退屈な社会
高校に入学して3ヶ月が過ぎた。部活には入らず毎日学校と家の往来の繰り返し、友達も多い訳では無い。何か一つのことに情熱を注ぎ込む生活は中学を卒業と同時に捨ててきた。
中学では県でも有数の野球部に入り全国大会を目標に高校球児としての日々を送っていた。俺には才能があった。才能といっても将来プロで活躍するような者たちと比べればいささか疑問を浮かべるほどのものだが全国大会を目指すには十分なものだった。そんな、俺は万年ベンチだった。スタメンになる事は無かった。
俺は、セカンドのポジションを勝ち取ることが出来なかった。周囲の者はみんな俺に言うのだ。お前の方が実力がある。お前がスタメンの方がいいのに。とそんな慰めを……
明らかにスタメンのあいつより俺の方が全てを上回っていた。たった1つだけあいつに負けていたことそのたった1つで俺はスタメンになれなかったのだ。アイツは監督の息子でお気に入りであり俺は監督に嫌われていた。たったそれだけそれだけなのだ。馬鹿げているだろう。それでも俺は諦めなかった。監督に認められるように努力したがアイツより確実に上手くなっていくなかで残るのは虚しさだけだった。
中学最後の県大会の決勝、これに勝てば3年間野球部全体を目標にしてきた全国大会出場だ。もちろん俺はベンチだったのだが……
両校の実力は拮抗していた。勝負は最終回までもつれこんだ。9回表こちらは四番のヒットにより1点を取り、あとは抑えるだけツーアウトランナーは二塁、三塁。あと1アウトでゲームセットだ。
それは、ぼてぼてのゴロだった。誰もが勝利を確信したはずだった。
セカンドへのゴロ、それはアイツのエラーだった。最終回逆転負けだ。
なんとも、呆気ないものだ。まぁよくある話だ。最後の最後での逆転負け。高校ではこの敗北をバネに頑張ろうといったふうに誰もが思うだろう。俺もそうなるはずだったのだ。たった一言、アイツの一言で俺の人生は狂ったのだ。
ベンチでは皆、涙で袖を濡らしていた。そこにアイツはヘラヘラした顔でやってきたのだ。
「わりィわりィ」
あいつは何も感じていなかったのだ。反省の欠片など微塵もなかった。
心の中でこれまで培ってきた何もかもがいっせいに崩れ落ちた音がした。自分が今までやってきたことが急に馬鹿らしく思えた。
俺はあんな奴に3年間勝てなかったのか、あんな奴からポジションを奪うためだけに努力し続けたのか、しかし、結果はどうだ。惨めな思いで過ごした時間だけが過ぎただけで俺は何も得られ無かった。そして、俺は努力をやめた。
高校での生活は退屈なものだった。いや、この社会が退屈だった。生きてる価値を見出すことが出来なかった。自分は何のために生きているのだろうと考えるようになってから自殺を考えるようになるのに時間は必要なかった。だが、俺は高校に入って3ヶ月がたっても死ねずにいた。死が怖かったのだ。この社会に未練など無いはずなのに、寸前になって死への恐怖に毎回襲われるのだ。なんて弱い人間なのだろうか、この後に及んで死ぬのが怖かったのだ。3ヶ月も生きてしまっていた。
それは、いつも通り登校中のことだ。信号が青になり横断歩道を駆け出す小学校低学年の少女真新しいランドセルを背負っている。きっと、見えてる世界全てが彼女にはキラキラと輝いて見えているのだろう。
「小学生に嫉妬か……」
心の声は口に出ていた。全てが楽しそうな少女が羨ましかったのだ。
ブーッーーブッー
大きなエンジン音とともに大型トラックがそこに迫っていた。あの少女は気づいていない。トラックの運転は眠っている。居眠り運転だ。
「あぶない!! 」
体は勝手に動いていた。何故あの時少女を助けようと咄嗟に反応できたのかは定かではないが多分自分と違って夢もあるまだ幼い少女に生きて欲しかったのかもしれないし、少女を庇うことで自分が死ぬためだったのかもしれない。自己満足だったのかもしれない。
その日瀬戸彰は死んだ。
自殺志願者はようやく死ねたのだ。
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