6 お祭り騒ぎ
アリコスはセサリーに言われた通り、部屋着に着替えると厨房に向かった。
一刻も早く成功を、そして次のレシピについて伝えたかったのだ。
「成功よ!!」
アリコスが入ってきて真っ先に聞いたのは、ハワードの笑い声だった。
これにはハワードも言い分がある。というのもアリコスが厨房に入るまでそわそわしていた二人が急に真面目な顔になったので、うまく堪えきれなくなったのだ。
「まあ当たり前だよな」
「自信作だもんな」
ハワードの笑い声には皆がスルーしていたが、メイト達の言い草にハワードはまたもや堪えられるか心配になった。
「ハワード様、奥様が次の茶話会について…」
「おお、わかったわかった。すぐに行く」
アリコスのあと、ほどなくして訪れたレイチェルにハワードは軽い様子で受け答える。そしてメイト達へ「じゃあ楽しんで」と面白がったウィンクするので、今度はレイチェルが何事かと思って吹き出した。
「はいはい、じゃあ行きますよ?今度はハワード様の出番もありますって」
そういう声を最後にして、レイチェルとハワードは厨房を出る。
「な、何言ってるんだ。俺だって自分の料理が好きだぞ?ただちょーーっとアリコスお嬢様の料理が美味しすぎるだけで…」
「試食会はそう何度もありませんからね?」
「わかってるさ。でも新しいのができたらまた食えるんだろうな」
「そういう事を頑張らせるのが、ハワード様の仕事でしょ?」
この会話は比較的小声で廊下で行われていたため、アリコス達の耳には届かなかったが、たしかに使用人たちの間では周知の事実であった。
「さてさてさてさて?」
アリコスはそう言ってから少しの沈黙の後、くっと口角を上げた。
「どうしましょ、ノートを忘れてきちゃった。そうだセサリー、ちょっと行ってってそれじゃダメよね?ちょっとだけ行ってすぐ戻るわ」
メイトたちはまたいつものように取り残されたわけだが、アリコスがいなくなったのを確認すると、うなずきあって笑みを前面にだす。
「やったーーー!!!!」
「これで昇格かな」
「現金だなぁ」
「またあの甘いの食べれるかな?」
「やったーーーー!!!!」
「侯爵様まで好きなんだぞ?いい加減もう無理だろ」
「やったーーーーー!!!!」
「メイトにいちゃん叫びすぎ」
エティも一度は叫んでいたのだがそれきりで、「耳キィンとする」とエティは続ける。
「いいや少年たちよ、ここは喜ぶべきだ」
ちょっと年配のスープ係がメイトの肩を抱く。
「思いっきり叫ぶぞ!ほらみんなぁ!!」
ちょっとばかり荒らされた、迫力のある言い方で、言われてみればスキンヘッドの肉係が司会をする。
「「「「「「「大成功してやったぞーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」」」」」」
帽子が飛び交う。
エティは聴いていて耳がキィンとすると思ったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
人の熱、人の覇気に酔う。
そこからしばらく、と言ってもほんの十数分間だが、この厨房はお祭り騒ぎだった。




