表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏性の公爵令嬢  作者: あまみや瑛理
何かが変わる予感
106/121

5 数週間後

今回はすこしマリコッタ視点です。

ほぼ監禁状態での勉強が続いたある日のこと。ノエタールがやってきた。

コンコン、と音がしてアリコスは少しだけ顔を上げるが、そのままで、というマリコッタにペンを動かすことで応えた。


「アリコスお嬢様?」

「……」

「アリコスお嬢様?」

「どうしたの、レイチェル」


ゆったりとした足取りでドアまでやってきた。レイチェルの対応は普段通り、つきっきりのマリコッタが行う。

ドアから先の音は距離が遠い分聞こえにくい。次第にアリコスは普段の集中力を取り戻した。

コトン、と優しい音がしてマリコッタが戻ってきたことがわかる。

しばらくまた時間が経って、肩を回しているとマリコッタが「お茶にしますか」と言う声が背から聞こえた。


「ええ!」


お茶はマリコッタが入れてくれる。

その所作は実に素晴らしいもので、そうそう真似できるものではない。とその仕草を間近に見るセサリーはよく話してくれるのだが、コトコトとお湯を入れている間にもアリコスは勉強の手を止めることを許されていない。


「お茶が入りました」

「わかったわ」


アリコスが疲れた手を揉みながら明るい声で答えると、「いえいえそのページを終えた後でいいですよ」と言う。


「今めくったばかりで問題は目も通してないのよ」

「ではお茶菓子を用意させますから、その間にやってください」

「え?」

「やってください。アリコスお嬢様のためです」

「…どうしても?」

「では…仕方ないですね、集中が切れているようですから本を読んでいらして構いませんよ」

「やった!」


マリコッタが睨む。


「や、んっと…?」

「『ありがとうございます』」

「ありがとうございます!」

「ふふふっ」


セサリーが笑う。


「ではセサリーはお茶菓子を」

「はい、ふふふっ」


あのマリコッタをやり込めて得る、このささやかな時間がアリコスの本を読む時間なのである。


お茶菓子にマカインやスコーンが用意されて、いっときのお茶の時間を楽しむ。

そして思い出したように、「そういえば、レイチェルの話は?」と聞くのである。


「ああ」


マリコッタは紅茶の水面を見ながら話す。


「ノエタール様がいらっしゃったようで」

「ノエ…」


マリコッタの視線を感じて、言い直す。


「ノエタール…様が!」

「はい。第二倉庫で本をご覧になっているそうなので、退屈はしてらっしゃらないでしょう」

「そうね、それでもまっているわよ」


アリコスが言い切らないうちにまたドアがノックされた。マリコッタが対応に出る。


「ノエタール様が、ケーキを食べたいと。おっしゃっているそうで」


マリコッタは含み笑いをして告げる。アリコスは笑って応えた。

明日勉強量を増やすことを条件に、午後は全くの休みを得た。

厨房に向かう途中でレイチェルに会った。もちろん彼女はアリコスに向かって頭を下げていた使用人の1人ではあったのだが。


「あ、レイチェル」

「アリコスお嬢様」

「これからメイト達にケーキを作ってもらおうと思うのだけど、何かリクエストはある?せっかくだし」

「私達は、もう、十分ですよ。賄いに試作品が付いてくると言うだけでもう」


レイチェル曰く、メイト達の料理の腕が上がったことは使用人の間では有名なんだそうだ。

それはそうと、こうして5分ほど駄弁って、「みんなはどう?」というアリコスの問いかけに、ほかの使用人も立ち止まって話に混ざり、結局、ケーキのホールを2つ他に頼むことになった。


厨房に着くと、アリコスは歓迎された。

全く危険人物扱いされていた少し前とは大違いで、マリコッタも驚いている。そういえばマリコッタにしてみれば、厨房でのアリコスの様子を見るのは初めてなのだと思ってセサリーは1人でに納得していた。


「そういうわけで、あとでみんなのところにケーキを3つ、特に美味しかったふた切を第二倉庫に持ってきてね」


こんな具合でアリコスは厨房を出た。

できる女、と言うのだろうか。マリコッタにはわからなかった。庶民の、マリコッタにとってわかりやすく例えるのならラピリス商団の女のような低俗さを感じたが、不思議とアリコスの生き生きとした様子に嫌悪感はなかった。

そんな気持ちを持ったままマリコッタは結局第二倉庫にまでついていった。


「それじゃあ、行ってくるわね」


アリコスが年頃に若さを持って生き生きとした笑顔で手を振る。

セサリーはセサリーでも年頃に笑って手を振りていた。

マリコッタはこれをどうしたものかと思ったが、セサリーが「行きましょう」といたずらな笑みでマリコッタの背中を押すもので今回は目を瞑ることにした。


【作者の質問ボックス】


終わりにある、『庶民の、マリコッタにとってわかりやすく例えるのならラピリス商団の女のような低俗さを感じたが、不思議とアリコスの生き生きとした様子に嫌悪感はなかった。』についてです。

庶民の、とありますが、マリコッタ自身は貴族なので、庶民のような低俗さ、とかかっています。

うまく伝わるか伺いたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ