2 トレースでさえ(?)難しい
「それでは私がお手本を作るので、同じように書いてください」
「わかったわ」
魔法陣といえば丸い円に色々書き込んでいく感じだ。
セサリーはその通りに書いていく。
ただ1つ面白かったのは、この国でいう漢字を書いたこと。
意味は模写である。
「そのまんまね」
「ええ、まさにそうです」
「あー、うまくいかなかったらやり直せるの?」
「もちろんです。念のためたくさん用意しましたから」
セサリーは横に3つ、筒状にしてある新品の反物を手で示して見せた。
「私がそんなに失敗すると思うの?」
「お勉強もダンスも、なにもかも努力していらっしゃるアリコスお嬢様でも、可能性は十分にあります」
その通りだ。私はいつだって頑張っている。決して天才肌ではない。しかもそれを続けるのだって、由緒ただしいご子息や、王子であるイネックに嫁げるように。両親の期待に応えるように。
でもこれは魔法が楽しそうだと思う、自分の意思でやってのけたい。
だからこそセサリーの言葉に、燃えてきたのだ。
「きっぱり言ってくれるわね」
アリコスは躍起になって答えた。
「十回以内で成功する。かけてもいいわ」
「わかりました。なにもかけなくていいですから、頑張ってください」
先程セサリーのやったように円を書く。
これが意外に難しい。布なのでぐにゃっとなって余計うまくいかないのだ。
こうして2枚無駄にした。
そうだ、試しに紙に鉛筆で書いてみればいい。
こないだのノートの上に円を書く。何度も何度も何度も何度も。もちろん同じページで、だ。
「失敗」「失敗」「上手くいかない、」「あー」「もうっ」「これも失敗」「これも」
何度も何度も……。
セサリーが布を切る音がする。
そして、
「できた」
この手の感じを忘れないうちに筆に持ち変える。
今度は緊張しているうちに墨が垂れてしまった。
次の布に取り替える。
「丸っっっ」
墨に気をつけて円を書く。
今度はうまく行った…かと思いきや、丸がなんというか、またもやぐにゃっとしてしまった。
「セサリー、まち針ない?虫ピンか、普通の針でもいいわ」
「ふふふっさっき、動かないようにしてたのバレちゃいましたか?」
なんとなく胡散臭い。
「実は、魔法かけてたんです」
「魔法?」
「ええ。でもそれはアリコスお嬢様もいつかできるようになりますから、今日は針を持ってきます」
こうして縫い針を四方にさして準備完了だ。
今度こそ綺麗な円を書きたい。
一応できたにはできたが納得がいかない。
今度は太さが均一ではない。
(習字習っておけばよかった)
マナーの一環としてペン字は習っているが、習字は筆の持ち方くらいしかやったことがない。
しまったとつくづく思う。
書き直そう。
また一枚、また一枚と布が減り、あと2枚になった。
「布はまだありますよ?」
見透かしたようにセサリーは言うが、能天気な彼女にそんな芸当はできないだろう。
ムッとしてしまう気持ちをこらえて、深呼吸する。
ゆっくりと丁寧に動かす。
さっき上手くいった円のように、結構綺麗にできたと思う。
「できた」
次は文字だ。
これは簡単だ。字を潰さなければいいだけだ。
「ほら、できた」
「上出来ですね。さて、もうこのあとは簡単ですよ。紙にこの布を重ねてください」
言われた通りにする。
セサリーが布を押すと、真似て押す。
開いたノートに布を押すと、真似て押す。
セサリーが布を持ちあげると、魔法陣だけが発光していた。