3 決行の時
きっと、ルードリックお兄様もレイシアお姉様もまだ出してまう。お父様だっていつ王宮に呼び出されるかわからない。
そうしてレアな夕食が始まる。
「いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
そういえばアリコスが私になって以来、全員が館にいるのが当たり前と思っていたが、そんなことはない。
本来一緒に食事をすることこそ、稀なのだ。
「一昨日の外出はどうだった?」
「色々な場所を見てまわったのですが、みんな笑っていて穏やかでした」
「ああ、それはよかった。領民の笑顔が一番だからな」
「さすがはお父様ですね」
アリコスはこういった話の間も、ずっとピリピリしていた。ルードリックお兄様が先に話をしてしまえば、今日はもう機会がなくなる。そんな気がしたのだ。
そのことはルードリックも原因から気がついていたので、アリコスには気を使った。ただルードリックは当然のように、孤児院のことについて話すのだと思っていたのだ。
「アリーは今日、孤児院へも行ってきたんです」
「なんと…」
「ほら、少し前まで私が通っていたところです」
「ふむ、あそこか。どうだった?」
「それはもう!楽しくお話しできました」
「そうか…。そうかアリーもついに、領民を気にかけられる年になったのだな」
「ああ、あなた泣かないで?」
お母様が白いハンカチを差し出した。お父様は目元を拭いて、お母様と手を繋ぎ、アリーも親離れが近いかもしれない、とささやいてはまた涙を拭くのだ。
こうして世間話にキリがついたら、アリコスは右手に持っていたフォークを置いて、慎重に言葉を選ぶ。
「そんな事ありませんよ。でも私、学園の生活に向けてやっておきたいことがあるんです」
「なんだ、言ってみなさい」
「自分の事は身の回りの物を、自分で揃えるようにしたいのです」
「……」
いやな沈黙が流れた。
なんと言われるのか、一気に好感度が下がったか、など要因は考えられる。アリコスは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
アリコスはお父様とお母様に交互に向けていた視線を、レイシアお姉様に移す。
レイシアは途端にしまったというような顔をして、あっけなくそらされた。
普通に心にグサッときて、チキンの載っているあたりのテーブルクロスへ視線を落とす。
(だめよ、こんなことで凹むなんて。私はまだ愛娘なんだから!)
思い直して正面のリドレイの様子も伺う。
彼は相変わらずきょとんとしているが、目が合うと口元が緩めた。この天使の笑顔にアリコスも微笑む。
続いて隣のルードリックお兄様に移す。アリコスの視線を感じると目元だけ笑って、目でお父様をさした。
それに習ってお父様を見ると、先ほどの白いハンカチを掲げていた。
「この際だ。正直に言いなさい。本当は、何がしたいんだ?」
お母様もルードリックお兄様も促すように頷く。
レイシアお姉様は俯いたまま耳を傾けている。
リドレイはやはり笑ってこちらを見ている。
こんなにも寛大な彼らを讃えたい。この時点で、頭を冷やせと外に出されてもおかしくないはずなのだ。
(でもみなさんごめんなさい、私、もっと娘らしくないことを言います)
「はい正直に言います。私、アリコス。我がカルレシア家の出費を、根本から組み直したいのです!」
「何故だ?」
何故とはどの何故だろう。
どうしてそんな事をしたいのか、に違いはないが、なんといえばいいだろう。
「私にはどうしても我が家の出費が目に余るのです」
「ほう?」
「試しに私の屋敷にあるものから、いくつかリストアップしてみました。セサリー、持ってきて」
「はいっ」
ここまで来るのにちょっとした打ち合わせをしておいた。三冊のうちの2冊をアリコスの元へ、『五冊目』をお父様の元へ、という話だ。
セサリーがアリコスの所へノートを持ってくる。『五冊目』に書いた【ろうそく】、【家具】、【ドレス】などの項目についての記述には、既に付箋が貼ってある。
お父様が相手だと緊張はするが、大丈夫。どんな質問にも準備万端だ。
「一冊しか用意できませんでしたが、どうぞご覧ください」
「うむ」
日本人の私に将来があったら、こんな風にプレゼンしていただろうか。日本にあるのだから、この世界にもあるのだろうか。
それならきっと大丈夫だ。緊張はもう、適度にほぐれてきた。
お父様以外のみんなに目を配ってから、深呼吸をする。そしてじっくりとノートを読んでくださっているお父様から目を離さない。
「ふむふむ」




