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02 十七歳になった少年

 十七歳の青年にとって、十年という時間は長すぎた。

「可憐な乙女が、まさか、まな板ゴリラになってたとは」

「フレデリック坊ちゃん。うら若き女性を、そのようにくさすものではありませんぞ。それに、控え目なほうが、かえって希少価値がございませんか?」

 白髪をオールバックに撫で付け、左目にモノクルをした執事が、ジャケットを脱いでソファーで脱力している青年に向かって窘めると、青年は、ムッと口をへの字に曲げて不快感を示しながら言い返す。

「じゃあ、訊くけどさ。スチュアートは、股間を指差されながら小さくて可愛いよ、珍しいよと言われたら、嬉しいか?」 

「坊ちゃん。そのように品格を損なうような軽口を言うものではありません。一国の王子であることの自覚が足りませんぞ」

 執事が眉間にシワを寄せながら叱責すると、青年は膨れて反論する。

「カリカリするなよ。寄宿舎の談話室や、狩猟クラブのラウンジでは、この程度はジョークとして序の口だぜ?」

「はぁ、さようでございますか。……やれやれ。いささか逞しさというものを、はき違えて大きくなったものですね。嘆かわしい」

 執事は、額に手を添えながら大仰に嘆いた。

  *

 時刻は半日ほど前に遡り、場所は迎賓ホール。シックに決めた紳士たちや、華やかに着飾った婦人たちが、すました顔で社交を愉しんでいる。

――妹君の姿はあれど、第二王女の姿は無いな。まぁ、居ないのなら仕方ない。今回は諦めて、また次に期待しよう。

 青年は、シャンデリアが頭上に煌びやかに輝くダンスフロアを横切り、隣接されたビュッフェコーナーへと向かう。すると、テーブルの奥に置かれたココット皿に入れられたシェパードパイを取ろうと、手前に置かれたビシソワーズを乗り越えて腕を伸ばす少女の姿が目に留まる。

――この場でラム肉とニンニクの料理を食べようとするは、変な女だな。いくらなんでも、がっつきすぎだろう。

「そんなに身を乗り出したら、袖が汚れるよ、お嬢さん」

 そう言って、青年は片手で少女のフリルの付いた袖を押さえ、もう片方の手でココット皿を手に取って差し出す。

「あら、ご親切に」

 少女は、ココット皿を受け取りつつ、形ばかりの礼を述べた。そこへ、メイドが駆け寄る。

「ブリジットお嬢さま。女王さまがお呼びで、……あら、ごめんなさい。せっかくの再会を、お邪魔してしまって」

 二人を見ながらメイドが言うと、少女と青年は顔を見合わせ、まず青年が少女に、次いで少女が青年に言う。

「お前が、あのビディー、なのか?」

「そういうあなたは、フレディーなの?」

 驚きを隠せない様子で、言葉を失ってしまった二人に対し、メイドは口元を手で押さえてこみ上げる笑いをこらえながら嬉しそうに言う。

「おやおや。その様子ですと、今の今まで気づいていらっしゃらなかったのですね」

 楽しげなメイドとは対照的に、二人の表情は、いわく言葉では伝えがたい複雑さで、険しさを増していった。

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