メイトなら大丈夫よ!!
夜間、フィオラに許可をとり、夕食の片付けをしている厨房に訪れる。
レイシアに渡すお菓子としてあのクッキーを学園へもっていいかと聞くとメイトは2階返事で断った。
「イヤですイヤです」
「なんで?」
「だって僕の名前を出すでしょう」
「ええ。あなたの作品だもの」
「だったら絶対にイヤです」
「なんで?」
「女々しいと思われるに違いありません」
「そんなことないわよ。メイトっ」
そしてアリコスはメイトの肩をつかむ。
「例の彼女なら心配ないわ。どんな女の子だってこんなに美味しいお菓子を作れる男子なら喜ぶにきまってるわ」
「え?」
「え?」
「そ、そうですかねぇ?」
(あっ!大変だ、メイトだけど男性の肩をつかむなんて…)
「ええ!それじゃあね?」
アリコスは早速逃げに転じる。
後ろを向いたアリコスにメイトが言った。
「もっとたくさんつくります。よければレイシアお嬢様に、最近の流行をきいてください」
「わかったわ!」
(らしくないとは思うけどやっちゃったから仕方ないわよね。どうしましょう…)
最近になってアリコスは、あのマリコッタによる監禁作戦が正しかったと思い直してきている。もともと正しいに違いはないのだが、それでも人と会えないというのは苦痛であったから、今でも少し反発がしたくなるのだ。
だが作法といい、人との接し方といい、「アリコスお嬢様は、レイシアお嬢様とは別人ですからね」で済ませれるのが不思議なくらいの自身の過ちの数は理解しているつもりだ。
………
……
…
翌翌週にレイシアが来ることが決まり、週末に顔を出した厨房は大忙しだった。
至るところで音が鳴っている。しかし一番世話しなく動いているのも、一番長く考え事をするのも一人に決まって見えた。
「アリコスお嬢様」
「まあエティ。メイトはずっとああなの?」
「はい。最近は学園でもこうですよ」
「え?今の時期は学園に通ってきてるの?」
エティは大きな目をパチクリとさせて笑う。
「はい。Cクラスの領は選べるんです。ご存知ありませんでしたか」
「ごめんなさい、失礼だったわね」
「お気になさらず」
Sクラス、Aクラス、Bクラスはそれぞれ同じ領にある。ーー王領。城下町でも攻略キャラに遭遇することがあったから、今のアリコスにとってあそこは危険地帯だ。
(まさかCクラスが王領になかっただなんて)
アリコスは申し訳なさそうにすると、そっとメイトのレシピに触れた。
「アリコスお嬢様。今は話しかけない方が」
「ええ。少し見るだけ。もともと少し寄れただけだしね」
早速観察をはじめたアリコスを放り、セサリーがエティにうなずいてみせる。
「それで最近、エティの方は…?」
セサリーの思う通り、アリコスはすこし別の世界に集中していた。
前回、10日前のやりとりで交換ノートと一緒に渡したノートだ。
細かく書かれている。一番最初、ここだけ消しあとがないところを見ると、あのクッキーのレシピは綺麗に書き直されているということだろう。
タイトルは【学園用レシピ】
「ノートならたくさんあげられるのに」
「なんですか?」
アリコスの小声を聞いていたハレルドにアリコスは首を降ってごまかした。
「これをメイトに」
「これは」
「ええ。でもメイトに頼まれていたの。レイお姉様もわかって書いているし、問題ないわ」
「承知しました」
「それではね」
(角度15度。よしっ)
見違えるほど成長したアリコスのお辞儀に、ハレルドは大人っぽくなったな、とだけ思った。
ハレルドがよく買い出しへ行く、美人街として有名なカルレシア領の城下町は、そのあだ名の通り美人が多く、ハレルドは見飽きたと感じる節があるくらいだ。
「メイトー」
「ハレルド様っ!」
エティが止めている声がする。
アリコスはつい、声をだして笑ってしまった。




