1 トレースがしてみたい
こうして倉庫のカタログが全部、部屋にきた。
どれから読もうかなんて考える暇はない。一刻も早く読んでまとめて…じゃなくてトレース!!大事なのをピックアップしてトレース。
「セサリー、私にトレースの仕方を教えてちょうだい」
「わかりました。用意をするので、少しお待ちください」
セサリーは荷物を置いて、レンドーとクリスを外へ出し、自分も外へ出ていった。
セサリーは少しにしては早く帰ってきた。そして布とペンとノートを机に出した。何故かテーブルクロスは外して。
「アリコスお嬢様。ここにお座りください」
セサリーは2つある椅子のうち、手前の方を手で示した。
「ねえねえ、何をするの?」
「この布に魔法陣を書くのです。覚えれば何も書かなくても平気になりますが、今は初級の基本の基本のきの字ですから」
魔法陣ですって!?
驚きしかないわ。
この世界に魔法陣があるなんて初耳だ。
魔法があるのはゲームの中でわかってた。うん。だってそのせいで何回、何十回、いや何百回バトルで負けたことか。無課金にはすっごく骨が折れる。
(ってこの世界には課金無課金平等なんだけど。そんな制度ないからね。ホントに私には最高だと思う、悪役用フラグさえなければね)
ああそういえば、課金勢もすごいと思いますよ。お金が出せる全ての人がすごいと思う。尊敬する。
おっと、脱線脱線。
魔法に魔法陣を使うのは、ほかのRPGのゲームでは割と当たり前だったりするけど、───ほら、必殺技とかでは使うでしょ?────でも家庭の知恵的な魔法にまでなんて、びっくりだわ。
「それで、何か唱えることはあるの?」
「それも初級ですからありません」
「ある事にはあるのね?」
「えっと…詳しくいうと長くなるので簡単に言いますと、初級から上級に唱法魔法として、何も書かない魔法陣の作成には使います。でもトレースは基本ですし、カタログを元にするなら書体や魔法をそのまま組み込むわけではありませんから」
ちょっと待って、こんがらがってきた。
「魔法を組み込む?」
「ああ、簡単に言えば魔術書や禁書の複製のたぐいです」
「魔法、なのよね?私、まだ魔力量測ってないけど平気なの?」
「わかっています。これは全く問題ありません。これも魔法ですが、その中でもすごくすごく簡易的なもので、本当の魔法はもっとずっとかっこいいです。そして使うのは専用の魔力を染み込ませた布ですから、魔力の消費もありません」
一呼吸終えてセサリーも席に座る。これまで机の下でガサゴソやりながら答えてくれていたが、ようやく準備が整ったようだ。
「それでは始めますか」
「ええ」
そうはいったものの、そういえばマクスにいつ会えるかはわからないままだ。でも、お父様にならあえる?
いや待って。どうやら根本がわかっていないみたいだ。
マクスが忙しくしているのはお父様が忙しいから?それともお父様の仕事を減らす為?
「一仕事する前に悪いのだけど、1つ聞いてもいい?」
「構いませんよ?」
「お父様がいる間に、お父様にあえるかしら?」
「ええ、多分お会いできますよ。それに奥様達がいらっしゃってもいいのなら、夕食の時間もございますし」
「そっか、夕食があるのよね。大丈夫よ、始めましょう」