3 領内の黄色い声援
サイモンが先頭を歩き、私達はそれに続く。
すると急に甲高い声が聞こえた。
「ルードリック様だわ!」
「本当だ、ルードリック様よ!」
声に続くように、どこだどこだ!と言う声と、賞賛の声と共に次々と女男が集まってくる。
「お綺麗ね」
「やっぱり男は美男よね」
「それだけじゃないぞ、賢くて…」
「あら、ルードリック様はルィフラエル学園のSクラスよ?」
「優しくて…」
「ルードリック様はお優しいはずよ」
なんだその根拠のない憧れは。
と突っ込みたいところだが、事実だからニコニコとしてしまう。
「あら珍しい。女の子がいるわ」
「ありゃあきっとアリコス様だ」
「ああ、あの公爵家の次女の方?」
「カルレシア公爵家のご息女ですもの。きっと綺麗で優しく育ちますよ」
「いいえ、そうとも限らないわよ。私ちゃんと聞いたんだから!花瓶を落とした使用人に怒鳴り散らしたんですって。たったそれだけでクビにするそうよ」
言われてみればちょっと前にそんな事もあったな。でも実際、セサリーをクビにはしていない。だってお母様に止められたもの。
それにしても話が広まる範囲、ひっろ!
あと、わざわざ聞こえるくらいの場所で話さなくてもいいのに。
「でも…」
「私が聞いたのよ?嘘だって言うの!?」
「そうは言わないけど、やっぱり我らがカルレシア公爵家のご息女がそんなだなんて信じられないわ」
カルレシア公爵家の信頼あついな。
まあ家族全員、あんなに優しく、仲睦まじいいんだから嫌えって方が無理か。
でも統治って難しいイメージだけど、すごいのね、お父様。見直しちゃうわ。
そんなこんな人混みから抜けた。人がいても、歩かせるだけで馬から降りないのが、この国の貴族流らしい。
人通りが少ない道まで逸れてから、ルードリックお兄様が声をかけてきた。
「気にしなくていいぞ」
ルーお兄様聞こえていたのね。気にするななんて随分難しい事を…。
胸にじーんとしたものが広がっていく。
子供だったからとはいえ、自分で蒔いた種。これから挽回していけば済むことだ。
「大丈夫です。それより、カルレシア公爵家ってすごいんですね!」
手始めに、身内に嫌われないよう、好感度アップだ!
「ああ。お父様は領民のことには人一倍気を配っているからな」
「そうです。昔っから公爵様は俺たち平民の事を気遣ってくれていて、仕えた使用人にも優しいんです。ってじいちゃんが言ってました」
「あれ?サイモンは平民なの?」
「あー言ってませんでしたっけ?俺の家は一応貴族なんですけど、諜報専門ですから身元を隠せるよう、庶民の生活をしているんです」
「なるほど?」
「職種にやって、まあ色々とあるんだよ。特に諜報なんて特殊だからな」
「その潜伏先で父上が庶民の母に一途に恋をして、生まれたのが俺で」
「面倒なのは身分差なんだが、その辺はこれまでのジャーナス家と長年仕えてくれていたキスト、もといサイモンのおじい様に、お礼と思ってカルレシア家の領内権力で伯爵にしたから問題ない、と聞いている」
「そ…うなんですか」
「ええ。領主様にはとても感謝しています」
よくわからないけど、ヒロインも一番上のクラスになった時、庶民の出のくせにと虐げられていたから、身分というのは色々と面倒なんだろう。
にしても、ゲームのくせに凝ってるな。全クリまであと20%くらいあったけど、サイモンの家庭事情なんて、誰も言ってなかったぞ?




