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自殺志願者は死なない  作者: サバテ
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最弱な日々

 俺が人類最弱になってから1年の歳月が流れていた。最初の数ヶ月は自分の限界を受け入れられずにゴブリンを狩りまくった。日に何十体とゴブリンを狩った日もあった。が、何も変わらなかった。俺は最弱のままだった。

 人は誰かより上であろうとする生き物らしい。そんな奴等からすれば俺は格好の獲物だ。誰が見てもわかりやすい獲物。誰よりも下である最弱な存在。俺への扱いはあまり良いものとは呼べなかった。いや酷いものだった。


 それでも、俺は必死に生きた。全く稼げないFランクの依頼で日銭を稼ぐ日々。周りの冒険者からは笑い者にされながらもアイテムボックスというスキルを活かしてパーティーの荷物持ちなどをして必死に生きた。


 何度も挫けそうになりながら理不尽に抗い続ける日々が続いた。


 王都で俺は有名人になっていた。もちろん悪い意味でだ。子供でも俺を知っている。子供にも馬鹿にされ、街ゆく人が俺に哀れみの目を向ける。そして言うのだ。


「「「「「あぁはなりたくない」」」」」

 と、そう言うのだ。


 生活も質素で見窄らしいものだ。万年Fランク冒険者の稼ぎではその日その日を生きることも大変だ。宿屋は王都で1番安いボロ宿で寝る。酷い時は野宿である。運悪く依頼条件を満たせなかった日などはそうやって夜を過ごしたりもした。


 飯も酷いもので、長らくちゃんとした肉を食べていない。普段食べる肉といえばゴムみたいな食感で味も不味い干し肉のキレとかである。ステーキ肉を食っていた時がとても懐かしく思える。


 そんな生活を1年続けてきている。異世界の生活にもすっかり慣れていた。まぁ、最悪な生活だが……


 今日もいつものようにとあるDランクパーティーの荷物持ちである。今回は近くのダンジョンに潜るらしく6人分の食料10日分入っている。どうやら長い間ダンジョンに潜るらしい。


 王都近くのダンジョンだが、このダンジョンは暁のダンジョンと呼ばれている。何故暁のダンジョンという名前なのか理由は分からないがダンジョン発見者がそう名付けたのだからそうゆうことになるらしい。


 このダンジョンは現在62階層が最高到達地点になっていてダンジョン制覇はまだされていない。


 この62階層もAランクの4人組パーティーでの記録なので深層はなかなか厳しいものなのだとか、今回俺達は35階層を目指すらしい。


 そんな言っても俺は荷物持ちで戦闘には参加しない。正しくはできないのだが、せいぜいゴブリンの相手が関の山だ。それも、複数体同時となるとお手上げである。それだけLv10の俺は弱い。本当に弱い。最弱たる所以だ。


 今回ダンジョンをともに潜るDランクパーティーは剣士2人魔法使い1人ヒーラー1人斥候1人の5人パーティーである。最弱の俺からしてもバランスの取れているパーティーだと思う。


 ダンジョンに入ると斥候がトラップにかからないように皆を誘導しながら魔物の偵察に行く。


 その後も数回の戦闘を繰り返しながら、確実にダンジョンを進んでいく。そして、いわゆるボス部屋にたどり着いた。


 ダンジョンにはフロアボスといわれる。一定の階層に存在する強力な魔物がいる。この暁のダンジョンは10階層ごとにフロアボスが存在している。


 ボスとの戦闘が始まる。ボスは緑色の体をしているがゴブリンではない。ゴブリンよりもはるかに大きく少しブタのような顔、体の筋肉もゴブリンはるかに凌ぐそれはオークである。


 オークとの戦闘が始まる。魔法使いが先制で魔法をぶつけるその隙に剣士2人がオークの右足を同時に切りつける。オークもこれにはたまらず体制を崩す。斥候がオークの目を潰した。痛みで暴れるオークの攻撃を喰らった剣士のダメージをヒーラーが直ぐに癒す。


 やはりバランスの取れたパーティーで連携もなかなかなものだオークもあっという間に倒してしまった。


 オークを倒した後ボス部屋を抜けるとそこにはちょっとしたスペースが広がっていた。俺達以外のパーティーもそこで休憩をしたりしている。ここはボス部屋の奥にあるスペースで元々は地上に転移するゲートがある場所だ。ボス部屋の奥には必ずといっていいほどこのゲートが存在する。


 そして、この部屋には魔物が存在しない。その性質を利用して多くの冒険者はこの部屋で休憩を行うのだ。どうやら我々も今日はここで探索を終えるらしい。


 早速飯の用意をする。もちろん、こういった雑用は俺の仕事だ。雑用も長くやっていると料理もそれなりにできるようになる。

 料理が完成し皆でそれを食べる。俺にとっては久しぶりのまともな食事この依頼の間だけだがしっかり味わうことにするとしよう。

 皆、明日の方針や今日の反省で盛り上がっているが俺には関係の無いことだ。パーティーの皆も俺がいない者のように扱う。


 まぁ、慣れたものだ。俺ごとき底辺が相手にされる事はそうない。偶に駆け出しの冒険者が対等に扱ってくれたりもするがそれもあちらがすぐにEランクやDランクにあがると話は別だ。俺の無能さに気づくのだろうな、態度が明らかに変わる。



 どうやら、明日の方針が決まったらしい。皆、明日に備えて床に就いた。



 そんな調子でダンジョンに潜って7日目が過ぎた。現在33回層を進行中だ。目的の35回層にもだいぶ近づいている。


 そもそも、35回層を目指す目的だが魔物の素材の採集らしい。その階層に生息する魔物とはコボルトのことである。

 コボルトは顔が犬の二足歩行の魔物だ。見た目が犬だからかわいいものかと思いきや性格は好戦的でとても凶暴だ。中には銀を腐らせる能力を持つものもいるそうだ。


 斥候が偵察から戻って来る。どうやら、これまで誰にも見つけられていない隠し部屋を見つけたらしい。これは、かなり凄いことだ。

 ダンジョンは数多くの冒険者が出入りする。なのでダンジョンに存在する金目のものもだいぶ取られ尽くされている。定期的に宝箱がダンジョンでは生まれる、魔物も同じである。これは、ダンジョンの謎の1つで多くの研究者が色々な仮説を述べているが、それはまた別の話だ。


 どうやら、隠し部屋を探索するらしい。だが、誰も見つけていないという事で利益も大きいが危険も大きい。未だ見たことないトラップが存在する可能性だってある。


 隠し部屋は15メートル四方程の広さがあった。そして、そこにそれはあった。宝箱だ。


 なんとも怪しい。だが、確認しないわけにはいかないだろう。なんせお宝が入っているのかも知れない。こういった時これを開けるのは、俺だろうな。

 全員が俺に空けろと目で訴える。分かっているとも、この中でその役割を果たすのは俺だということは。


 俺は宝箱に近づいていく。宝箱の前で腰を屈めて宝箱に手をかけると同時だった。


 闇へと変わる視点


 確かにあった足場が消えていた


 俺は落下していた、あれはトラップだったのだ。




 長い間落ちていた。不幸中の幸いとして途中から滑り台を滑るような形で俺が落ちていったことだろう。もし垂直に落ちていたらただでは済まなかっただろう。いや死んでたな。


 視界が明るくなり俺は地面に放り出される。


 先程までの考えを訂正しなくてはいけないようだ。全然幸いではない。そこにあったのは確実な死だった。


 滑り台を抜けた先に俺の目の前に現れたそれは確実に俺に死をもたらす存在。見た目はただただでかいトカゲである。

 それは《ドラゴン》と呼ばれるものだった。


 俺は自分の死を確信したと同時に死んでいた。


 これまで、散々蔑まれて、辛くても挫けずにこの世界で生きてきた。元自殺志願者は理不尽に耐えて必死に生きてきた。が、死んだ。


 瀬戸彰は死んだ。



やっとストーリーが展開してきた気がしますね…

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