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憩いのひととき

 街に戻った四人は、インプの情報が集まるまでの時間をどう潰すか。

 その会議を街の中央広場でおこなうことにした。


 中央広場は活気に満ちており、食べ物屋、アクセサリー屋、花屋。

 さらには武器防具、骨董品を取り扱う出店まで、様々な露店で溢れ返っている。

 当然比例して人通りも多く、ともすればコポ村の全住人より多いのではないかと思えるほどだ。


「飲み物を買ってきましたー」


 自ら立候補してお使いに行っていたルーインが、両手に四人分の飲み物を抱えてトタトタと小走りに戻ってくる。

 人混みの中を左にぶつかり、右で跳ね飛ばされ、なんとか到着。

 転ぶのではないかと、貴也とエンカは気が気ではなかったのでホッと胸を撫で下ろした。


 貴也が労いにルーインの頭を撫でてやると、彼女はくすぐったそうに首をすぼめる。

 その様を見て、ノゥは貴也の空いているほうの腕を掴み、無言で自分の頭に乗せる。

 育ての親である老婆から離れてまだ心細いのかもしれないと、貴也は払うでもなくされるがままになっていた。


「人気ものね」


 皮肉めいた言い方に反してエンカの表情は柔らかい。

 言われた貴也もまんざらでもない。

 もっとも両脇の二人の年齢を考えれば、仲の良い兄妹のようなものだとしか思えないが。


 名残惜しいが、ルーインの頭から手を離し飲み物を受け取る貴也。

 名残惜しいと思ったのはルーインも同じだったのか、表情が少し沈んだようにも見えた。

 それを見て、自分は離されまいと両手で貴也の手を掴むノゥ。


 ともあれようやく会議を始められる態勢が整ったのだった。


「で、どうするの?」


「どうするかな。

 どのくらい待ってればいいのかも分からないし。

 あ、ルーイン、睡眠時間まであとどれくらい?」


 ルーインが懐から小さなメモ帳を取り出す。

 旅に出てからずっと、貴也の起床時間と睡眠に入る時間を記しているのだ。

 律儀な彼女らしいと貴也は思う。


「今日はあと2時間半ほどの予定です。

 宿のほうは皇帝さんが手配してくれていますので、あと2時間くらいしたらそちらに向いましょう」


「ん、分かった。

 街中を見て回るだけでも2時間くらいなら潰せそうだけど、他になにか案がある人はいる?」


 その声に、手が二つ挙がった。

 エンカと、意外なことにノゥだった。


「私は姉の情報を集めたいわ。

 この都市には他の大陸から来る者も多いからね。

 ひょっとしたらメービスから来てる人で、姉を見た人がいるかもしれないもの。

 __あ、これは個人的なことだから、無理に手伝う必要はないわよ」


 城で姉の目撃情報を聞いてから、ずっとソワソワしていたことに貴也は気づいていた。

 今までは影すら見えなかった姉の行方だったが、それが今は、目の前に行くべき方向が指し示されているのだ。

 居ても立ってもいられないエンカの心情は察して余りある。


「お菓子」


 エンカを慮っていると、隣のノゥが呟いた。

 これからの予定についてのことなのだろうが、しかし『お菓子』?

 なんのことかとノゥを見れば、幼女は服とお揃いの黒いリュックサックを逆さまにして振ってみせた。


「……ノゥさん?

 コポ村を出る時、あんなに大量にあったお菓子はどこへ消えたんですか?」


 嘘だろという驚愕の思いから、つい敬語になってしまう貴也。

 彼の記憶では、あのリュックサックは形が変わるほどパンパンにお菓子が詰め込まれていたハズなのだ。

 ノゥは答えるかわりに、可愛らしい自分のお腹を指差す。

 悪びれず、それどころか『なにかおかしい?』とでも言わんばかりの表情で。


「マジかー……」


「補充する」


 断定である。

 この決定事項を崩すのは不可能に近い。

 そう幼女の瞳が物語っていた。


 古来より魔女とお菓子は繋がりが深い。

 ハロウィンしかり、ヘンゼルとグレーテルしかり、探せばまだまだあるだろう。

 この世界でもそうなのかもしれない。

 それどころかお菓子こそが魔女の力の源なのかもしれない。

 魔女に育てられたノゥもまた、その魔女の性質を受け継いでしまったのかもしれない。


 よく分からない仮説に仮説を重ねて、貴也は無理やり自分を納得させた。


「じゃあお菓子屋さん巡りするか。

 ただ、俺としてはエンカも手伝ってあげたいんだが」


 目の前を通り過ぎていく人の数を見ているだけでも、この都市の人口の多さが窺い知れる。

 情報を集める場所を、たとえば港付近などに限定したとしても、その手間は膨大なものだろう。

 どうしたものかと悩んでいると、ルーインが助け舟を出してくれた。


「では私がエンカさんと一緒に聞き込みに行きますね。

 ノゥちゃんを一人には出来ませんし、貴也さんに懐いているみたいですし」


 声に少しの寂しさを交えて、そう提案する。

 それが貴也と離れることに対する寂しさなのか、ノゥが自分に懐いてくれていない寂しさなのか貴也には分からなかったが、それでも少しでもそれを紛らわせてあげたいと、いつものように頭を撫でてやる。


「いいの?

 私は一人でも平気よ?

 この人の多さには辟易してはいたから、正直言えば助かるけれど」


「はい、大丈夫です。

 一緒にお姉さんの手がかりを探しましょう!」


 声に元気が戻ったようで安心する。

 隣のノゥはすでに行く店舗を物色しているのか、必死に背伸びをして辺りを見回している様子だ。


 城内から見た景色とは違い、天気は同じなのに空は少し曇りがかって見える。

 この都市の特色でもある蒸気のせいなのかもしれない。

 その蒸気の恩恵を示そうとばかりに、広場の中央にある噴水が一際高く水を噴出したかと思えば、回りの水中から一斉に機械仕掛けの人形が飛び出し観客を沸かせた。


「じゃあ二時間後に宿屋で」


 その喧騒を後ろに、四人は二組に別れ、都市の人混みに紛れていったのだった。


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