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エピローグ

 さらに、十年の歳月が流れた。

「ねぇねぇ、スーザン。どうして、お父さまとお母さまは、フーフになったの?」

 エプロンドレスの裾を引きながら、勝気そうな顔をした幼い少年が、舌足らずな喋り方でスーザンに質問する。

「まぁまぁ。坊ちゃんは、おませさんですね」

「オマセさん? 僕は、オマセなんて名前じゃないよ」

 小首を傾げながら少年が言葉を返すと、スーザンはフフッと笑いながら説明する。

「大人の真似をして背伸びをする子のことを、おませさんと言うんですよ。坊ちゃんは、夫婦とは何か、ご存じなのですか?」

「うん、知ってる。お父さまとお母さまのことだよ」

――あらあら。これじゃあ、堂々巡りね。

 スーザンがお手上げ状態になっていると、そこへブリジットが通りかかる。すると、少年はブリジットのドレスに縫い込まれたリボンを持ち、パタパタとはためかせながら訊ねる。

「ねぇ、お母さま。お母さまは、どうしてお父さまとフーフになったの?」

「えっ? ――ちょっと、スーザン。幼気な子供に、変なことを吹き込まないでちょうだい」

 ブリジットがスーザンに注意すると、スーザンはブリジットに事務的に謝ってから、少年に尋ねる。

「これは、大変失礼いたしました。――坊ちゃん。どこで、その言葉を覚えたのですか?」

「ん?」

「質問を変えましょう。誰が夫婦という言葉を使っているのを耳にしたのですか?」

「あぁ! それなら、おばあさまだよ。男の子は、大きくなったら、好きになった女の子にコンニャクを押し込んで、女の子からオーケーがもらえたらフーフになれるのよって。だけど、どうしてフーフになるのか分かんないと、コンニャクを押し込めないでしょう?」

 純粋無垢なキラキラした瞳で自信たっぷりに語る少年に対し、スーザンとブリジットは、思わず顔を見合わせて盛大なため息を吐いた。

  *

「だからね。結局、フーフってのが何か、最後の最後まで分からなかったんだ」

「そうかい。それは、残念だったね」

 三人掛けのソファーの真ん中に、髭を蓄えたフレデリックが座り、その開いた股のあいだに少年が座り、フレデリックは少年を見下ろしながら、少年はフレデリックを見上げながら、父子水入らずで会話を交わしている。

「ねぇ、お父さま。お父さまは、どうしてお母さまにコンニャクを押し込んだの?」

「さっきも直したけど、コンニャクじゃなくて婚約、押し込んだじゃなくて申し込んだ、だよ。――う~ん、そうだなぁ。リスに噛まれて、フルーツサンドを食べて、指切りをしたから、かな?」

「えぇ~。何なの、それ?」

「ハハハ。――さて、子供は寝る時間だよ」

 フレデリックは、少年の両脇の下に手を通して持ち上げながら立ち上がり、廊下のほうへと手を引いて行こうとする。すると、少年はその腕にぶら下がり、その場に踏みとどまろうとしながら、駄々をこねる。

「えぇ。気になって眠れないよ。教えてくれるまで、寝たくない!」

「駄目だ。夜遅くになっても起きてる子供は、悪いお化けに攫われて食べられるんだぞ? こんなところに、柔らかくて美味しそうな子がいるぞ。どれどれ、どこからいただくとしようかってな」

 フレデリックが犬歯を剥き出しつつ低い声で脅かすと、少年は怯えた様子でフレデリックに飛びつき、胸に顔をうずめながら今にも泣き出しそうな声で言う。

「寝る! 眠られるから、食べないで」

「ごめん、ごめん。怖がらせすぎたな。大人と一緒なら襲ってこないから、安心しなさい」

「ホント? それじゃあ、ベッドに入るまで一緒に居てくれる?」

「あぁ、もちろん。部屋まで運んで行ってあげよう」

 フレデリックは、柔らかな髪を撫でで落ち着かせると、少年を抱きかかえ、廊下へと向かった。二人の足元には、パチパチと薪のはじける音と共に燃え盛る炎によって、一つの長い影ができていた。そして、小一時間ほどのちには、二つ並んだ影ができるのであった。

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