一人で部屋を出た。




