心が楽になりました。2
(なんていえばいいのよ。リドがぐずってるのすっごいかわいいけど、こういうときは姉として…どうすれば?)
「私は、リドレイとレイシアと一緒に遊びたいです」
「だめよ。レイシアにはアリコスの指導に来てもらうのよ。レイにもリドにもアリーにも、すべきことがあるでしょう?」
「僕!僕ないです!」
「リドはまたマッチから逃げたそうじゃないの。言うのは好きにすればいいけれど、リドは上手に馬に乗れるようになるまでだめよ」
「でも僕、一昨日は…」
「ではマリコッタさんから、リドがちゃーーんと2キロ馬で走れたか聞いておくわね」
「お母様、いじわるです」
リドレイの目がうるうるとしている。白いテーブルクロスにシワをつける姿をアリコスは見逃さなかった。
(リドかわいい!しかしこの状況はやばい)
「すきにすればいいわ」
お母様は目もあげずにナイフを20度ほど振ると、ララコレットを切り続けた。
「アリーお姉様ぁ!」
リドレイは椅子を飛び降り、アリコスの膝へ駆けてきた。
飛び降りた瞬間、そしてアリコスの名前が呼ばれた時から、アリコスはフィオラからの強い眼力を感じた。
「リ、リド‥?お行儀が悪いですよ」
「アリーお姉様ぁ、お母様がぁ」
(リドレイ、姉は見ていましたよ。そしてかわいい。ものすごく。)
また。
(ひっ!お母様がこわいっ)
手を載せようとしていた足が揺れて、リドレイは驚いた顔をする。
「大丈夫ですか?」
「んーー」
(お母様がこわいよ!)
「リド、涙が」
アリコスはハンカチをリドレイの頬に当てる。
「アリーお姉様はやっぱり優しいですね」
(リドレイの笑顔が眩しい…あわわ、また涙が。かわいすぎる!)
「リド、泣かないで」
「うわーん!うわぁーーん!」
扉が2回ノックされる。
「失礼します」
「ほらこちら。さっきの通りにね?」
リドレイは相変わらず泣いている。
「リドほら、きたわよ」
一転して優しいお母様の声に、リドレイは恨めしいように「なんでずが?」と鼻声で答えた。
「リドレイ様、クレープです」
リドレイの大好物のクレープの香り。声の主はいくばくか身長の伸びたメイトだった。
「これはなんの味ですか?」
「ちょこれーとです」
アリコスの視線にうなずくと、メイトはリドレイの前にかがみ、続けた。
「これまでのクレープに、ちょこれーとの苦味を加え、甘味のあるクッキーを散らしました。食感も楽しめます。他に、クッキーの中になまくりーむを入れたお菓子もありますよ」
後ろにそれらしきものが見えた。
大判の、大福のようなクッキーだ。
「私も頂いても?」
アリコスよりも先にフィオラが聞くと、メイトは紳士的な笑みで「ええ」という。
しかしそれを遮るように、リドレイが「だめ!」というのでフィオラは起こった口調で「たくさんあるものね?」という。
「でもだめ!」
「リド、私は?」
「ハッいいですよ!」
リドレイは海面に顔をつけていた少年のように、生き生きとして見えた。
結局リドレイは本当にクレープを食べきった、訳ではなく、3つを食べ、用意されていた8つのうち残りの5つを自室へ持ち帰り、結局独占した。交換ノートによると、厨房ではリドレイお坊っちゃまがが大変かわいらしいと、笑いの種にされたらしい。
よってフィオラは別として、アリコスはクッキーを口にした。それは本当においしく、前世の生クリームパンが思い出された。
「どうやってつくっているの?」
「それは…」
「アリー、そういうのは厨房でやってちょうだい」
フィオラはそっとリドレイに許されたクッキーを手に取りながら、そういうと、一口噛んだクッキーに「おいしい」と言葉をこぼしていた。
アリコスはメイトと共に苦笑いをし、この先の休憩の中で度々この話をするようになる。
(リドは出てっちゃったけど、このクッキー、本当においしいわ)
アリコスは一口で残りのクッキーを食べてみる。すこし塩が入っているらしい。何枚でも食べれる味だ。
(それにしてもお母様もリドを叱らないなんてね)
フィオラはまじまじとこのクッキーを見つめると、目を輝かせてクッキーを頬張った。
「ふふふっ」
アリコスもそれを真似る。
(我が家は本当にいい家族だわ)