4 いざ第一倉庫へ!
やっぱり赤いマットを進んで、館をでて、母屋へと行く。かと思いきや、母屋の玄関を通り過ぎた。
不思議に思いながらセサリーと、行きながら呼び止めたレンドーとスミスについて行くと、母屋の奥で脇に、ガレージくらいの大きさの倉庫がいくつか見えてきた。
どうやら一番手前で立派なドアのついたあれが、第一倉庫らしい。
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫?」
背中を叩いてあげようと思ったけど、手がレンドーに届かない。
なんか、背丈を気にしてるようで恥ずかしいので、人に見られる前に引っ込めた。
そんな私の心配が些細なものになるような暖かさでレンドーは言った。
「アリコスお嬢様、ありがとうございます。いつもこう、埃っぽいところに来ると苦しくなるんですよね」
咳をするのはレンドーだけで、アリコスが思うに大したことはない。しかし、たしかに第一倉庫は結構埃っぽく、長居はしないということで決定した。
みんなはそそくさとカタログを運び出す。アリコスはただそれを見ているだけ。
(ちょっと中をのぞいてみようかな)
しかし二、三回中に入ろうと試みるものの、その全てで中から出てくるセサリー達にぶつかりそうになる形になり、アリコスは結局断念した。
しかし外にも見るものはあった。外に出されてくる本はみな、丁寧に保管されてあったが、時々埃が被っているものもある。しかもそのほとんどがカタログ。そのせいか、それらの本の大半は10センチ台に切った布で縛られていた。
(なにこれ、普通の布じゃないわ。まさかこんなところにも、無駄と遭遇するなんて思いもしなかった)
明らかにそれ用に縫われた綺麗な布だとわかった。アリコスは絵柄や太さまでも、正確に綺麗にあっている布をじっとみていた。きっと測ったらほんとに10センチな気がする。
そうしているうちにルイスが最後のひと束を外に出すと、セサリーがまた母屋の方へと歩き出した。一番多く持ったスミスが後を追い、レンドーがカタログを近くの棚に置くとドアを閉めていった。
アリコスは最後尾のレンドーに並んで歩いて行った。
(きっとみんな重いんだろうな)
やっとそう思って、ここで生まれて初めて使用人と貴族の身分の違いに気付かされた。
ああ、なんでわからなかったんだろう。ここは貴族は楽だけど使用人はきっとつまらないんだわ。
「はあ…ふうっと」
お父様よりふた回り痩せている、ぽっちゃりなレンドーの疲れた声が聞こえた。
横を見てルイスを見ると、気づかなかっただけで、こちらも少し辛そうな顔をしている。でも彼は40歳くらいの年にあわず、筋肉もあるみたいだし、持ってる量は彼にとってダンベルのようはものなのかもしれない。
断っておくけど、ルイスの量が一番多い。
これからは使用人みんなにも、絶対に感謝しなくちゃ。
アリコスは早くお礼を言えないものかと足取りを軽くして、この道をスキップで進んでいった。
そしてようやく部屋が見えた。
「スミス、レンドーありがとう」
セサリーに続いて、
「スミス、レンドーお疲れ様。ありがとう、助かったわ」
二人は笑って、いいえ、とか、用があったらまた呼んでください、とか言ってくれた。セサリーと見送るのさえなんだか楽しかった。
「セサリーもありがとうね」
「いいえ、そんな」
「とんでもございません」
みんな優しいんな。
あれ、それとも私が子供だから?
思えば私はまだ12歳なのだ。すっかり忘れていた。
リドレイをかわいい、かわいいとか思ってたけど、そうだ。セサリーや私からすれば、今の私だってぶっちゃけガキじゃないか。