始まり
まさにボランティア日和とでも言うべきか。これから夏を迎えるにふさわしい清々しく太陽が眩しい快晴だった。
中学一年生。小学生とは違い少し大人になった気分で何か新しい自分を見つけたい年頃。
勇気を出して班長に立候補した町田ひかるはこのボランティアを楽しみにしていた。
「掃除して、お買い物にも行って…。これでお仕事は全部かな?長谷さん、他にお手伝いすることはありますか?」
「ありがとうね。お願いしたかったことはこれで全部だよ。もう休んでいいよ。居間にお茶とお菓子を用意したから食べるといいよ。」
「ありがとうございます!それでは遠慮なくいただきます!」
居間に入ると班の男子の数人がすでにくつろいでいた。
「ちょっと!働いてた班員もいるって言うのに何サボってるの!」
「班長〜〜。そう怒んなって。班長がしっかり者で俺たち幸せ者だよ。もちろん長谷さんも喜んでると思うぜ。」
「そうそう。一人暮らしの老人の家に訪問してお手伝いもいいけど、こうしてくつろぐのも交流ってことで立派なボランティアだよ。俺たちは偉い。」
男子が口々に勝手なことを言う。
「調子いいこと言って…。手伝ってくれたらよかったのに…。ところで何もってるの?箱?」
「ああこれ?なんかおじーさんが開けられなくなったらしいよ。小物入れらしいけど何入ってるかもわからなくて、開いたら中身くれるって。」
それは手のひらくらいの小さな寄木細工の箱で鍵などはついておらず、開け方が決まっているものらしかった。
「へ〜。ちょっと貸してみてよ。」
「え〜。班長には無理じゃない?力技で開けちゃダメだよ?」
「失礼な!ちゃんと開け方を考えるよ!例えばここの色が違うところ押して隣の木をずらしてあとはここをこうして裏側のここを…。」
カチャッ
あまりにも簡単に開いた。中にはアンティークの指輪が入っていた。
「え?!町田すごくね?!一発で開いたぞ?!」
「すげえ!こんな簡単に開くんだ!!」
男子が歓声をあげる中、ひかるは激しい頭痛に襲われ、ふっと意識が途切れた。
『これは…いつか私があなたを必ず迎えに行くという約束の印です…。』
男の人…?誰…?
『私はあなたさえいてくれれば…それで…。』
私に…言っているの?
(誰の声…?あなたは誰…?どうしてこの人は泣いているの?愛しいはずなのに誰かわからない。思い出せない…。思い出せない?これは私の記憶なの?わからない。思い出せない。)