2 身の上話
…職。
現在、公爵令嬢。───前世、一般人。
加えて国籍。ならびに年齢。
現在、ルィフラスティラエル国(通称ルィフラエル国)。12歳。───前世、日本。享歳19歳。
そう、私は一般人中の一般人!…だったのだ。
私の19年間までの人生は、それはそれはとても平凡だった。
リーダーシップがとりわけあるという事もなく、運動神経がとりわけすごいという事もなく、女子力がとりわけ高いという事もなく、頭がとりわけいいという事もなく。私には何の特技もない。
強いて言えば、貧乏性なのを特技とするくらいで。
しかしそんな唯一の特技もせっかくできた3人の彼氏全員に、[無駄遣い]だの、[代用できる]だの、[必要不可欠でない]だの、色々言いに言いまくった結果、最短たったの1カ月で『なんでお前に財布の管理をされなきゃならないんだ』的な事を直球に言われ、泣く泣く別れる事になった。
いや正直、親にも友達にも言われていたし、気をつけてはいたのだけど…、
ハイ、無理でした。
挙げ句の果てには、『そんな君も好きだ』と言ってくれてたクラスメイトの、最後の彼氏にも別れられ…。シクシク。
とまあ、それが生前3ヶ月前の話。
よくやく彼氏と長続きする事を諦められたのが、死ぬ直前くらい。
それまでは、ストレス解消するにもやはり浪費できないから、大学の講義の後、ずっと独り言をつぶやきながら、家の前の交差点を行き来していた。それと、今現実化しちゃってるRPG系乙女ゲーム。
薄々気づいてはいたけど、今になると心底気味の悪い女だったと思う。
無論、そんなつもりはなかったけど。
まあそんな訳で丁度、往復に交通事故に巻き込まれあっさり死亡。
つまり、バイトと大学生を両立していた私の、相当な額の貯金は口座に貯まったまま!
だけどそれも死後数ヶ月もすれば、自立してからわずか二年間で築き上げた財産も、浪費家の姉のおかげで底をついただろうな。
……
回想
……
「おねーちゃんてば、ゲームたくさん持ってるんだから、もういらないでしょ!」
幼い日の、デパートの、ゲームカセット売り場の記憶が蘇る。
当時の私は5歳くらい?いやもっと上、10歳くらいだろうか。
「いいじゃない、一個くらい!ソフト2つに(ゲーム)本体しか持ってない上に、妹と一緒に使うなんてコ知らない。お金がないわけじゃないのにっ。私のお小遣いで買うのにっ。〇〇のじゃないのにっ。もうやだよー!」
大声で姉が泣いてしまって、私は怒られなかった。妹の特権だと思う。
そしてあの後は結局、私はお母さんになだめられて、お姉ちゃんはぶち切れて、結局買うハメになったっけな。
……
回想終了
……
そういえば私の名前が思い出せないな。
いや、アリコスなんていう日本人離れした名前じゃなくて。
まあ、現実逃避にそんな話を思い出したところで、既に別世界へと送られた私の存在が、元の世界に戻れない事はこの話の上では当然のように、わかりきっているわけで。
(でも…。ううん、なんでもないや。…でも…。ううん、なんでも……)
こんなくだらない自問自答を脳内でしながら、この現実逃避のきっかけが、案の定お金への執着から来ているなんて、私は気づいていただろうか。
と、この時の私は、アリコスとして意識が戻ってから、どうしようもなく本気で思うことになるなんて、思いもしなかった。
……。
さて、前世の記憶に虚しくなったところで、今の話をしようか。
普通に考えると、瀕死の患者は、まず病院に運ばれてから死ぬのだろう。しかし私はあいだをすっ飛ばして、何故か、別世界にいる。
そして昨日は、お父様の研究室で〈キデン〉とかいうものの見学をしに行った。そこでうっかり電気を通す鉄の取っ手に触れて、〈静キデン〉が発生。
おかげで前世を思い出した。
私が公爵令嬢としても死ぬという、ゲームの中のお話を。
……以上。
これが、突然に慌てふためきだし、突然に気絶し、いつの間にか寝込んでいた私が、丸一日精一杯に脳内を整理した結果だ。
ちなみに今、ベッドに横たわる私の隣には、私が起きた事に気がつかずにいるメイドが一人。そして私の寝室の外には、混乱したお父様が国家権限でつけた衛兵が二人いる。
本当の所はどうでもいいが、この三人と、その他私のせいで仕事の増えた皆々様には、申し訳ないと思う。
だがこれは、緊急事態だ。
記憶が正しければ、完全に悪役用フラグ立ってる!!
ここから、口調が多少変わるのは、日本人としての記憶と令嬢としての記憶が重なった為です。
2019.1.29日以前に読んで頂いた読者様へ。
諸事情で乙女ゲーム関連の話を書き加えました。
修正が遅くなり、本当にごめんなさいっ!