↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GENGO!EXTRA HARD MODE ~異世界が鬼畜難易度だったでござる~  作者: 駄々
第三章 ボルゴダへの航海編
PR
30/33

第9話 希望、失望、絶望

「真っすぐ走り続けろ」


 ストランディルは、肩車していたサイファを下ろした。そのまま彼女に総舵輪を任せ、海面の様子を伺う。海面は静まり返っているが、このまま済むはずはない。


「来るぞ……!」


 ストランディルが呟くと同時に、



 ガクンッ



 加速とは逆の力がラクーン号に働き、衝撃が俺たちを襲った。快速で飛ばしていたラクーン等は突然の停止を強いられ、船員、兵士たちが甲板に投げだされた。


「船が触手にからめとられたんじゃ!」


 ユーリクの指摘以外に、原因は考えられない。舟艇のスクリューに巻き付いたのか、船体をつかまれたのか、いずれにせよ船は触手の虜になっているのだろう。


「あっ!」


 という間だった。サイファが触手に巻き取られ、遥か頭上に持ち上げられた。


「ちくしょう! サイファの存在に気づきやがった。船の足を奪いにきやがったか!」


 見上げたストランディルが歯ぎしりをする。しかし、ポカンと口を開いた。


「あいつ、馬鹿か……!」


 なんとサイファは胴を触手に巻かれたまま、俺たちに敬礼しているではないか。


「違う、別れの挨拶じゃろう」


「サイファ―ッ!」


 俺たちの叫びも虚しく触手はサイファを絡めとったまま、静かに海中に姿を消した。入れ替わりに、数十本の触手が船体の間近に出現した。


 その触手たちの動きから、海中にいる魔物の本体、タコだかイカだか分からないが、そいつがダリアの攻撃によって激怒しているのがわかる。触手たちはぶるんと身を震わせると、一斉にラクーン号を攻撃し始めた。これまでにない猛攻である。


「こうなりゃ、やけだ! 左舷、右舷、全砲門開け! なんでもいい、どこでもいい、砲身が焼けきれるまで撃って、撃って撃ちまくれ!」


 ストランディルが伝声管に向かって怒鳴った。


「ヤツに大砲は効かないぞ」


 俺が言うと、ストランディルは一口ワインを煽って、


「やれることは、やっとかなきゃな。少なくとも精神的には楽になる」


 直後、轟音がなりひびき、やたらめったらの砲撃が始まった。しかし予想通り触手にはたいして効果もなく、さらにこの狂騒を演出するだけだった。


「おわっ!」 


 ストランディルのすぐ背後の甲板を触手が激しく打った。船体がきしみ、大きく揺れる。触手たちは荒れ狂っていた。兵士をからめとっては放り投げ、激しく船体を打ち据える。


「こりゃ、やばいかもしれんな」


 ユーリクがあごひげを撫でた。


「いまさら、何を言ってるんだジジイッ!」


 希望、失望、また希望、その直後の絶望。何度も繰り返される感情の起伏。人生とはまさにこんなものかも知れない。それでも倒れないで歩き続けるものがいるとするなら、


(そんなヤツはみんな勇者だ!)


 クアリスを失い、ダリアは生死不明、サイファまで海中に持っていかれ、それでもまだ戦わなければならないというのか。そして今まさに、一本の触手が俺めがけて伸びてきた。その速さ、その角度、その大きさ、これは避けようがない。


「ゲンゴッ!」


 ルヴィ様の声がした。巨大な火球が生じ、辺りの空気が焦げる匂い。火傷を負った触手がすごすごと引き帰していく。


「大丈夫か、ゲンゴ!」


 ルヴィ様が魔道で危機一髪、俺を救ってくれたのだ。しかし今度は彼女の頭上めがけて触手が躍った。


「ルヴィ様っ!」


 これも直撃コースだ。しかし俺には叫ぶほか何もできない。激しく揺れる甲板のせいで駆け寄ることも出来ない。



 ズパッ!



 触手はルヴィ様を押しつぶす前に、両断された。


「ビトー!」


 あいつが例の必殺技でルヴィ様を救ったのだ。そのビトーに休む間を与えず何本もの触手が襲い掛かった。


「むんっ! 絶対斬陣-っ!」


 ビトーはそのことごくとくを切断した。さすがボルゴダ帝国の最強剣士、揺れる甲板をものともせず、跳躍しては切り、切っては跳躍を繰り返す。足腰が鍛えられているのだろう。しかし、もうその息が荒くなっている。彼の必殺技は体力を激しく消耗するのだ。


「もういい、ビトー、下がれ」


 ルヴィ様がビトーを気遣い、叫んだ。


「俺の戦場はここだ!」


 ビトーが叫び返す。


「何を言っている?」


「俺はお前を守るために戦う。俺の剣はお前に捧げているんだ!」


「ビトー……」


「お前と俺では身分が違いすぎる。だからずっと言いそびれていた。俺が剣士の道を志したのは、ボルゴダ最強の剣士になるためでもない、焔獅子騎士団の団長になるためでもない。お前の騎士になるためだ。お前が好きだ、ルヴィ!」


 おのれ、ビトー! お前もか? お前もなのか? なんだって死を前にして、みんなルヴィ様に告白するんだ? いい加減にしろっ! 


 だけど、頑張れ、ビトーッ!


 更に殺到する触手を二、三本叩き切ると、ビトーはがっくりと片膝をついた。


「もういい、そこをどけ、ビトーッ!」


 ルヴィ様が叫んだとき、ビトーの前にひと際大きな触手が屹立した。もう動けないビトーを上から叩き潰そうというのだろう。


「おっと、お前だけにいい格好させるわけにはいかねえなあ」


 ストランディルが、ビトーをかばうようにその前に立った。


「せっかく俺様に惚れかけたルヴィの気持ちをぐらぐらさせるなよ、色男!」


 そう言ったストランディルの顔には不敵な笑顔が張り付いている。左手に筒状の物体を二、三本、握りしめていた。


「ダイナマイトだ!」


 ストランディルは、マッチを取り出し、


「散々、水を被ったからシケッってなきゃいいけどな」


 シュッと踵でこすると、マッチは無事発火した。ストランディルはその火をダイナマイトの導火線に移し替えた。シューッと音をして導火線が燃え始める。


「し、死ぬ気か、ストランディル?」


 ビトーが尋ねると、


「またな」


 ストランディルは床屋にでも行くような気軽さで言い残し、全速力で駆け出した。途中、甲板に突き刺さっていた剣を引き抜くと素晴らしい跳躍を見せた。甲板から触手に向かってストランディルの体は飛翔し、見事に触手に届いた。


「あら?」


 しかし、彼の手はヌルヌルした触手の表面をつかみきれず、そのまま荒れ狂う海中に落下していった。


「あ、あいつは何がしたかったんだ?」


 みなが呆然としていると、


「見ろ、ゲンゴ!」


 ユーリクが触手を指した。触手には剣が刺さっており、そこにダイナマイトが引っかかっている。導火線の火が筒の部分に飲み込まれた刹那、



 カッ



 大爆発が起こり、触手が四散した。



 ボタッ、ボタボタッ!



 触手の残骸、その肉塊が甲板にばらまかれた。


「うげえっ」


「みな、避けるんじゃ!」


 大きなものでは数メートルの大きさの肉塊である。下敷きになれば怪我ではすまない。甲板にいるものは必死で逃げ惑った。


「ちくしょう、何か手はないのか?」 


 俺は肉塊の落下を避け、ようやく顔を上げた。すると今また、触手が新しい攻撃を繰り出そうとしていた。四、五本の触手がこよりのように、ねじれ、絡み合い、一本の極太の触手を造り出していた。それが天に向かって、どこまでも伸びあがっていく。小さな希望を作るために仲間が次々とその命を散らす中、状況はまったく改善しない。


「な、なんなんだ、一体? いったいお前はなんなんだあっ?」


 俺は極太の触手の柱に向かい絶叫した。甲板に生き残っているもの全てが、その目に希望の光すらなく、ただただ呆然と見上げている。極太の触手がラクーン号に向けて、ゆっくりと倒れ始めた、倒れるほどに加速し、そのまま船体の中央をしたたかに打ち据えた。



 ズズズズズズズンッ



「うわあああああっ」


 その絶叫すら聞き取れない轟音の中で、ラクーン号の船体は、見事に真っ二つに砕け散った。同時に何十人もの船員や兵士が海へ投げ出される。


「ああ、ダリアッ!」


 傾いた船体から、ダリアの体が滑り落ちようとしている。俺もしがみついているのが精いっぱいで、ダリアが海中に没していくのを見守るしかなす術がない。


「ダリアーッ!」


「全員、退避っ! 全員、退避しろ―っ」


 ビトーが叫ぶが、素朴な疑問が湧きあがる。


 ―いったいどこに?


 それでも俺なりに答えを出した。


「じじい、船尾へ行くぞ!」


 俺、ルヴィ様、ビトー、ユーリクの四人は、総舵輪の近くにいたため、分断された船体のうち後方部分にいた。船体がゆっくっりと傾き沈んでいく中、それに逆らいなんとか甲板を這い上がっていく。


 一方、前方部分はすでに七割がた海中に沈んでおり、兵士たちはワラワラと上へ、上へと行き場を求めている。


「くそっ!」


 その様子を見ていたビトーが甲板を拳で叩いた。


「ビトー副隊長!」


「お別れです!」


「焔獅子騎士団に栄光あれっ!」


 口々に叫ぶ兵士たちを乗せたまま、大きな渦に巻かれながらラクーン号の半身は海中へと沈んでいった。


「うわああああ!」


「落ち着け、ゲンゴ! 落ち着くんじゃ!」


「これが落ち着いていられるか、ジジイ?」


「生き延びることだけ考えろと言ったじゃろ?」


「こんな状況でどうやって生き延び……」


(あっ!)


 そのとき、甲板をつかんでいた俺の手が滑った。支えを失った俺の体は、甲板を滑り落ち、荒れ狂う海面に落下していく。


 俺は虚空へ向けて手を伸ばした。今、生き残るために出来る俺の全てである。



 ガッ!



 その手をつかんだものがいた。一瞬、体が静止したのを見逃さず、俺は右手の爪を甲板に突き立てた。だが、俺の体の重みを受け止めたその人が、替わりにに海へと落ちていく。


「ルヴィ様あああっ!」


 一瞬、彼女が微笑んだような気がした。


「心配するな」


 いつもの台詞を聞いた気がした。もちろん幻聴である。


「ルヴィッ!」


 ビトーが一瞬のためらいもなく、後を追って海へ飛び込んだ。


「ルヴィ様っ、例え火の中、水の中……!」


 続いて俺も飛び込もうとしたとき、


「たわけっ!」


 ユーリクが上の方から怒鳴った。


「ルヴィ様を助けなきゃ!」


「あの荒れた海の中で何が出来る! 溺れる他なかろう!」


「だ、だけどビトーは行ったぞ!」


「ビトーにはその資格がある」


「なんだとっ?」


「ビトーにはルヴィ様を命を賭して助けに行く資格があると言ったのじゃ!」


「俺にはないというのか?」


「お前の命をたった今、救ったのは誰じゃ?」


「!」


「分かったようじゃの。ルヴィ様は命を捨ててお前さんを救ったんじゃ。そのお前が命を粗末にすることは、ルヴィ様の一切の行為を無に帰することになるんじゃぞ」


「ぐっ」


 一部の隙も無い正論だ。


「うわああああん」


 俺は声を上げて泣いた。ルヴィ様は俺を騎士と呼んでくれたのに、彼女を救うどころか、逆に救われてしまった。ビトーのヤツは自らルヴィ様を守る騎士になると言った。そしてその通り行動した。この俺の受け身とビトーの自主性!


「生き延びるんじゃ。最後の一人になっても」


「寝言は寝て言え、じじい! この状況でどうやって生き残れって言うんだ。クアリスも、ダリアも、ストランディルも、サイファも、ヴィトーも、そしてルヴィ様も死んでしまった! 俺に何が出来るっていうんだ!」


「登って来るんじゃ!」


 ユーリクはそれでも許してくれなかった。船尾から俺に向かって手を伸ばす。不思議とユーリクのその声に逆らえない。


「うわあああああっ」


 また一人の兵士が甲板をすべり落ち、海に飲まれていった。いや、「また一人」ではない。「最後の一人」だ。


 俺は鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながら、甲板を這い登りつづけた。そしてついに、船尾に辿り着いた。


 急角度で海面から飛び出たラクーン号の船尾、その頂上へたどり着けたことで妙な達成感を感じて、なんだかすがすがしい。もう頭がおかしくなってしまったのか。見下ろすと、海面にはおびただしい数の船の残骸がプカプカと浮いている。


 触手たちは大勢が決したのを知ってか知らずかか、ユラユラと揺れるだけで、ことさらに俺たちにとどめを刺すことを急がない。


「残念じゃった」


 ユーリクが言った。


「お前さんとの旅は楽しかった。もう少し、一緒に旅を続けたかったのう」


 ユーリクは悲しそうな顔をした。


「魔王どもに戦いを挑むための戦力を整えている最中じゃった。しかしこうも奴らの動きが早いとは、わしもに予想がつかんかったのう」


「へへへ。ジジイにも見抜けないことがあるんだな」


「馬鹿を言うな。先のことなど誰が知ることが出来ようか。まさか今日この日に死ぬ羽目になろうとは思わなんだわい」


「ユーリク、今までありがとうな」


「な、なんじゃ。やぶからぼうに気持ち悪い」


「ジジイがいなかったら、俺はあの森でとっくに死んでたもの」


「そうではない。お前の悪運の強さがそうさせたのじゃ」


「ははは。どっちでもいいや」


「友達じゃ」


「え?」


「わしとお前さんは、この先、何があっても友達じゃぞ」


「この先なんかないだろう? 頭がおかしくなったのか、このジジイは?」


「そうじゃったな」


 ユーリクは照れたように笑った。


「でも悪くない。ユーリクと一緒に死ねるならな。友達だからな」


 俺は右手を差し出した。


「おう、握手とかいうやつじゃな」


 俺たちは固く手を握り合った。


 ザアアアアアアッ


 数本の触手たちが、今にも沈みそうな船体に近づいてくる。ついにラクーン号とその生き残り、俺とユーリクにとどめを刺すつもりなのだ。 


「律儀なやつだなぁ。放っておいても、もうすぐ沈むって言うのに」


 バカバカしい話だ。ただのガキとジジイしか残ってないのに。なんだかおかしくなってきた。


「ところで、わしは今日、死なねばならんが……、お前さんは死なんぞ。生き延びたのじゃ」


「な、何を言ってるんだ、ユーリク?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。