4 魔法に興味が出てきました
「そうだ!魔法についての本ってさっきのところにもあるの?」
「ええ、まあ」
「じゃあ今すぐ行きましょう!」
「え?今ですか?このカタログはどうするのですか?」
「あ、そうだったわ。じゃあ急ぎの仕事ね」
精神的な心に与える魔法の威力は、重要なことを忘れるくらいと測定されたが、やはり優先すべきはこの物価調査である事に変わりない。
「トレース、どんどんするわよ!」
「えっと、つまり?」
「魔法陣は一個あればいいんでしょう?なら綺麗なのは一個だけあるじゃない」
上出来で、おまけに褒められたとはいっても、セサリーの方が断然上手い。それはノートの1ページ目と2ページ目の踊った文字が証明している。
だから自分の魔法陣はぐちゃぐちゃに手に握った。
なんとなく魔法陣は神聖なものの気がしていたから、握ったのが布である感触に不思議な感じがする。
「私がピックアップするから、セサリーはトレースしてね」
魔法をもっとしたい気もするけど、非効率なのは目に見えているので気にならない。
でもひと段落ついたら魔法の練習にも思いっきり、精を出そう。
「おー!」
「おー?」
最初に見たのは“カルレシア公爵家に収められる特産物の物価について記録された書類”だが、これがすごくすごくつまらない。きっと子供だから集中力がないというのもあるのかもしれない。だってこの資料は、高校のつまらない先生の社会科の授業を観てるくらいつまらないものだ。
とりあえず、ノートに【物の名称】【買値】【売値】【買える場所】【希少価値】と書いて、セサリーに渡した。
「何ですか、これ」
「それを探してノート写してちょうだい」
きっとセサリーは人使い荒いと思ったに違いない。しかしこれは、こないだ起きる前からずっと変わらないアリコスの性格である。だからいくつになっても大目に見て欲しいと思うのは甘えてるだろうか。
それを目で表現したら、セサリーはすんなり受け入れてくれた。
「追加できるなら【生産地】【消費者】【需要】も」
実際調子にのったのだが、無言で渡さないだけ、これでも労っているつもりだ。
でもなんだか物足りない。もちろん、セサリーは受け取ってくれるのだけど……。
「ありがとう」
「⁉︎」
セサリーは目を見開き、ノートとアリコスを交互に見た。
「いいえ」
こんな些細なことにアリコスがしたお礼を、セサリーはとてもとても大切なことだと思った。お礼なんて何年前にされたことか。
アリコスはセサリーが微笑んでいるので、これでいいのだと納得した。
(これからは断るごとにこうしてお礼を言おう)
セサリーが作業に入ったのを見届けたところで、カタログを見ることにした。しかしこれにも、つまらないカタログや面白くなそうなものもある。それは適当に、必要そうなところに付箋をつけた。するとあっという間に付箋だらけになった。
そうしてみていく他のカタログには、美味しそうなケーキ、見たこともない花、かっこいい服や可愛いぬいぐるみや綺麗なドレスもある。
アリコスはすっかり夢中になった。
セサリーは休憩代わりの背伸びの途中で、アリコスを横目に見て、やっぱりにこりと笑った。知らせれば、使用人中が喜ぶだろう。そういえばルイスとレンドーもお礼を言われていた。アリコスはなんだか丸くなったのかもしれない。そう思うセサリーだった。
「え!」
アリコスの突然の声にセサリーはちょっとびっくりして、慌ててページをめくった。
アリコスが見ているのは手元に残る最後のカタログとなった、冒険者用アイテムのカタログ。しかしこれには他のどのカタログより、とても目を見張るページがあった。
どれもこれもダサいのばかりだが、細かい字で性能が書いてある。
しかも最後の方のページには冒険者用アイテム換金一覧表の広告に、例として、イベントに出ていた人喰い花や魔晶石が載っていたのだ。
これには驚いた。
(懐かしい)
本当にこの世界がゲームと連動しているのがすこし実感してきた。