1 はじめての乗馬
気持ちのいい晴れた朝。
昨日のうちにセサリーはノートを仕上げてくれたし、アリコスも何度も返し読みできた。
そして今日はお出かけという事で、セサリーに頼んで起こしにきてもらう事になっている。
「おはようございます、アリコスお嬢様!」
「あら、セサリーおはよー」
まだ頭がポーとする。
「起きてください?今日は朝食前に屋敷を出るんですよ?ほら、コックが腕によりをかけて作った、ヒートボアのサラダサンドイッチですよ!」
(まーたそんな勿体無いことを!)
ヒートボアは確かに美味しいけど、とっても高い。
おかげでパッチリ頭が冴えた。
「行く途中の休憩で食べましょうね」
どうせならステーキにするのが一番なのに、全くこれだから。
実際に見たことはないけど、料理批評家の気分で胸の内だけで、食べる前から辛口で批判する。
ともかく目を瞑ってぬくっと起き上がる。
「今日は遊び尽くすわよ」
目をぱちっと開けて、誰もいないが例のサンドイッチの入ったバスケットの置かれた机をライバル視する。
そしてセサリーは嬉しそうにいう。
「はいっ!」
………
……
…
「アリコスお嬢様ー!セサリー!」
厩に行くと、その途中にルードリックお兄様とサイモンが馬を連れて歩いていた。
連れられてきた馬は全部四頭で、アリコスがルードリックお兄様と一緒の馬に乗る事になる。
それにしても、私は習っていないからいいとして、セサリーが馬に乗れる事には驚きだ。
「楽しみですね」
「ええ。私も楽しみ!」
今日は私とルードリックお兄様、セサリー、そしてサイモンとケーカの五人だ。
「おはようございます、ルーお兄様!」
「おはようございます」
「おはよう、アリー。セサリーも」
「おはようございますっ、アリコスお嬢様っ」
「おはようございます」
「おはようケーカ」
「おはよう、せ、セサリー」
サイモンとケーカはいわゆる使用人とは少し違い、それぞれカルレシア公爵家に代々仕える剣士の一族の息子達である。
「身軽で馬にはぴったりな服だな。柄はバラか。綺麗だ、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます」
(ルーお兄様に褒められた!)
よかった、ワンピース選んで。グッジョブ、一昨日の私。
「サイモンは?」
「ああ、あいつはちょっと荷積み用のリュックを用意しに行った」
「リュック?」
「ああ、あの背負うやつだよ」
「なるほど」
私の知識ではこちらの貴族はまだ中世の気分らしく、リュックは一般的ではない為、サイモンが使っているのも珍しいくらいだ。
だから割とありきたりなセサリーの質問には慣れた風で、ケーカとルードリックお兄様が交互に答えた。
(あんなに便利なのに、冒険者とかしか使っていないなんてなんだかもったいない)
アリコスはセサリーに持ってもらっている、数十年前にヨーロッパ圏で流行っていたような皮のバッグ、お値段銀貨二枚をちらりと見る。
「あ!来たぞ」
すると、容量抜群の布製リュック、お値段銀貨1枚と銅貨6枚が、あとサイモンも登場した。
セサリーがサイモンに例のバックを渡す。バックさえなければとても軽い。なぜなら中身はノート一冊と、ショールだけだ。
「それじゃあ行こうか」
「はいっ」
馬を見るのは初めてではない。ただ、馬に乗るのは初めてだ。
「大丈夫、怖くないよ。おいで」
「はい」
馬の上から差し出された両手を握り、整い過ぎたルーお兄様の顔にドキッとする。
「せーのっ、よっと」
椅子に足を左に寄せて座るのの、馬バージョンとでも言おうか、アリコスはそんな座り方をしている。
「大丈夫だった?」
「は、はい」
やばい、ルーお兄様がイケメンすぎる。
でもあくまでも身内。変な気は起きないだろう。




