4 頑張れ、ケーカ!
「さて、人混みで見にくかったかもしれないですが、今通ってきたのが領内で最も栄えている、城下町です」
「なるほど」
たしかに見にくかったかも。というか値札が全く見えなかった。
これじゃあ物価もなにもわかったものじゃない。
「やっぱり、ルードリック様は目立ちますね」
「ん?」
「その…美形が」
「そうか?」
ルーお兄様も、一応自覚はあるんだ。
でもまああれだけ騒がれてたからな。
サイモンは馬を降りて、地面にリュックを下ろし、中か緑の何かを取り出そうとしている。
「だからルードリック様は…」
「隠すんですか?」
「!はい、よくわかりましたね」
「今、マントが見えたもので」
「ああなるほど。お嬢様の分もありますがいりますか?」
「えっと、どうしましょう。かなりお忍び感ありますね」
マントを頭までかぶったルーお兄様が、なんだか不審者や魔術師のように見える。
これが日本なら職務質問されそうだ。
「まあ、マントですから。それでも集まる人はずっと減ると思いますよ。ルードリック様は人気者ですから」
ノートによるとマントは銀貨2枚前後。アリコスのこの特注ワンピースが銀貨5枚。
高い。つまり庶民には手の出せないものだ。
アリコスは、私はいいです、と断った。
「お忍びはよくするのですか?」
「ええ。でもマントがないとこの盛況ですから、普段はすぐに引き返します」
金持ちを見に来る見物客より、ずっと人を引き寄せるルードリックパワー。
妹から見ると、ルーお兄様の容姿や優しさ、カリスマ性は芸能人並らしいと考えられる。
「なあなあセサリー、僕は美男か?」
後ろでなにやら声が聞こえる。
(ケーカ。それは人に聞く事か、普通。)
思った通り、セサリーも苦笑いになっている。
「うーん、えっとー……突然どうしたの?」
「え?あっ!ああ!ほら、美男だったら俺も隠さなきゃ騒がれちゃうだろ⁉︎」
「それなら大丈夫。普通じゃない?」
今更だけど、ケーカはセサリーが好きなんじゃないだろうか。
さっきからの挙動不審さといい、今の灰になってるのがかわいそうだ。
「それよりケーカ」
「…それより…」
「昼食の食べれるような木陰はこの辺にある?」
「あああるよ。さっき言ってた花屋の近くだよ」
「わかったわ。ありがとう」
「…ありがとう⁉︎……」
「ああそうそう、この外出で女遊びはしない方がいいと思うわ」
「…そんなつもりじゃないのに……」
可哀想に、ケーカはまた灰になった。
それに気づかずセサリーは追い討ちをかけるように、ルードリックの方へ馬を歩かせる。
(セサリー鈍感すぎ!!)
「ルードリック様お似合いです」
「そうか」
そうでもないと思うのだけど。
誰がかぶろうとこれは不審者だよ。だって顎しか見えないよ?
「アリーはどう思う?」
「ぐっ……お似合いです」
負けた。
自身がマントを持ち上げて見える顔が、パッと笑顔になった。
みんなが馬に乗ると、両耳の斜め後ろで声がする。
「それでは行こう」
こうして何箇所か通りを周り、みんなが笑って生活しているのを見て、みんなで喜んだ。
買うことが目的ではないし、そもそももったいないので、買い食いはもちろんしない。
「この近くがさっき言っていた花屋です」
「そうだ!この少し先が丘なので、そろそろ昼食にしませんか?おっきな木があってちゃんと木陰だよ、セサリー」
「それなら、問題ないでしょう」
また後ろでケーカの喜びの声が聞こえる。
「やった!」
ケーカって案外可愛いやつなのかもしれない。頑張れ!