3 トレースの技術に感嘆
目も開けられないほどの眩しさではなかったけど、反射的に目を瞑った。
セサリーは何事もなかったようにアリコスの布も外すように促す。
また文字が発光して、今度は瞬きをする。
なんとか慣れてきた。
「ほら、できましたよ」
「ほんとだ!順番も完璧だし、誤字もない。さっきまで真っ白だったのが嘘みたいに、しかも活字になってる」
この世界にはないが、版画を完璧にした感じだと思った。魔法といっても手動プリンターのようなのに似てると思う。
この感覚がとにかく面白くて、材料をはじから聞いてみたり、もう一回やりたいとせがんで次のページからまたノートに文字を写してみたりした。
そこで知ったことも面白かった。
筆は意外にも普通のものであること。
墨はトレースした時のインクがわりになるため、わざと粘り気をつけ、かすれないようにしていること。
布は一見普通の絹だが、普通の蚕ではなく、上級モンスターの出す糸を使って作られていること。
ついでにこの布が、スタンプや判子のように文字の書いてある上に乗せて押さない限り、上書きされないこと。逆に文字の書いてある上に乗せて押させば、簡単に上書きできること。
「だからこの世界には印鑑がないのね。偽造されては困るものね」
「そういった場合には専用のインクと紙で書きます。それと印鑑はないんじゃなくて、廃止されたんです。そもそも使う場面自体相当限られてますし、書類なら直筆の方がカッコいいと売れなかったこともあります」
なるほど。人が欲しがるかどうかが物価に深く関わっていることは当然よね。だからこそ流行ができるのかもしれないけど……
(あれ?つまり私は流行に敏感なレイシアお姉様、しめて家族全員の浪費を抑えることはできないの?)
「よかったわ。早いうちに気がつけて」
あ、れ?そういえばさっき、「この世界には」って言ってしまわなかった?でもバレてない?
セサリーは本当に気づいていない様子で、話を続ける。なら大丈夫かな。とにかくもうボロを出さなければいいわけだし。
「喜んでいただけて何よりです。ところでアリコスお嬢様は魔法にセンスがあるようですから、この調子でやればいつかは瞬間移動もできるかもしれませんね」
「本当に!?その話、詳しく聞かせて!」
瞬間移動ができるのがBクラスの魔法使いからである事は、以前から知っている。でもそれが────たとえ将来Aクラス判定をされるとはいえ────私のような子供でもできるなんて信じられない。
「あ、えっとでも瞬間移動できるのは10年とかもっと先の話ですよ?」
「なーんだ」
セサリー言葉には落胆したけど、すみません、としょぼんとされると、もともとない怒る気も一層なくなる。それに別に、今すぐに瞬間移動がしたいわけでもない。
それでもやっぱり魔法は好き。しかもそれは、記憶が戻る前からずっと好きで心待ちにしていたようだ。
となれば憧れの魔法のある異世界に来て、余計にエンジョイしないわけにはいかないだろう。
でもどうやって習えばいいんだろう。
───後書き────
読者のみなさまへ
先日より、投稿スピードについて決まってきたので、現時点の予定をお知らせします。
週5日、月20日前後で投稿していく事になりそうです。再度申し上げますが、行き詰まったらまたお知らせして、投稿スピード戻すかもしれません。
これからもどうか『貧乏性の公爵令嬢』をよろしくお願いします。
尚、この後書きは投稿スピードの変更について再度お知らせする日より30日をもって削除させていただく予定です。(まだその予定の目処はついていません)