03 女王と第二王女
「スーザンから聞きましたよ。憧れの王子さまと再会できたのでしょう?」
威厳を滲ませつつ、背もたれの高い椅子に座る妙齢の女が声を掛けると、斜の椅子に座るブリジットは、緑茶かと思ったらケール百パーセントのジュースだったというような苦々しい顔をしながら口を開く。
「はい、お母さま。フレデリック王子とは再会を果たしました。しかし、あれは憧れの王子さまではありません」
「あらあら。笑止千万なことを言うものね。そのココロは?」
興味深そうに女が発言を促すと、ブリジットは苛立たしさを含んだ棘のある声で答える。
「あんな下品で、野太い声の、強面男に成り果てているとは、想像もしなかったからです」
率直な気持ちを言葉にしたブリジットに対し、女は持っている扇で口元を覆って忍び笑いをする。
「笑わないでくださいよ、お母さま。私は、真剣なんですよ?」
「これは、失礼。王子だって、殿方です。成長段階で、声変わりもすれば、顔つきも厳めしくなります。まぁ、我が王家には、ブリジットと同年代の男子が居ませんから、変貌ぶりに驚くのも無理はないでしょうけど」
女が一人で納得していると、得心しかねるといった調子でブリジットが噛みつく。
「しかし、お父さまは、ああいう野蛮な連中とは違いました」
ブリジットが「お父さま」という単語を口にした瞬間、女は片眉を吊り上げたが、すぐに元の表情に戻って話を続ける。
「たしかに、フィリップは優しい性格の持ち主でした。私とは正反対で、軍事、政治、経済より、音楽や美術、園芸を好みました」
「そうでしょう? だから、私は」
こらえ切れずに口を挟むブリジットを、女は射貫くような鋭い視線でひと睨みして口を封じ、さらに話を続ける。
「しかし、そういう気性の人物は、貴族庶民を問わず、稀な存在なのです。基準としては、なりません。いいですね?」
「……はい、お母さま」
ブリジットは、これ以上の反論をしても無駄であると悟り、蛇に睨まれた蛙のようにシュンと萎縮した。
*
「短髪で甲冑姿の勇ましい母親の性格と、繊細で感受性豊かな父親の見た目に似ると、あのように、おおよそ少女らしくない王女に育ってしまうのかしら。難しいものね。このままでは、ベアトリスのほうが先を越してしまうわ。ねぇ、スーザン?」
「はぁ、心配でございますね。スレンダーでストイックな女の魅力がわかる殿方は、滅多に居られませんゆえ」
天蓋の付いたクイーンサイズのベッドで半身を起こし、憂えがちに小窓に向かって嘆く女に、側に控えるメイドが同感した。窓の外には、朧月が浮かんでいる。
「ペチコートしか穿けない国だと諸国の王たちに馬鹿にされて、少しばかりムキになりすぎたかしら?」
「いえいえ。国王陛下に代わって、国民のため、家族のため、立派に務めを果たしております。――夜が更けてから考え事をするのは、精神衛生によろしくないと、侍医も申しております。そろそろ、お休みになっては、いかがでしょうか?」
センチメンタルに浸る女に対し、メイドが即座に否定して鼓舞すると、すぐに話題を変えた。その頃には、月は雲に覆われて見えなり、寝室の闇は一層深くなった。




