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九王記  作者: 荒木小吾
二章 東よりきたるもの
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60話 反乱

 三十年前、貴族たちの反乱が最も激しかった時代。

 魔力災害を生き延び、魔獣を蹴散らした魔王をその目で見た貴族の当主たちが引退したことが契機となり、後継者に跡を継がせたタイミングで反乱が燎原之火が如くとなった。

 しかし、その記憶を語る者は少ない。

 魔王が瞬く間に反乱の首謀者を捉え、シンゲツの魔力を注ぎ込んで魔獣化させたのであった。

 反乱の経緯よりも、その時の言葉がロムルスの歴史書に収録されている。

「背くこともまた認めよう。かけるべきは己の魂である」

 俺はこの言葉を憎む。

 二代目ロムルス王アウレリアヌス。魔王を倒した魔王の息子。どんな国の歴史を見ても、俺ほど玉座を狙われた王はいないのではないか。

 

 その日は朝から憂鬱だった。

「ロムルス・アウレリアヌス王。玉座を頂戴いたす!」

「意気込みだけか。百年早い」

 植物型の魔獣から抽出した茶を入れているときに、給仕のメイドに襲われた。ティースプーンを眉間に突き立てて王宮の門へひっかけておく。頭蓋を割ってはいない。しばらく気絶していろ。せいぜい間抜けな姿をさらすがいい。

「二代目魔王覚悟! 俺が勇者になるんだ!」

「魔王に挑む前に勇者になってこい」

 執務中に会議室へ乗り込んできたバカの頭をそり上げて服をはぎ取った。つるつるの姿で逃げ帰っていくバカが笑われている。

「それは十年かけて作り出した毒、お前は三日以内に死ぬ!」

「なあ。もう十日食べ続けてるんだが」

 夕食を作った料理人が勝ち誇ったように笑うのを無視する。そいつはしばらく固まった後で辞めていった。性格はともかく、料理はなかなか旨かったのだが。

「陛下。今夜はワタクシとどうですか?」

「おい衛兵! 何をしてる! 俺の寝床に不審者がいるぞ!」

 知らぬ間に寝床へ潜り込んでいた謎の美女を衛兵に突き出した。額に「変態」と書いておく。がーがー騒いでいたが、連行されていった。

(疲れた)

 一日に四回の襲撃は最高記録だ。誇るようなことではないのだろうが。

 魔導会議への出費を抑えてから、嫌がらせのような襲撃が相次いでいる。

(あれ? 食事に毒を盛られるのは嫌がらせか?)

 一瞬疑問がよぎったが、精神的な疲労感に押し流されていく。

 魔王があんなことを言う国だから、ロムルス王国では王座に座りたいという連中が王を襲撃することはよくあった。

 父のウォーディガーンはそんな連中を容赦なく魔獣に変えて、野に解き放っていた。人間として最後になるかもしれないのだから、結構手の込んだ計画を立てて襲撃してくる者が多かった。

 まあ、魔王を恐れて王座ではなく領主に対しての襲撃も多かった。魔王への挑戦は人としての最後だが、領主にはそんなことはできない。ただ罰を与えられるだけ、生きていれば機会はあるというわけだ。

 そんな風にして世代交代が進んだ結果、領主たちは無駄に反骨精神あふれる開拓者魂を持った連中か、どんな挑戦も退ける化け物のような老人たちばかりとなった。

(さすがにもう眠い)

 獅子身中の虫どころではない。体がそのまま寄生虫に成り代わっているような有様である。

 魔導会議との不仲がはっきりとしてくるにつれ、反骨精神の持ち主たちに加え、先代からの家臣である老人たちまで王の座を手に入れる機会だと考えているのだ。

 その結果が今日のような襲撃祭りである。

(明日は、弟が来る。頼りない姿は見せられない)

 寝床に入った。眠れなかった。

 まとわりつくような殺気がある。そのせいもあるが、それとも違う舌の苦さで目が冴えている。

 根拠などない。直感しかない。

 ゆっくりと寝間着を脱いで、全裸になった。

(剣は、無いか)

 体が冷えないようにしたい。隠し戸を開け、下着だけ身に着けた。

 右手、左手と床に置いた。足を上げていく。逆立ちの姿勢になった。前腕に力を入れて、手のひらを床から離していく。十本の指で逆立ちをする。

 そのままじっと耐えていると、全身から汗が噴き出してきた。

 月明かりが無い。今日はシンゲツの日だった。

 頭に降りてくる血を感じつつ、意識を保つ。汗は額のあたりから床に垂れていく。時間の経過はひどくゆっくりだ。

「来た」

 魔力。扉、破られた。

 裸で逆立ちをしているという風体にもためらいを見せない。

 わずかだが、駆動音。

(魔道人形の類か)

 まばゆい。閃光。

「ち、目くらましか」

「冷静ぶっても無駄だ! その身に愚かさを教えてくれる! 覚悟しろ魔王!」

 何やら叫んでいる者がいる。足音で人数を探った。

(六人編成。軍の小隊規模か)

 魔導会議でも自衛の戦力を揃えていると聞いていた。実力のほどは知らないが。

 ロムルス軍と編成が同じなのは、参考にしたのかたまたまなのか。

 魔術が飛んでくる。

(五つ)

 制御文字に魔力を流し込んで発動させる放出系の魔術だった。

 速度、威力、扱いやすさ。どれも十分な性能であるが、目を見張るほどのものではない。

 あえてぐらりと体を揺らし、反動で立ち上がりつつ魔術を避けた。間合いに入った魔術から、指先で少し触れて魔力の形を変えてやる。

「はあ!? なんだ今の!?」

 五つの声が重なった。

 発動した魔術は空気の塊になり、俺の体を傷つけることなく通り過ぎて消えた。寝床の毛布が舞い上がった程度だ。

「本当に目くらましが効いているのか?」

「ー外部からの光刺激に対しての反応はねえ。間違いなく目は見えてねえ」

 魔術を討たなかった一人。魔道人形がしゃべったが、どこか遠くから響くような声だ。

「五賢弟の一人、石人族出身のスブタイだな」

 正体を言い当てられ、魔術師六人が息をのむ。

「よくわかるもんだ。俺の名がよ」

「魔導会議の重要人物を把握するのは当然のこと。ついでに言うならば、お前たちが王宮の外に待機させている人数も把握している。逃走経路の確保か? 逃げられると思っているなら甘く見られたものだ」

「へへへ」

 五賢弟スブタイはにやにや笑うのみで答えなかった。

 会話を挟みつつにらみ合っている。薄く目を開けようとしたが、強い光が不規則に明滅を繰り返している。迂闊に瞼を開ければすぐに視力を失ってしまう。

(目をつぶりながらやるしかない)

「聡明な魔王陛下のことだ。俺たちがここに来た理由も分かるだろ?」

「さあな。王座に興味でも湧いたか?」

 冗談めかしてみたが、スブタイの語調は真剣なものだった。語気が変わる。

「我ら魔術の徒が求めるのはこの世すべての英知。王など、道行に必要な物を揃えるだけの便利な倉庫番にすぎぬ」

「ほざくものだ。魔術師」

 俺の言葉も、自然、鋭くなる。

「所詮、金がなければ研究ができぬと泣きつきに来たのだろう。あいにくだな。俺が決めたことだ。次の機会を待て」

「魔王。はなからお前に意見の変更など求めてはいない」

 遠くの背後から複数の魔術の気配。

(これは…?)

「我ら魔導会議、倉庫番の交代のためにお邪魔した」

 そして傍らに一つ。いや二つの新たな気配。スブタイと共にいた気配と入れ替わっていく。

「遅い。何してやがった」

「君があまりに雑な仕事をするものだからね。少々後片付けに手間取ったのだよ」

 何か大きな獣の気配と、その上に載っているらしき声の持ち主。

「五賢弟のエブリック」

「そうだとも。倉庫番様」

 俺を認めていない。そうはっきりと態度に出ている。

(どうにも、これは。五賢弟全員がそろい踏みだな)

 王宮の防御に展開されていた魔術が解除されている。そのせいと言うべきか、そのおかげと言うべきか。俺の知覚で確認できる大きな魔力が王都ロムルスに六つある。

(弟のアンブロシウスも含めてだが、五賢弟で五つの大きな魔力。そして先ほど姿を見せたエブリックが乗っている()()、王国最高峰に近い魔力だ。ふう。嫌になる)

 そうこうしている間にも、王都ロムルスのあらゆるところで魔術の気配が広がっている。

「この王都に何をするつもりだ。貴様ら」

「何を? 何もするつもりはありませんよ。倉庫番の陛下」

 近くに気配はない。声だけを魔術で届けてくる。

「五賢弟、オレーグか」

「お覚え頂き光栄です」

「おい。奴に敬語など使うな。もう俺たちの王ではない」

 三方を囲まれる形になった。

(エブリックとスブタイが付いているモノが危険だ。万全の状態で、弟の肉体強化魔術の援護もなければ厳しいな、あれは)

 薄く目を開けて周囲の様子を確認した。

 スブタイの声を発する魔道人形が激しく明滅する光源を起動させ、目が眩む。

(位置取りは分かった。ここは全力で逃げる!)

 一歩踏み出そうとした間隙に、

「ちょっとー! いつまで時間かけてんのよ! 師匠が来ちゃうでしょー!」

 この場にいなかった五賢弟二人が現れた。

(転移の魔術!?)

「って。え? ぎゃあぁぁぁぁ! 変態!」

 そういえば寝間着を脱いでいた。

「兄上。まだ裸で寝る癖が治っていないのですね…」

「変態! 変態! もー! 信じらんない! ばっかじゃないの!?」

 喚き散らす花小人の五賢弟ポロン。しかしその声は耳に入らない。俺は弟の五賢弟アンブロシウスがこの場にいる衝撃で足が止まってしまっていた。

 何か言いたい。

 何を言えばいいのか分からない。

「アンブロシウス」

 とっさに口からこぼれたのは何の意味もない呟きだった。どこかで、弟を信じていた。それが、消えた。

「兄上。申し訳ありません。私は彼らを止めることができませんでした」

 その言葉とともに、アンブロシウスが術式を起動する。

「君がやるというのなら止めはしない。存分にするといい」

「アンブロシウス。ぶちかましてやれ」

「本当に、兄弟で戦うのですか? 私たち四人でやる方が…」

「変態兄貴なんてけちょんけちょんにしてやんなさい!」

 弟の体に魔力が充填されていく。十八番の肉体強化だろう。使い魔を周囲に呼ぶ気配がする。

(どうあっても逃げられないか)

 王宮の寝室である。

 五賢弟と入れ替わった魔術師たちは衛兵は無力化したのだろう。先ほどまで王宮内にあった騒乱の気配が落ち着いてきた。

 そして俺は四方を魔導会議の高弟四人に固められている。

(これだけの魔力を察知できない彼らではない。何らかの理由で身動きが取れないということか)

 軍総帥。近衛騎士団長。教祖。ギルダス率いる魔導会議に対抗できる勢力がなんの動きも見せていないのは、何かあると考えておくしかない。

 最悪の可能性も考えないではなかったが、目の前で魔術師が俺を害そうとしている中でそれを考え出すことは死を意味する。

 余計な思考は本能を鈍らせる。

(今はただ、生きることだ)

「やる気か。魔王」

「当然だ。反逆者をのさばらせては魔王など名乗れんからな」

 魔力を瞬時に練り上げる。

 魔術の難解さに音を上げた俺だが、たった一つ覚えた魔術がある。

 肉体強化の魔術。

 弟の精密さには遠く及ばない。俺よりも上手く発動できるものなどざらにいる。父の魔力量とは比較にならない。

 だから体を鍛え上げた。

 雑な魔力制御でも、一部の隙も無く魔力を流せるように、徹底的に肉体の中にある魔力の道を整えた。

「やっちまえアンブロシウス!」

「これから魔術の時代が幕を開ける!」

「が、頑張って!」

「変態! 滅ぶべし!」

 冷徹な歯車のようにアンブロシウスの使い魔が襲い掛かってくる。

 目は使えない。魔力では詳細な位置が分からない。使い魔が空気を裂く音を頼りに位置を特定した。

(ここか)

 魂が大きく拍動した。塊のように送り出された魔力が瞬間移動したかのように満ちる。一瞬だけ発動させた俺の肉体強化の魔術は、使い魔を殴りつけ、寝室の天井を消滅させた。

「やるな」

「ーああ」

「もうあの肉体は魔獣の域に達していますね」

「変態のくせに」

 一体の使い魔を倒すわずかな間に、アンブロシウスの周囲には正確な数が解らない程の使い魔が現れていた。

 その間も他の五賢弟たちは俺を包囲し、スブタイの魔道人形が目くらましの光源を炸裂させている。

 潮時。

 そう頭に浮かんだ。

(なんとか生き残らなくては)

 魔王を倒した新たな魔王。そんな風に呼ばれていた。自分自身、どこか特別なのだと思いたがっていた。

 可笑しかった。

(機会を待つのだ)

 魔術を解除する。

「なんかニヤニヤしてるわよ。この変態」

 気持ち悪そうにポロンが言う。観念したのを察した五賢弟の面々が俺を魔術で拘束する。二重三重とかけられる拘束魔術で立っていることもできなくなって、顔から床に落ちた。

「兄上。これを」

 額から血を流したのを見かねてアンブロシウスが流水で洗ってくれた。

「命ばかりは助かると思うか?」

「それは」

 言いよどむ弟に笑いかけた。

「気にするな。どんな結果となっても恨みはしない。兄弟だからな」

 なるようになるさ。その言葉は出てこなかった。感覚の端っこに残っていた強化魔術の残滓が、俺のすぐそばでほんのかすかな魔力の揺らぎを感じたからだ。

 縛り上げられた全裸の俺を弟が浮かせて運ぼうとしている。その他の五賢弟のメンバーはどこからかやってくる使い魔から連絡を受け、指示を出していた。

(体を運ぶための魔術の気配か? いや。それとは異なる気配だ)

 強化魔術の残滓が切れた。それで妙な魔力の気配は感じ取れなくなった。五賢弟は気が付いていない。

 入念に周囲の様子をうかがう。夜半をだいぶ過ぎていたが、星明りがあるので夜目は十分に効いている。

 縛り上げられ拘束の魔術があるせいで魔術は使えない。強化無しの五感では町の人の動きまでは分からない。軍本部は、占領されている。時折魔術の明滅で路地が明るくなっているものの、大きな混乱は感じられなかった。

「軍を無力化して、俺を捕らえた。占領は順調なようだな」

「ごめん。なるべく穏便に済ませるように通達は出しているんだけど…。基本的に魔導会議の研究者は平等なんだ。五賢弟なんて言われていても、それは研究結果が優れていることとギルダス議長の直弟子への敬称でしかない。命令なんて出せる立場じゃないんだ」

 アンブロシウスの表情は無い。木彫りの面の方がまだ表情豊かだろうに。

 複雑な心境なのだ。弟だからといって同情するのは間違っている。俺は国を治める王であり、連中は反逆者なのである。

 魔王と呼ばれたいのなら、反逆を許せ。その後、切り捨てよ。想像の内で父が言う。それが先代魔王の信念だった。

 反逆した彼らが恨めしい。しかし、切り捨てることもできない。どちらともつかない俺は、王の器ではなかったのだろうか。

 反逆者は今までもいた。今回と異なるのは、魔導会議の反逆は成功しつつあるということだけだ。

(くそっ。このまま終わるのか? まだ俺は何も成し遂げてはいないというのに)

 歯が音を立てた。このまま己の顎をかみ砕いてしまいたかった。

 父はどうだ。弟を見ろ。臣下たちは何を思う。

 このまま魔導会議へ連行されたあと、何事もなかったように解放されるとは思えない。よくて傀儡政権のお飾り、悪くて実験体のだろう。副総帥オイスクと国中をめぐって始末したあの哀れな実験体のようになるのだ。

(まだだ。まだ、俺は何も成してない)

 父は人の範疇を超えて人と魔獣の国を作った。弟は世界の神秘に手を伸ばしている。臣下はこの過酷な大陸で生き抜いてきた。

 俺は。

 俺は、ただ父を超えたいと願っただけのことだ。超えて、何かを残そうとしたわけではない。

(窮地でようやく自分が見える。まだ、俺は父を超えていない)

 俺は玉座を取っただけでいい気になっていた子供だ。頂点に憧れていただけだった。奪われそうになって初めて、玉座がどういう場所なのか分かった。

 あそこに座った所からが始まりなのだ。

「お前たちは、玉座を奪った後で何がしたい?」

 アンブロシウスが俺を浮かせたまま答える。

「原初の九王に惑わされぬ国を作ります」

 答えたのは誰なのか。揺るぎない答えだった。やはり、俺は王として未熟であったか。

 俺を魔術で拘束したまま移動していく。寝室を抜け、玉座の間を通り、王宮の正門へ。

 一行の足が止まる。

 理由は、目の前に人がいるから。

「ギルダス議長」

 俺は、何も言うまいと決めた。魔導会議への支援を減らしたのは俺で、多発する魔道具の紛失について追及を強めたのも俺だ。

 この国では反逆は罪ではない。譲れぬ思いを貫く時には必要だとされているのだと、俺は思う。

「元国王の身柄を確保しました」

「そうか」

 言葉少なな魔術師ギルダスの手には何か巻物のようなものが握られている。

「どこか静かなところへ移動していただけ」

「分かりました」

 静かに王宮へ入っていくギルダスはなぜか寂しそうな背中をしている。

 誰も、何も言わなかった。

 五賢弟総がかりで俺をどこかへ運んでいく。俺は、これからどうなるのかよりも、ギルダスか醸し出していた寂しげな空気が気になっていた。

「なあ、お前たちの議長はこのところああなのか?」

「黙っていたまえ。敗者は黙して待つのみ、だよ」

「ちっ。気障な角だぜ」

「なに?」

「ああん?」

「ちょっと、集中しなさい」

「この変態の質問に答える義理なんてないでしょ! 空気がもったいないわ!」

 だめだこりゃ。まともな会話になる気がしない。

 魔術で浮かされるのにも慣れてきて、体の向きは変えられるようになってきた。コツは脇腹と太ももの筋肉を交互にひねることだ。

 真夜中を過ぎ、町を行く。

 あちらこちらで騒ぎが起きているが、戦場のような無差別な気配はなかった。

 よほどうまく魔術師たちは王都を占領しつつあるようだ。

(ヘンギストやベーダが易々とギルダスの味方に付くはずもないと思っていたが…。父の側近たちが結託している可能性が高いのだろうか)

 先ほどは考えないようにしていた最悪の可能性を考えると、俺の心は震えた。

(ならばそれもよし。俺の成すことに奴らが立ちふさがるというのなら、粉砕して通るまでよ)

 特に意味もなく宙でくるりくるりと回転しながら、魂を震わせる。燃やす。滾らせる。行く道の険しさを想像して思い返すのは、父、魔王へと挑んだ時のこと。

(あの時から何も成してはいないが、この壁を乗り越えればきっと、俺も何かを成し遂げられる)

 決意。

 白み始めた空の端。ではなく、突如流星が現れた。中天から祝福するような光が差し込んでくる。

「高魔力反応あり」

 五賢弟に警戒が走る。

「魔力急接近。警告。こちらは魔導会議任務部隊、妨害行為はその場で処分の対象となります」

 スブタイと魔道人形が警告を発して、警戒行動をとった。

「主君を奪還しようとする忠義の徒、というわけか! 面白い!」

 エブリックの合成魔獣がうなり声を挙げた。

「王脈接続。隔離結界構築開始します」

 オレーグの声が届く。

「出でよ!」

 ポロンが煌々と輝く球を召喚して、空からの光へ投射する。

「援護します」

 アンブロシウスが己の肉体と魔力を強化して、数十の放出系魔術を同時発動する。

 五つの魔力が光となる。そして、その魔力が消えた。

「結界の魔力まで!? こんなの、話に聞く第一使徒のー!?」

「その通り」

「ありゃ?」

 俺の体と、俺を担いでいたアンブロシウスが上空からの光に包み込まれた。


「前王アウレリアヌスが!?」

「アンブロシウス!?」

「こちらが確保いたしました」

 光はアウレリアヌスとアンブロシウスの体を包み込み、消えた。

 そして残るのは、

「聖光教教祖ベーダ翁」

 一人の老人である。

 四人残った五賢弟の中央に立った。

 美。

 力。

 使うのは簡単な循環系魔術。肉体に配され、肉体を動かす意思を伝達する魔力の流れ。その流れに余計な魔力を流し込み、肉体を動かす性能を強化する。いわゆる肉体強化の魔術。

「ギルダスはいないようですね」

 穏やかに語るベーダは、四人の五賢弟を相手取った。

「敵対なさるおつもりですか?」

 あくまで穏やかに問いかけたのは鬼人エブリック。

「あなた方が陛下のお命を狙うとおっしゃるのなら」

「奴は魔導会議を潰そうとしたんだ。先に敵対してきたのは奴の方じゃねえのか」

 けんか腰になるスブタイ。

「王として、魔導会議の予算を削り、ほかの事業に充てようとした判断を、私は間違いと断ずることはできません」

「そうかい」

 魔道人形の核から魔力が迸る。

「ちょっと、スブタイ!」

「まだ話は終わっていません!」

「このバカ!」

 胸部が開き、訪問がせりあがる。制御文字の羅列に魔力を満たし、破壊の光線が放たれた。


 その日、ロムルス王国の首都ロムルスは陥落した。

 魔導会議はロムルス王アウレリアヌスに対して独立宣言を行った。

 以下、原文。

「我々魔導会議は五十年前の魔力災害を引き起こした存在であるところの原初九王に対抗するため、日夜魔術の研鑽を重ねてきた。しかし、時の王アウレリアヌスは先代陛下の志による魔導会議の活動を認めず、研究費用の削減、国内の魔術資源使用の制限、魔術師の軍配備による研究力の低下を指示した。我々はこれらの要求の一切を拒絶する。また、魔導会議周辺地域において、魔導会議は原初九王への対策を講じるための自治組織となることを宣言する。この自治組織の支配する領域においては、ロムルス王の一切の権力を認めないものとする」

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