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プロローグ 3

 ■■■


  ──その光の先に、レンが眼をゆっくりを開く。

  はっきり言って、その空間には特定の者を省けば何もない。

  あるのは──白の光の板みたいな素材で、異空間にでも作られたと錯覚させる。

  それも体育館並の広さなのだが、それといって何もないのだ。

  抱き締める手も徐々に離すとレイも目を開け、その現場の理解不能さに気が遠くなる。

 

  しかしながら、それは噴水付近のベンチや花壇と同じ付属品と思われた。

  二人が目を釘付けにされた、きっと──絶対的に画面の向こうの者であろう人、といっていいのだろうか。

  白き空間に昔の貴族の娘が所有しそうな豪華なベッドに腰掛ける、歳の差があまりない見た目の女の格好をした何かが。

「超能力……じゃなくて魔法か?」

  表筋肉がピクピクと動きを出し、レンの微々たる震えた声を放たせた。

「二重スリット実験で観測者の観測によって変化が現れたことで、人の意思によって物理変化を催すことがあったわ……」

  こんな事態によくそれを思い出せたな、とレンは一瞬冷静になってしまう。

「れ……レイ……手を離すなよ? お兄ちゃんマジで死ぬぞ」

「あわわ……わかってるわ」

 

「ハッハ、お主らよ。よくぞ来た」

  気の抜けそうな笑い声で平然を何とか保とうと。

  落ち着け……これより修羅場な場面は過去にある。

  瞬時にして、最善で最大の行動を行うことが重要だ。

  今欲しい物は────

  情報だ、とレンは勝ち誇った模様を限界まで演じて、情報の入手を取り計らう。

「最近の誘拐は大規模なもんだな」

  出だしは様子見を兼ねたその台詞。

  しかしと、その『女の格好をした者』はヘラヘラと笑いを止め。

  今度はクスッと一笑いして。

「人の身のルールを余に押し付けるでない」

  当然と、顔が訴えるように見える。

  そして続投して言う。

「烏滸がましいこと限りないものじゃ。それはお主も痛い程に承知済みの筈」

  仮定しよう。魔法や魔術のファンタジーな分野がここにあると。

  なら、異空間に似た空間にいるとわかる。

  都合のよい要素ファンタジーであるからこそ、それがあって納得が得られる。

  顔を上げて見下してその女。

  レンはレイの耳に口を寄せて、声を圧し殺して言う。

「レイ、全部でどのくらいだ?」

  少し、大分曖昧な表現だがレイは理解を覚えて返す。

「ハンドガン三本、弾合計252発、手榴弾五発────」

  何処の部位にその全てを隠し込めるのか。

  多少は訝しく思ってもみるが、お互い様だ。

  試してみるべきか──悩みを持った。

  口が固そうなアイツ──セリ●ンティウスと仮の名として、こちとらいち早くおさらばしたい。

  武力行使は避けるべきだと。

  本能というべき、潜在意識が叫びを止めない。

  ならまずは口で勝負と。

  レンはポケットに手を突っ込み、話を持ち出す。

「その言い方、神にでもなったつもりか?」

「見込み通りの口じゃな。自身の本能にでも聞いたらどうじゃ? お主の今の立場を」

  安い挑発に過剰な反応を出さず、更にレン達の心理をいとも容易く感じ取る。

  立場の優劣は言葉にせずとも。

  レンの代わりにと、レイ。

「あら、それも魔法なのかしら?」

  落ち着きを取り戻して鋭い語でそう言った。

  俗にいうテレパシーらしきもの。

  それがあるならば勝てる見込みはゼロ。

  これがセリ●ンティウスが書いていた『賭け』──相手はチートではないか。

  セリ●ンティウスは咳払いをして口許を歪まず。

「飼い主に向けての態度がなっておらぬな」

「飼い主?」

  再度リピートさせる。

  飼い主……主従関係の事。態度といい口調からセリ●ンティウスが優勢となっている。

  何時何処でその関係が生まれたか。

  レンは焔のような警戒を解かずに訊ねる。

「どういうことだ」

  白き空間で、それほど距離が遠くない二人と一人で。

  眼を尖らせて威嚇を施すレンだが。

  無反応に、ただムカつく笑みを浮かべているだけ。

  人に向けての恐怖の植え付け方は完璧である。

「お主らとは会話だけでも楽しませてくれるよ」

  腰掛けていたベッドから立ち上がり、距離を縮めて言う。

「嗚呼、愉快だ愉快。何万年ぶりか、こんな思いをしたのは?」

  二人の前で立つ、しかしレン。

  ふと────セリ●ンティウスから殺意を感じる。

  死に対して恐怖を抱いた覚えはないが、この時だけは怖さを思い知らされた気分で。

  何とも不快だったのか────

  レンは無意識にスカートで隠された太ももに装着したホルスターから、m9a1のハンドガンを取り出し。

  目の前の女の頭に向け、発射してしまった。

  だが、と。

「人間ごときの武器で余を絶命させれるとでも思ったか?」

  その告知と共に弾丸は静止した。

  詳しくは──彼女の意識によっての透明の壁に止められた。

  弾丸は運動の力を失い、壁に引っ付いている。

  瞬きもせずに彼女は笑うだけ。

「お主らは余の所有物、生かすかも余の自由」

  不思議なパワーがあると理解していた。

  でも────

「神に挑みし者、お主に勝ち目は皆無」

「何が言いたい?」

  フッと鼻で笑うと。

  細かく説明をし始めた。

「それは遠い昔の時、余は久々に世界の構築をした。おそらく数万年前の事」

  その規模はきっとレンたちには想像しきれないだろう。

「お主らの世界のような複雑な世界ではなく、皆が同じ目標を作らせるルールの提示」

  ベッドに向かって歩いていく彼女は続ける。

「それは────────『生命の鍵』じゃ」

  背中を見せたままで彼女の手から小さな光と同時に。

  黒い鍵の形状をした物。

「合計十六種、それを合わせし者は神々の領域を凌駕すると、信じられておる」

  何を言っているのか。

  レイはレンの腕にしがみつき、それを拒む動きを見せずレン。

  ここまで来て夢であってほしい、と現実逃避を考えてしまう程に、何か未知なる威圧感に包まれる。

「そうじゃな、お主にやろう」

  足を止めた女。

  そして何の原理からか、浮遊する黒い鍵と共に後ろへ振り返り。

  レンとレイは一歩下がる。

「ハッハッハ、例えるなら神からの祝福じゃ。喜ぶがよいぞ」

  と、黒い鍵を握ると手首を捻る。

  弱い勢いで、腕を使わずレンに投げ付ける。

  さっきのファンタジー的防御板といい。

  投げられた鍵は真っ直ぐとレンの心臓部へ。

「いっ……ッ!」

  急な出来事にレイの手を離してしまう。

  レイも反応しきれていない。

  言わずとも心臓は血液を運ぶ、生物の核である。

  故に即死でなくとも『死』は間逃れない。

  重心が後ろへ下がりそれによってレンは倒れ、言う。

「鍵がない? いったい────」

「兄さん!? い、生きてるわよね?」

  らしくもない慌てぶりのレイが手首の脈や心臓音を確認する。

  鼓動は──動いている。それも正常に。

  脈も──動いている。

  心臓に向けて刺さった鍵は物質分解された、としか解釈が進まなかった。

  まずそんなことは現代の科学では不可能。

  いや──! それは後でいいのだ。

(心臓が動いている以上は命に別状はないわ……)

  そう自分に言い聞かせるのが精一杯のようだ。

  怪奇現象が続出するこの空間で、科学なんてものが役に立つか────否。

  科学の星、地球の生命体である自分達がどうこうする領域ではないと、かもしれない。

(体温も正常のままだわ)

  未だに動く素振りを僅かにも見せないレンの傍ら、焦りだけが倍増していくレイの心。

  頼む──夢なら覚めてくれ、と祈る。


「…………」

  無言になったのは、レン。

  何もなかったかのように上半身を上げる。

  自分の体調を確かめると、レンは口を開く。

「そこのアマ、俺に何をした?」

  目を一度閉じたと思えば、細く、強さだけが相手が生物であるのなら、それだけがわかるような睨み。

  殺しを担当する仕事に付いたからこそ、発揮される。

  ────殺気を。

「ほんの僅かなプレゼント、とでも言っておこうかの」

  一連の光景に哀れみや面白いさを込めた────

  馬鹿にした笑みを。

「おっと、時間じゃ」

  腕時計などの装飾品を身に付けず、何故時間について語れるのか。

  やっぱり不可解であるレンを余所に、

「これも、余の贈り物じゃ。喜ぶがよい」

  そう言って指をパチンッと鳴らす。

  ────と、二人の体に変化が見られたと感知した。

  部屋で見た不快な闇の光ではなく、白い光が二人を覆って、包む。

  痛みに関するものは感じられない。

  レイもこのような現象には慣れてきた。

  そして自身の体が消えつつあることにも。

  込み上がってくる怒りを内心に込め、最後の一言を吐く。

「お前の名は?」


「余の名か────絶対神が一人、ダルトリアルと申す」

  付け加える様子で言葉を紡いで言う。

「お主らの成長、余は期待しておる」

 

  白い光が体のほとんどを占める時。

  ──二人は完全に消え去ったと。


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