3 お父様が期待してるようです
翌朝、目が覚めると体調が悪い。
本当はすぐにでもステータスを確認したかったが、セサリーが心配して体を起こさせてくれなかったので、夕食まで大したことはしていない。とにかく、ずっと横になっていた。
その間なにかあったかといえば、カイが通常運転で働いてくれていたことと、セサリーが看病した事、そしてレイシアお姉様が明日、ルィフラエル学園へ戻ると決まった事だ。
そして夕食時。
アリコスはすっかり良くなっていた。
「アリー大丈夫?」
「はい。昨日の夜更かしがたたったようです」
睡眠時間は一時間遅れたかくらいで、そもそも風邪もひいていない。
微熱と気だるさだけで寝込まされていたのだ。うちの家族もセサリーも心配性が過ぎる。
おかげで全快だ。
「そういえば第一倉庫、アリーが掃除したそうだな」
「はい」
「あそこによく来ている、ノエタール・ファムリス君。今日会ったら喜んでいたぞ。アリーは会ったことあるか?」
「いえ。お名前自体初めておききします」
「そうか、彼はファムリス侯爵に付いて、以前からよく来ていてね。3人兄弟の末っ子で…どうちゃら…アリーと同い年で……どうちゃらこうちゃら……」
「へえ」
正直こんな話どうでもいい。
こんなことよりよっぽど、『五作目ー倹約ノートー』に書けることを探したい。
なので今も、右から左へ情報が流れて、話についていくのに苦労しているところである。
「他にも私の友人のスモーラー侯爵の子供に、レノセ君というのがいるんだが私の研究室にいる間、その子はいつも家で本を読んでいるそうだ。スモーラー侯爵に似て非常に勉強熱心な子でね、アリーの良き競争相手、いやアリーはもっとすごいか。なんせ私の子だからな」
「そうですね」
「あとは…どうちゃら…の…どうちゃら…レディアス君も…どうちゃら…マリフェイス君もすごい……どうちゃらこうちゃら……でもアリコスはもっと…どうちゃら…」
「そうですか」
ところでお父様は朝からこんな調子、らしい。
私の昨夜の宣言以降、ずっと上機嫌、らしい。
寝込んでいる間のことを、夕食前にリドレイが色々と教えてくれた。
「そういえばフィリアムス侯爵が今度会いたいそうだよ」
「フィリアムス様が⁉︎」「へぇー」
「ああ。レイはもう会ったことがあるよな」
「ええ。一家全員とお会いしました!すっごいイケメンよ、アリー」
「おいっ」
イケメンの話をするとお姉様が食いつき、お兄様が面白くなさそうに、俺とどっちがかっこいいという顔をする。
「もうっお兄様の方が好きですっ。決まってるじゃないですか」
そして親の前でよくもまあこんな恥ずかしいセリフを言う。
これがいつもの我が家だ。
お父様の買い被りから、ようやく解放された実感が湧く。
「そういえばイネック王子様も会いたいそうだ」
「誰に誰に?」「誰にですか?」
「アリーに」
「え!!!」「「え?」」「へぇー」
一番驚いたのはやはり私だ。
受け流していても、イネック王子が?この私に?こんな辺境…でもないけど。
これでイネックと家族の心中で婚約が決まりでもしたら…最悪だ。
(たしかに一番推しだったけど!でも現は…)
そう思いかけて、リドレイと目が合った。
(…そう、リドだよ)
リドレイに微笑みかけると、お父様へ向き直った。
「あのお父様、私の早とちりならいいのですが、一つ申し上げても?」
「なんだ?」
「私、まだこ、婚約はしたくなくて…」
「そうか。正直なところ、それでイネック王子の目に留まればとも思っていたが、気にするな。婚約パーティーまで待たずとも、アリーには多くの縁談が来るだろう」
「…はい…」
「なにか不満か?」
「い、いえ」
実はお父様のあまりの自信げな様子に、少し不安になった。
でも実はいい事ではないだろうか。たとえ家柄の為でも、縁談が入れば自然とイネックとの婚約はない。だから当然、誕生パーティーの婚約発表もない。そうすればアリコスはストーリーに登場しない。
(という事はとばっちりも食らわない!欲を言えばイネックに会いたくないが、これでも十分最高だ)
「すごくとても最高です」
「それはよかった」
今度は逆にセドリックが困惑し、その日の夕食が終わり、翌日レイシアはペガサスの馬車で飛んだ。
そしてその翌朝。マクスから用意できたと連絡を受けて、アリコスはまた執務室へ訪れた。




