3 カタログとは名案ね
考え込んだセサリーは、物価についていくつか話を知っていた。
たとえば“カルレシア公爵家に収められる特産物の物価について記録された書類”。“武器カタログ”に“特注品洋服のカタログ”。ほかには花屋や薬、薬草や魔道具のカタログなど幅広くある。
他にもアリコスにも作れるような料理や、魔法道具や、アクセサリーのわかりやすい説明書のあり方も知っていた。
そう思ったセサリーはとりあえず全てアリコスに言ってみる事にした。
「アリーお嬢様、例えば…」
という具合に。
話を半分───物価についての話を聞き終えたあたり───で話を遮った。
その半分は物価を調べたいアリコスにとってどれもいい材料となるはずなのだ。しかしアリコスが特に食いついたのは、“カルレシア公爵家に収められる特産物の物価について記録された書類”だった。
「それってどこにあるの?」
「武器屋さんに行けば武器カタログが置いてありますし、花屋さんに行けば花のカタログが置いてありますよ?」
「そうじゃなくて、“カルレシア公爵家に収められる特…産物?の書類”よ」
「それは屋敷の第一倉庫にあります」
「そう。もしかしてカタログとかも置いてあったりする?」
「新しいのはありませんが、ここ10年あたりのカタログならあると思います。でもそんなのみても…」
「連れてってよ!」
だからセサリーを急かし続ける。情報は早いうちがいいに決まっている。
こういうわけでセサリーは残りの半分を話す機会を失ったのである。
「急いで、ほらっ!」
「どこへ?」
「何言ってるの、もちろん第一倉庫よ。カタログ全部持ってくるからそれが入るような入れ物も用意してね!」
ラッキーな情報に、アリコスはすっかりハッピーだった。
セサリーも寝込んでいたアリコスが満面の笑顔で手を引こうとするので、満足だった。でも入れ物を用意するうちに気がついた。
「え?アリコスお嬢様、『カタログの全部』の中には資料も入っていますか?」
「ええ。もちろんよ」
「あのお嬢様?いいにくいのですが、貴重な資料なので“カルレシア公爵家に収められる特産物の物価について記録された書類”やほかの幾つかの資料は、ご家族でも旦那様ご本人でも持ち出し禁止になっています」
「そうなのね。わかったわ、諦める。じゃあ、えっと」
まだ午前中だし倉庫に入り浸ろうと言いかけて、入り浸ってどうするのだと思った。
善は急げで時間はかけられないし、暗記も簡単ではない。
(書き写せばいいじゃん!昔の本みたいに!)
前世の、社会科見学の博文館で見た、手書きで受け継がれてきた書物を思い出した。たしか、源氏物語?
「書き写して写したのを持ち出すのもアウト?」
見るからにめんどくさそうな顔をして、セサリーは答えた。
「それはつまりトレースするってことですか?」
「できるの?トレースが?」
「ええ」
「じゃあそれをやりましょうよ!」
「あの!」
セサリーの手を引くと、また言いにくそうな顔をされた。
「何よ、まだ何かあるの?」
やばい。機嫌の悪い時のアリコス口調だ。
笑顔笑顔と思っても、上手く笑える気分になれない。
「旦那様の許可を得ないと…」
「あとで掛け合ってみるわ。じゃあ“カルレシア公爵家の特産物?についての書類”は、また今度、今夜の夕食の後ということでカタログを取ってきて、ぜひともトレースの仕方を教えてちょうだい」
「わ、わかりました。でも多すぎて一人じゃ持ちきれないので、他の人達にも2、3人声をかけて行きましょう」
「わかったわ」
誤字脱字報告ありがとうございます!
おかげさまでいつまでも恥を晒さずに済みました。これからもよろしくお願いします。