4 予想外のお出迎え
みんながヘトヘトになった頃、園長先生がお茶にしよう、とみんなに呼びかけた。
「リコは私の隣ね!」
「いや俺の隣だ」
「コースの近くは嫌」
「じゃあ、ケーカのとなりー」
「どーぞどーぞ」
「えー、ケーカは俺らの隣って決まってるんだ。なー?」
「あ、うん」
かくれんぼで仲良くなったマーカスとトーマスに腕を引っ張られ、ケーカも困っているらしい。
その横でケイトも不満を言っている。
「ケーカは私の隣なの!マーカスはお兄ちゃんとこいけばいいでしょう?」
「ケイト、もういいよ。ケーカの前に座ればいいでしょう?」
「でもセシルが座りたいんじゃ…」
「しっ!それは内緒でしょう?」
ケーカは割とモテるらしい。昔っから顔はあまりに気にしないタイプのアリコスだが、まさか女好きのケーカは子供にまで人気があるとは。
(イケメンも大変だな)
そうこうしているうちに、子供達の対決は終わった。
年齢バラバラで11人の子供のいる、この孤児院で長机に園長とみんなが並んで座る。園長はお誕生日席だ。
アリコスの隣にはシーマとセシル。目の前にはティース。
セサリーの隣にはゴードンとレイカ。目の前にはコーミアがいる。
そしてケーカの隣にはマーカスとトーマス。目の前にはローズがいる。
「それでは、いただきます」
「いただきます」
みんなが口々に言うのに合わせて、アリコスも手を合わせた。
「リコ、お話ししようよ」
「ええ」
「なんのお話?」
「そうね」
アリコスは来た時から聞こうと思っていた事を口に出してみる。
「アリコス…さん(?)の事を知ってる?カルレシア公爵家の」
するとティースが嬉しくなさそうに声を出した。
「えー」
「どうしたの?」
「だってアリコス様ってあの怖ーいひとでしょう?」
「え?でも可愛らしいひとだって聞いてるわ」
「俺も俺も」
ティースの言葉が胸に刺さったが、アリコスはシーマのかわいいもの好きにいくぶんか救われた気がした。
あとトーマスの賛成票にも。
「私、アリコス様は怖いけど優しい人だと思うの。だってルードリック様の妹だもの」
「俺も俺も!」
でもどうやらトーマスは、学校に一人はいる便乗するタイプのやつらしい。
「じゃあアリコス、さんがここに来たらどう思う?」
「俺怖いから遊びたくない」
「私怒られたくない…」
「そんなに怖いの?じゃあ私も遠くで見てる」
「俺も俺も」
自分に敬称をつけるのもどうかと思うが、アリコスとしてここに訪れたら、一緒に話してくれているティース、セシル、シーマ、トーマスの全員に嫌がらるようだ。
よかった、リコと名乗って。
アリコスはつくづくそう思う。心なしか、一列挟んだ先にいるケーカもほっとしたように見える。
「ケーカケーカ!ケーカの女の子のタイプってどんな?」
「どんな?」
無言のローズも含め、ケイトとマーカスがケーカをじっと見ている。
「どんなって…優しくて、綺麗で」
「それじゃみんなそうだよ」
「そっか」
「他には?」
「えっと三つ編みで…」
(三つ編みで…)
アリコスも心の中で復唱する。そういえばセサリーも三つ編みだ。
「笑うとえくぼがあって」
「私えくぼないや…」
ケイトが悲しそうにする。
いつの間にかセシルもトーマスも、ケーカの話に聞き入っている。
そしてアリコスは席が対面なので、ケーカの顔が若干赤くなっている事と、ちょうどセサリーが笑ったのがみえた。
(あ、えくぼがある)
「面倒見が良くて…」
「私、レイカとコーミアの面倒見てるっ」
ローズが小声でささやき、手をグッとしている。
(はい、セサリーは私みたいなのをちゃんと面倒見てくれています。アリコスお墨付きです)
「あとは、一個下っ!」
「ケーカは20歳だからつまり、えっと19歳っ⁉︎」
(え!ケーカって20歳だったの?)
「あーあ。19歳か…」
「大丈夫、ローズが19歳になるまで待ってくれるよ」
そのまんまセサリーじゃない、子供に言う事じゃないわよ。そうアリコスは思った。