第一章 Ⅱ 【詐欺まがい】
「先手は所持品の調査が有効か?」
裾から瞬時に出した小型の銃──ハンドガンを構え。
指と指で匠に回転をこなしす。
使い物になるか危うい武器であったためか。
「する必要があるの、そんなこと?」
必要性の有無を問われるとレイはノーコメント。
金銭があったとしてもここではただのコインと紙と同価値。
「必要がどうかは──つか、携帯持ってるか」
どのような考えの下であるか。
いささか無理解だがレイ、クエスチョンマークを殺して指示に従い、
「合計で三つ、仕事用と兄さんと連絡用と念のための携帯ですが、それがどうしたの?」
最近の女子高生でもその数は持たない、と自身らの非常識さを再認識してしまう。
電源を付ければ画面に光が現れる自然な携帯。
であるからそこ、レイは無理解である。
今になって気付いた、『充電器』という機械がなければ、四角い物体でしかない。
ここでは不必要でもある、ということになる。
不必要、いらない物であるため、最初に浮かんだ使用法────
「まさか売るの?」
「それは議論の余地ありっつーことは言われなくともわかる」
この世にある科学機械が児の携帯に凝縮されている。
簡単に売却を試みるのは無計画と。
険しい表情でレンも持つ携帯をポケットから出す。
「希少金属だっだか? ここでの物質の価値があっちと変わるかはわからないが、結構の値段になる可能性は高く、売るにはリスキー……だがレイよ」
レイが返答する間もなく、レンは口を閉じない。
「ここに通信に関する魔法がある可能性も高いだろ?」
所謂テレパシーのような技法である。
魔法な世界なのだからあると思われる。
「人間は魔法が扱えないがそれを代役する機械がある確率も高いだろう」
「それに関してはあってもおかしくない話ですね」
それに────
「いい方法を思い付いた」
にやけた嫌な笑顔のレンであったが。
それと共に嫌な予感しかしない、とレイ。
何故かって、
「詐欺はよくないですよ?」
「いやさー、実の兄の『いい方法』が詐欺確定って色々とへこむぞ」
別に冗談紛いに言ったのではなくレイ、兄の性格を把握しての発言。
────…………。
──……。
「明らかに見たことない素材の道具だな。お前さん、何処で見つけたんだよ?」
「さぁな、企業秘密だ」
人気のない裏路地を通った先の古臭い店の中。
レンとレイ、そして店長らしき鑑定市が一人。
レン達の部屋と大差ない程の二人が知らない道具が棚や床にびっしりと。
ルーペでレイの携帯を見つめ、見たことのない素材の物を貪り見る。
予想内にこの世界ではない、又は希少すぎる物質らしい。
原産地である地球でも希少金属と名付けられるのだ。
「ただこれの価値までは付けようがないな。どっかのガラクタかも────」
やはりまんまと売れることはないようだ、とレンは舌打ちを心の中で。
想定内はいえ、面倒だ。
「ならいいんだぜ、他の店に売り付けにいくだけだ」
煽りを入れたコメントに、更に────
「未知に近い物質なんだが……勿体無いなぁ」
「あん? 何がだよ?」
ルーペを動かす手を止めた店長、レンの挑発に耳を傾ける。
この駆け引きさえも計算済みである。
「新たな魔道具の研究にも適応するかもしれないだろ? 仮に人間族が魔力なしの科学的機械を作ったとなるとその名声は爆上がり、ってな」
どう見ても新手の詐欺師にしか……。
難しい顔のレイも平然を保とうと。
──この世界の文明は脳に抑えている。
魔法という摩訶不思議な技術によって、人間族の文明さえも地球と変化がある。
魔族……人間をはるかに上回るパラメーターを所持している。
魔法を有意義に扱える種族でもあるが、同時に知能も上回る。
まとめると、文明力も人間を越える凄さ────地球を越える可能性もある。
ならここは、
「あと一つ付け加えるなら────」
ごくりと唾を飲み込んだ店長であった。
爛々とさせた店長の目。
胸を轟かせる店長に頃合いを見て、レンは最後の止めをかける。
「因みに独り言なんだが、これは魔族が保有する技術でもある」
「ハァッ! お前本気か!?」
思惑通りに……。
と、レンの心を見透かせるレイには。
勝ち目の決まったチェスを見ているようにつまらなく、呆れる。
これこそは斜め四十五度をいったのだろう。
店長はテーブルを両手で叩き、顔を近づける。
「ほら」と電源ボタンを押して、光が点滅を出す。
何か問いたげな眼差しの店長に補足する。
「俺は人間だから魔力もない。てことは何らかのエネルギー源があるってことだろ?」
「ま……まぁそうなるな」
隠しきれていない欲が店長の中に。
鑑定士となる者、多少の興味が祖剃られるものだ。
だからレン、追い込む勢いで────
「今限定だ。こちとら魔族から奪うのに苦労に苦労を重ねたんだからな」
限定品──今後一切入手不可と言い換えれる言葉。
何ら特別品でなくとも時間指定によって特別感を醸し出せる技法。
かっこよく言ってるが、テレビ通販と遜色ない言葉遣いに過ぎない。
店長もリスクと抑えきれない欲の葛藤で憂悶する。
「プロのお前ならこれの価値くらいわかつてんだろ?」
「ちっ、ならこんぐらいでどうだ?」
「諦めたフリは止めとけ。相手が悪いんだよ」
「わかったわかった。勘の鋭いガキめ」
────…………。
「ま、こんだけ取っとけば数日は食っていけるか」
行く宛もないのだが街を歩くレンとレイ。
違う点といえばレンが小袋に詰められた通貨を持っていること。
コインが詰められた小袋を雑に投げながら歩くレン。
「金の価値はドル換算とかで大丈夫か?」
満足で嬉しそうな表情を浮かべる。
反してレイは黙り込むだけ。
──何故かって?
「おいレイ、どした?」
レイの肩に触れると上の空から目覚める。
レイっぽくもない、とレンであるが。
「あ、いえ。手慣れた手口に感激を────」
「あははー、何言ってるんだい? 我が妹」
何のことだが……本当にわからないなぁ、とレンは。
薬物依存の社会的に死んだ輩のような言動で答えるが。
レイの眼差しから逃れられないと。
その上、レイは尚も呆然で。
「その内ポケットの中身さえなければ素直に激賛できるのにね」
──それも一理ある。
「なんだ、やっぱバレてたか」
誰も気付きやしない。
ここの住民ならわかるはずもない。
レンが自身の成功を称賛する理由と、
レイが思わず呆れを見せてしまう理由────
「つーか、俺ら以外にわかる訳ねぇか」
次に続けてレンは言う。
「何せ、中身が空とは思ってねぇだろうしな」
「普通に詐欺ですよ?」
ある意味痛惜を味わうレイに。
レンは見せびらかすように内ポケットから取り出した。
携帯に内蔵されている小型の電子機器の数々を。
失ったのはバックパネルの部品と液晶画面だけ。
しかも携帯一台である。
此方のデメリットはメリットより下なのは明白。
鑑定士も知らずと対等な取引──と勘違いしてくれている。
表上ではどちらも得している。
ここと比べて遥かに上をいく地球の技術と科学。
魔法なしでは通信手段となると筆記や口コミ程度のレベルであろう異世界、ここで。
むやみやたらに大切な資源を損なう行為は慎むべきと。
全てが計算の下だ。
「それで、残りのそれはどうするの?」
手のひらサイズの電子機器を指して言った。
「今のところ使う予定もないしな。とりあえずは保管ってことで」
そんなことより、とレンは話を本題に戻す。
「残り三つの携帯なんだけど」
それがどうした、と兄の質問。
いつもながら理解に及ばないレイであるが。
それは兄が奇想天外すぎることをするから。
決して妹が堅苦しく、柔軟な考えを持つことが出来ない性格ではない。
なので、レイもいつもながらに応じる。
「兄さんのが一つ、私のが二つ。それがどうしたの?」
詐欺すれすれな騙しといい、考えることを諦める。
「その三つ全てに場所の特定をする発信機ってあるだろ」
何を言い出すかと思えば。
真剣な眼差しであるレンの表情。
「……えぇ、あるけど」
「ん? 何だよレイ。性犯罪を犯しまくったナチュラルサイコを見るような眼で。いったい誰を……」
ハッ、とレンの脳裏に辻褄が合う、
と、かっこつけているが、単なる────
「おい、兄ちゃんをそんな目で見る妹に──育てた覚えはないぞ!! へこむぞ! いいのか? よーし、兄ちゃんマジでへこむからな!」
レイからしてみれば──兄の眼、本気で言っているのであった。
沈みに沈むレンの心と、同時に嬉しさも沸いているであろう感情。
見透かされているとはわかっているであろうレン。
軽いお遊びだと思う。
惑星さえも越えた旅での疲れ? からきているのだろう。
「いい加減にして、子供ですか?」
「あぁ! 俺はレイと共に歩めるのなら子供になっても構わない」
既に精神が幼児化しているわ、とレイは秘密裏に突っ込みを入れる。
「だが性犯罪者と一緒にするなよレイ。例えそんな欲に溺れても行動には出ない!」
どのような矜持を持って故の発言なのか。
少々悩ませるレイだが。
ある意味阿呆な兄には慣れっこだと。
過去のことを思い出しては、閑話休題。
「それよりどうするの? そんなもの使って」
「何だよ、んなもんわかりきってるだろうが」
「それもそうですが」
腑に落ちないレイに気付く。
その内容も薄々は創造できる。
「黙殺しといた方が賢明だと思いますね」
敢えて『主語』を省く。
この二人には不必要である。
レンの行動に杞憂すら心に発生するレイに。
他愛なく表情を歪めた余裕の笑みで応える。
「それは様子見ってことか? それとも見過ごすとか?」
どの角度から見ても通行人の二人組にしか見えていない。
そうでもないか──そうとしか見られないよう注意を払っているだけだった。
レイも絶対に表に出さない。
風光明媚と言わざるを得ない見た目だが、心の奥底で────。
レンの愚問に笑いを抑え、レイは言う。
「何を言ってるの、丁度ストレスが溜まってたのよ──私」
「おおー、怖い怖い。お兄ちゃん悲しいなぁ」
──さっすが、我が妹。
であると、非常識で異常なる心に暇潰しという灯りが現れる。
「そんな妹を持った感想はどうです?」
「お前なぁ、それこそ愚問だろ」
爛々と疼く眼を抑え、詳しく内容に移ろうと。
周囲に聞こえづらい低音でレンは話を始めようとする二人を余所に、とある影が一人。