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貧乏性の公爵令嬢  作者: あまみや瑛理
はじめまして、ヒロイン
33/121

1 初めまして、スティラ

全員がご飯を食べ終わると、少しお昼寝をして、また馬へ乗る。


「えっと、花屋でしたよね。さっき止まっていたところのすぐ脇です。日が暮れる前に帰れるよう、早く行きましょう」

「今度は安全にゆっくりとな」

「はいはい、わかりましたよ」


日暮れか…。

個人的には優雅で好きだけど、昼寝はしない方がよかったかもしれない。

そんなことを、ルードリックお兄様の腕の中で思っていた。


「着いたぞ、アリー。あれだ」


今朝から沢山のお店を見てきたが、ひときわ大きな看板が目に入る。

『マコリの花屋』


「マコリ…」


感激か緊張か、それともアリコスの癖か、復唱してみる。

これはゲームにも出てきた、変更不能なヒロインの養父母の苗字である。

ヒロインは本当に居たんだ。しかもこんな近い場所に。

正直、これだけの確認材料が揃っていても、ゲームに酷似した別世界だと疑っていた。それを一瞬でかき消すだけの力を持っていた。この、声は。


「わあ!本物のルードリック様だ!初めまして、スティラです!ずっとお会いしたかったです。ところでイネック王子様はなかなか王宮の外へ出てこないって本当ですか?私、イネックが一番好きなんですよー。あ、そういえばアリコスってキャラ知ってます?めんどくさいから早く婚約潰しておきたいんですけど…」


ここでーす、ここにいまーす!あなたの話しかけている、わたし()!ルードリックお()様の腕に抱かれていまーす!ドヤ!

そう言ってしまいたい。が、ルーお兄様の手前、好感度も下げたくない。

というか、ヒロインがイネック推しってチャンスなのでは?

いやいや、悪役として私が出るからバリバリアウトでしょ。回避対象でしょ。

それと早まらないで。記憶戻ってすぐの婚約者いらないアピールの返答見る限り、まだ何も起きてないから。


「どうしましたか、お嬢さん。あなたがスティラさんですか?」

「イケメン…。だけどイケメンなんて正直見飽きてるし、えっとお名前は?」


(副音声、みーんなに聞こえてますよー!99%転生者のスティラさーん)


「ケーカです。ケーカとお呼び…」

「じゃあケーカ…ああ存在感薄かったからすっかり忘れてた。あのケーカね!それならイネックとどうやったら会えるかわかるわよね、教えて?」

「イネック()()()はですね、王宮にいけば会えると思いますよ」


ケーカがよくできた営業スマイルを浮かべて、ピリピリしている。


「そんなのあたりまえじゃないっ!もう王宮には言ったの。だけど『庶民はだめだ』って追い返されちゃって」

「へー」

「名前は伏せたけど、侯爵家の娘なんだって言ったのに信じてもらえなくて…」

「へー」


もう行ってたのね?

それで追い返されたのね?

なら諦めなさいよ。


(あーだめだ。この子とは仲良くなれそうにない。それにしてもこの子、えっとスティラさん?口軽すぎじゃありません?それじゃ余裕で異常だって疑われちゃうでしょう)


しかも会った人(見たことあるゲームキャラクター)に、端から馴れ馴れしくしてるし。いつの間にか圏外(ゲームに名前のないキャラクター)から恨み買ってても知らないわよ。

というか庶民が侯爵家の娘を語るなんて。モラレス家に生き残りがいると、サンフラン公爵に知られでもしたら、消されるかもしれないのに、なんて大胆な子でしょう。それじゃあわざわざお母様が匿った意味が、全くないじゃない。あ、それとも馬鹿なのかな?


「私、どうしてもイネックに会いたくって」

「ふーん、そうなんですか。僕には力になれそうもありませんね」


ケーカはもう疲れたらしい。キレないでよく頑張ったよ、うん。

安心して戻っておいで?


「何を言っているんだ。アリーが友達になりたいと言っている子だぞ?助けてあげようじゃないか」


(さてさてさてさて?何をしてらっしゃるの?ルーお兄様?)


私、友達になりたいなんて言ってないし、今すぐこの子のそばを離れたい。

ああお願い、アリーと私を呼ばないで?


「なぁ、アリー」


早速フラグ回収ぅ!あ、り、が、と、う、ご、ざ、い、ま、す。


「なんでしょうお兄様?」


ここは冷静に冷静に。

もしかするとシステムによって、聞こえている話が私と違うかもしれない。ヒロインなんだからいい子に違いない。

ってそんなわけないか。ルードリックお兄様に色目は使うし、ケーカも頑張って耐えてる様子だったし。とんでもない主人公だ。何も知らない善良なプレイヤー達が思いやられる。

あーどうしよう。とりあえず日本人ですかって聞こうか?私達とイネック王子様への無礼を注意しようか?あまりしたくないけど、スティラはまだ庶民だからなんとでも言えるし…。いやまずは


(わたくし)、イネック王子様とはまだ婚約しておりませんし、イネック王子様は私にはとてもとてももったいない方だと思っています」

「でもあなたはねイ…」

「きっとあなたはイネック王子()への憧れから、()()わた()しに敵対心を見せているのでしょうが、無用な心配です。まずあなたは、ケーカ様と私とお兄様、そしてイネック王子様に謝り、態度を改めなさい」


堪えきれず、怒り心頭に発する。

スティラはムスッとした表情で30度体を傾けた。

どうやら彼女は土下座や90度に腰をおるつもりはないらしい。


「みなさま、申し訳ございませんでしたっ」


最低限の謝罪の言葉を述べると、スティラはマシンガンのように反撃を始めた。


「でもね、アリコス嬢、私がルィフラエル学園に入ったら授業でも勝ってやるし、イネック王子様やルー様やケーカ様だけじゃなく、みんなに豆腐とかタピオカとか振舞って、絶対絶対見返してやるんだからっ!」

「そうですか、頑張ってください」


ケーカを真似て最大限に怒りを抑え、営業スマイルをしてみせた。

しかし実際は全然怒りが抑えきれていない。ルードリックは放置していたが、ケーカとセサリーはわかりやすく、サイモンも内心ではものすごく焦っていた。


(もう嫌われて好感度マイナスでも気にしないっ。絶対この子と馬合わないっ。こいつ、見た目子供の癖にムカつくーーー!)


アリコスは自身も子供である事を忘れ、目に見えて苛立った。


(あのねぇ、あんたほんと口軽すぎるのよ!庶民がアリコス(貴族全般)に勝てるなんて、ヒロインなら最初っから知ってるでしょう!)


何か去り際にいい台詞ないかしら。

そうだ。豆腐やタピオカが何かわかっていたら怪しまれるわね。


「あなたが作る、得体の知れないその料理で食中毒が起きないことを願います」


ゲームに食中毒ってあるのか?という疑問も浮かんだが、ここはひとまず構わない。


「お騒がせしました。ルーお兄様、もう行きましょう」

「あ、ああ」


ルードリックお兄様が馬を動かすと、みんながそれについて行く。

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