5 ヒートボアのサンドイッチ
ルードリックお兄様が人通りのない道を、たった二、三分馬で駆けると、ひらけた場所があった。
「ドウドウ…。止まってくださーい!みなさんここです」
ケーカのよく通る声を合図に、全員が速度を緩めていく。
ケーカが馬を降り、それに倣ってアリコス達も馬を降りる。
「ケーカ!走るなら走るといえ!というかアリコスは馬に慣れていないんだぞ?振り落とされたらどうするつもりだったんだ!」
ルードリックお兄様が怒鳴っている。
(どうしよう。私が魔法でバリアでも作れればよかったのかな?ついでに振り落とされても魔力探知でわかるように…。でも、私まだ魔法使えないし)
「大丈夫ですよ」
「大丈夫に決まってるだろ!この俺が最新の注意を払い、バリアを張って…あ。アリー、痛くはなかったか?」
「ええ。ルーお兄様のバリアのおかげで」
「それは良かった」
それじゃ僕はこれで、とケーカはそっといなくなる。
「ルーお兄様はお優しいんですね」
「ん、何故そう思う?」
「私のために気をつかってくださったので」
「当たり前じゃないか。大切な妹で、大切な家族だ。さっきの、本当に気にするなよ?」
『ご息女がそんなだなんて』
失望したような声が耳に残る。
でも彼女はまだ半信半疑だったはずだ。大丈夫、まだ平気。それよりも心配させちゃいけない。
「私は大丈夫です」
「アリー。我慢するなよ?」
「はい」
なんだろう。彼の精神年齢は年下なのに、とても落ち着く。
私も彼に何かしてあげたいと、本気で思える。これが生の攻略対象か…。じゃなくて、彼は私の守りたい家族なんだ。前世は前世、今は今。
ようやく踏ん切りがついた。
「アリコスお嬢様ー!じゃなくて。アリコス様ー!ルードリック様ー!終わりましたよー!」
「はーい!」
「おお、美味そうだな!みててくれセサリー。僕はこいつより、絶っっ対、多く食べるよ」
「なに言ってんだ。俺だってお前より食べられるさ」
「まーた喧嘩してるの?」
「「だってこいつが」」
「んっもう知らないっ」
「二人共、食べ物は競争ではありません」
意味不明な競い合いに、正論で声をあげたのはアリコスだ。
全員が変なものを見るようにアリコスを見るが、アリコスはただ一点、真剣にバスケットを見ていた。
「特に今日のサンドイッチは大切なんです」
ヒートボアはすっごく高いんだから!だって安くても一匹で銅貨60枚よ!大きいのだと銀貨2枚はくだらない。
このサンドイッチにどのくらい入ってるか知らないけど、さっきの道で売ってた肉まんもどき銅貨2枚でも十分、お腹いっぱいになるわ。
(……肉まんもどき、食べてないけど。)
とにかくそんな高級品を大食い競争で使っていいわけないじゃない。
まさか金勘定してるなんて思わず、みんな、家族と出かけるのがそんなに嬉しい事かとしみじみしていた。
(だからって残すのはもっともったいない)
「だから食べ物に感謝して食べましょう、ね!!」
「「「はい」」」
「ルーお兄様も!」
「あ、はいっ。それじゃあ、こころして、いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
さすがヒートボア。ヒートというだけあって、時間が経ってもホカホカしているのが特徴だ。
先程のアリコスの喝のおかげでみんな、しっかりと味を噛み締めながら、美味しくて栄養たっぷりのヒートボア、そして美味しい美味しいヒートボアサンドイッチを綺麗に食べきったのである。