2 ケーカの自慢話
「大人しい馬ですね」
「ああ。この馬はお父様とお母様が普段、デートに行くときに使っているから、多分慣れているんだろう。馬は怖くはない?」
「はい。ちょっと高いですけど」
(中学の林間学校で乗った、ゴンドラに比べたら全然マシです!)
みんな無事に馬に乗り終わり、とりあえず屋敷の出口を目指す。その途中でケーカの自慢話が始まった。
ケーカ曰く、サイモンとケーカは特に腕が立つそうで、
「今はルードリック様と同じ部署に配属されて、俺らはとにかくすごくすごく大活躍中なんですよ!」
とのことだ。
だが幼少期よりそばにいたアリコスからすると、ケーカは女好きのイメージが強く、この話も本当かどうかはわからない。
だが時期にルィフラエル王国で最も有名な、『素晴らしい魔法団』の一人としてその名を知られ、ルードリックお兄様と共に戦う二人だ。なんでこんなダサい団体名なのかはゲームのシナリオライター聞いてほしい。私もぜひ改名すべきだと思う。
とにかく現役活躍中かはわからないが、優秀なのは確かだ。なぜなら三人ともルィフラエル学園の、魔導士養成科のエリート、1組の生徒だからだ。
「ルーお兄様も、ケーカ様もサイモン様もすごいんですね」
「いやいやぁ。僕なんかルードリック様に比べたら」
「当たり前だ。お前は俺と戦っても、いっつも負けてるだろ」
「それはいつもお前がズルするからっ」
「ズルじゃない。ケーカが連続技を見切れないのが悪いんだ」
「んな。お前だってこないだ僕の会心の一撃、全力で食らってたろ」
「いつの話だ」
「こぉ…こないだの!こないだの模擬練習だ」
「だからいつのだ?」
「…六回前」
ケーカがしぶしぶといった具合に答える。
きっとこの六回は負け続きだったのだろう。
その連続技で。
「そんなに練習するんですね」
「ああ。月8回模擬練習の授業があるんだ」
「ルーお兄様も?」
「もちろん。ルィフラエル学園※は庶民から貴族まで待遇が同じだ。いいことだよ」
アリコス達が話している間も、ケーカ達はやり合っていた。
「じゃあ今度は負かせてやる!」
「そっかそっか頑張れよ」
「なんだよ、その調子乗りやがって!」
「おいおい、そんなんじゃいつまで経ってもルードリック様の右腕にはなれないぞ?」
「はぁ?」「ん?」
話に入ろうともしないルードリックお兄様が、珍しく困惑している。
「なんだとぉ?僕はお前みたいな弱っちい諜報志望じゃなくて、剣士なんだ!ケンシ!」
「弱いだと?連敗してる奴が何を言う!」
「ちょっと待て!いつから俺の右腕がどうのとかいう話になってるんだ⁉︎」
「え?ずっと前ですけど?なあ」
「ああ。ルードリック様の右腕は俺で決まりだ!」
「勝手に決めるな!俺だ」
「だから、俺はそんなの決めてないっ」
男同士の話も見えないだけで、意外と複雑なのかもしれない。
アリコスがそう思った矢先、セサリーがたった一言仲間に加わった。
「あら、みなさんとっても仲がいいのね」
「ふふふっ」
本人は全く意識でしていないであろうセサリーの言葉で、ケーカもサイモンもルードリックお兄様も面食らったように静かになった。
今アリコスが思っているように、セサリーも子供っぽくてかわいいと思っていたのだろう。
(やっぱり女の子の方が賢いのよね)
そしてまた言い合う二人を見て、笑いがこみ上げてくる。
「仲良くなんかないっ」「仲良くなんかないっ」
「ハハハッ」
そしてルードリックお兄様が一笑する。
すると、ようやく静かになって屋敷の門が見えてきた。
「街だ!」
「ああ。アリーは見た事なかったかな」
「ええ」
ゲームでは王都なら見ていたけどね。
「アリコス嬢」
「何ですか、サイモン様」
「外出許可はカルレシア領にしか出ていませんが、どこか行きたいところはありますか?」
「今日は行き当たりばったりで構わないので、色々なところを見て回りたいです。それと…できればスティラさんのところへ行きたいです。見てくるだけなんですが」
「じゃあサイモン頼んだ」
「わかりました。たくさん見るのに一番効率の良いルートで行きましょう」
こうして、私のお出かけは始まったのだ。
ルィフラエル学園は、ルィフラスティラエル国立学園、別名 国立共立学校の学生なりの略称です。




