1 アイテムボックスの確認
セサリーがトレースをしている間、私はまた書いていたわけだが、【よくあるタイプのアイテムボックスの確認】というのは、ゲームのメニュー画面から入るアイテムボックスボタンのことだ。
まあとりあえず、そしてこれまでの記憶でもこの世界にメニュー画面は現れた事はない。
なら例えば、アイテムボックス開け!とかいうのはどうだろう。そのやり方なら、メニュー画面開け!とも言ったことがないから、メニュー画面も案外開くかもしれない。
なんて。
でもせっかくとった戦利品だし、試す分にはなんの損もないだろう。あるとすれば、この子大丈夫?といった目で見られるだけだ。
ニコッとしながらセサリーを見つめた。
多くは彼女が目撃者になる可能性があるだろう。
【よくあるタイプでステータスの確認】にしても口で言うという事。そういえば、頭で思うのはどうだろう?
(ステータス!アイテムボックス!ステータスオープン…ステータスさーん。存在してますかー?)
うん、いないみたいだ。少なくとも頭の中には。
とりあえずセサリーが作業終わって、もし追い払えたら、試行錯誤してみよう。まあ頭と声以外と道具以外、他に知ってる方法ないけど。
ノートにひと段落終わったアリコスは、特にすることもないので部屋を物色していた。
記憶が戻る前から住んでいた部屋で、見ていても何も面白いこともない。
(つまらない)
数十分が経過し、そろそろ飽きてきた。
(やること、ない)
いえ、正確にはセサリーのトレースを手伝えばいいのだけど、正直めんどくさいからいやだ。
それなら本だ!
大学生の考えで本を読もうと思い至ったわけだ。そうしてまた物色を始めた。しかしこの部屋には本がない。一冊も。教科書とか勉強の類いしかない。そういえばよくよく思い出してみよう。
ゲームでのアリコスは、趣味・読書のイメージではない。とにかく派手で、自分磨きと人をいじめるのが好きなタイプだ。まさしくそんな感じのプロフィールだった。
でもある程度の、文化的な?教養を身につけるためにも、一冊くらいあったって…。
「あ!」
「へっ⁉︎」
「ごめんなさい、こちらの話よ。続けて」
アリコス、ありアリ!アリコスお嬢様が謝った!使用人に!この私に!?と頭がぐるぐるしていたセサリーだ。
一方アリコスはなにも気にしていない。
前の話に戻りましょう。こんな具合だ。
さて、さっきセサリーは第一倉庫に『魔法についての本』があると言っていた。読むならそれだ。ついでに他にも小説とか、あとはなんだろう。地理とか、お父様の研究がわかるような研究系とかかしら。
とにかく勉強は嫌いだけど、どうせやらなきゃならないことだから、どうせ読まなければならない本たちだ。
でも小説とかから、人の気持ちとか、上下関係とか、やんわりとした断り方とか、フラグ回避のために私だけでも教養つけたい。あと他には特に法律。王子の横暴で死ぬもんですか。
そうこうして、あれこれ考えているうちに、セサリーの作業も終わった。
それともう一つノートに書き加えた。
【本を借りに行く(小説…etc.)出来るだけ早く】
その横には下に二重線を引いて【早急に!明日にでも】と。
「お疲れ様」
「ええ、疲れました」
「ありがとう」
セサリーから二枚分のページのみ空欄を残した、ノートを受け取る。
「それではお嬢様も疲れた事でしょうし、少し休みましょうか」
「ええ、クッキーと紅茶にしましょう!」
【早急に!】と書いたばかりだけど、もうそろそろ暗くなってきたし、お茶会にする。
用意するものもないし、本当に明日でいいや。
セサリーは鼻歌を歌いながら、ポットを取りに隣室へ行った。
「ふーぅ!」
大した仕事はしてないはずだけど、異様に疲れた。うんと、かかとまで上げて、伸びをする。
あとやる事は、せっかくトレースした『二冊目』の物価一覧表に目を通す事と、外出許可をもらう事。
でもノート丸々埋まるくらいだから、今日の夕食までに全部は無理かもしれないわね。