4 アイテムボックス出ておいで
なぜかアリコスは早く目が覚めた。そして今日することといえば、ノートを読むこと。
昨日は残る量も少なかったので、(セサリーには無理を言って徹夜してもらった。といっても二、三時間の事だけど、どうせセサリーの仕事もないし、今はゆっくり休んでもらっている。)セサリーの出て行った後、こそこそと布団を抜け出し徹夜をした。
「ざっとなら見終えた」
そういう訳で、最初にこの言葉を発したのは明け方。
そして二度目は今、朝早くのことだ。
起床時間よりまだ時間があるらしく、セサリーは部屋に来ていない。
(声を出すなら今だ)
急ぎ足で部屋に鍵をかける。扉から少し離れると気おつけの姿勢で、手を前に出してみた。
力を溜める、気分だけだけどそんな感じだ。
そういえば、この状態でセサリー達がノックしたらなんて言おう。恥ずかしかったからって言ったら何がですか?って言われそうだな。
でもそれなら急げばいいだけの話。なんだか緊張してきた。
「アイテムボックス オープン」
(意外とハリのある声で言ったから、上手くいったかな)
目を開けてみるけど、頭上にも、目の前にもない。つまり、変化はない。
「ステータスオープン」
こちらも何も変わらない。トレースみたいな発光とか、そんな派手なことが起きない。
思えばステータスもアイテムボックスも、存在自体無いという可能性を完全に否定していた。
「あーあ」
その時、コンコンとノックされる音がした。
「あー!!!ちょっと待ってて!」
「え?」
「待ってったら!」
ドアノブが若干回った時に、鍵を開けた。
「何かあったんですか?」
「なにも?」
間に合ったと安堵すると、冷静にセサリーに言われて、とても恥ずかしくなり、とっさに言い繕った。
………
……
…
昔から規則正しい生活を教育され、とりあえず昨日以外はその通りにしているアリコスは、起床時間、消灯時間が大体把握されている。
だから普段、朝起きて十分ほど経つと、セサリーが部屋に来る。そして寝巻きから部屋着に着替えて、朝食をとる。その後は基本自由時間という事になっている。そしてその合間にお勉強。
(あーあ、残念だったな)
ステータスがわかるのは私にとって、期待するような結構羨ましい設備だったもので、なんだかんだ10分くらい引きずって、今の服選びもどんよりとしている。
「アリコスお嬢様?アリコスお嬢様?」
「ああ、何?」
「お部屋へ」
「ああ…」
ちなみに、この六角柱のデザインの更衣室用の個室は、いかにも豪華で、ノートによればかけらだけでも高価とされる鏡が、等身大の大きさでみっつも置いてある。
足元も、個室に合わせて作られたであろう、六角形の赤い絨毯だ。
(鏡の癖に金貨代って高すぎる。鏡なら一枚で充分じゃないっ。なにもかも落ち着かない。もしアイテムボックスがあったら、不要物は全部しまっちゃうのにな)
ってそんな考えるのはだめだ。
ここでもこんな具合に自制を繰り返す。
セサリーがワンピース風の寝巻きを脱がせる。
「あの、アリコスお嬢様?」
「なに?」
「聞いていいものかわからないのですが…」
「なに?」
「あの、非常に奇妙な話なのですが…」
「どうせなら早く言って欲しいわ」
「その鏡に青い鍵のついた手紙のようなライトがついて見えるのですが、部屋に新しい証明をつけましたっけ?」
「え?」
見上げると、たしかに青いライトがついている。
ゲームと同じデザインのステータス表に、鍵マークがついている。
しかもそのブルーのライトはなんで気づかなかったんだろうくらい眩しい。今思い出すと、下を向いていたせいか、全く鏡自体には注意を払っていなかった。だからかな?
見えている鏡に触れると、
《ユーザー名とパスワードを入力してください》
と出たので、昔のゲームのユーザー名とパスワードをそのまま入れた。
《現在のユーザー名を記入してください》
今度は現在だから?ん?アリコスか?
《アリコス・カルレシア》と名前を入力し、《完了》ボタンに触れる。
《指紋認証が完了しました》
と出てきて、鏡に触れた指紋がパスワードになっているのかと感心した。
ところでそろそろ大切な事に気がついた。
(ちょっと待てよ?セサリーにも見えてる?)




