1 今日は掃除の日だ
どんな本があるのかと胸を膨らませ、また赤いマットを進んで、館を出て、同じルートで第一倉庫へ行く。
着くと早速、第一倉庫の中へ入っていった。
そういえばここにはまだ、一度も入った事がなかった。仕方がないので、壁に沿って歩いてみる。
「アリコスお嬢様ー?」
倉庫の中だけど、数メートルは後方と思われる場所でセサリーの声がする。
「ここよ。中へ入ってすぐ右の」
「わかりました」
さすがというべきか、セサリーは既にこの建物の構図が頭に入っているようで、返事と共に後ろに並んだ。
「アリコスお嬢様?本は壁の突き当たりからです」
「え?わ、わかってるわよ」
「はい」
あーまたやってしまった。全然知らなかったのに。なのにそれをすんなりと肯定するセサリーにも、ちょっとイライラする。
意外とすぐに突き当たって、本の背表紙を見ては手にとって、薄暗い倉庫の中で目をしょぼしょぼさせる。
そういえばこないだ、レンドーが咳き込んでいた事を思い出す。
(やっぱり今日は、大掃除の日にしようかな)
「セサリー、やっぱり今日は掃除の日ね!」
「はい?」
「掃除をするの」
「はあ…」
セサリーはこんな顔をしているが、この突拍子もなく事を始めるのは、昔からのアリコスの性格だ。わからないとは言わせない。このまま押し通してやる。
「ほら全体的に埃っぽいでしょう?クシュンッ」
(あー、鼻がグシュグシュする)
ここでもアレルギー性鼻炎なんて、勘弁してほしい。ゲームなんだから病気なんてなくっていいのに。
「アリコスお嬢様!大丈夫ですか?一旦外へ。では私達がもう少し人手を呼んで掃除しますから、アリコスお嬢様はどうか、館へ戻っていてください」
正直なところ、くしゃみに悩まされるのも
「クシュン」
やだし、そうさせてもらおう。
「わかったわ」
どうぞ、とセサリーが先導する。帰りもセサリーは付き合ってくれるようだ。
人手を集めるのはその後なのだろう。
それにしても子供のくせに快諾の一言や思いつきで、すぐ人をうごさせるなんて、やっぱり公爵令嬢ってすごいのね。と思っていると部屋についた。
「ここでお待ちください」
「わかったわ」
本当はトレースを手伝おうかと申し出たが、「持ち出さないとなると庭ですることになりますが、万が一のことがあったら!」とセサリーに泣きつかれてしまったので諦めた。
今になって思うと、ゲームのストーリーの中ではとりあえず、地震なんて起きなかったのにと思っているが、ここは気楽に考えよう。
元々物価リストはノートごと覚えるくらいのつもりだったのだ。それがもと通りになったというだけだ。
そういうわけで、掃除が終わるまでの長時間、アリコスはずっとノートをめくる事になった。