59話 父子
「アウレリアヌス陛下。九王会議の開催はやはり厳しいかと思われます」
西大陸。
「父もたやすく成し遂げたわけではない。粘り強く働きかけてもらいたい」
「御意」
ロムルス王国。
「陛下、正規軍の退役者および新兵の配置変更の報告が上がりました」
「規模の拡張はどれほどになった」
「はっ。前年より五千人の増加であります」
「そうか、魔獣との戦いに加え、他国との戦にも備えねばならない。来年も必要になるだろうな」
王都ロムルス。
「魔術会議には新たに五十人の魔術師が加盟した」
「ああ」
王城の玉座前に、二代目のロムルス王アウレリアヌスと前王の側近たちがいた。
精霊教の伝道師であり聖光教の教祖。崇拝を受けとめる者。
暗黒街の主、軍の総帥。二面の顔を持つ者。
恩義の輩であり、人の身を引き換えにした者。
魔王を師として導いた者。
各領主たちが国政へ発言することは禁じられていないが、この場で発言する者は皆無である。
なぜか。
前王の側近と二代目ロムルス王、そしてここにはいない王弟に逆らって物事を動かすのは万事不可能であるからだ。
門は開かれているが、門の奥から届く気配で分かってしまうのだ。この先には自分よりも強い存在がいるのだと。
「次の議題だ」
西大陸の会議は武器の持ち込みが認められている。
そんな囁きが会議に参加を求められる領主たちの間でいつしか始まった。
「はい。鬼人との辺境にて斥候隊の接触が多発。昨年一年間で十二度、数の変化はあまり多くないですが、規模がおよそ倍になっており、境界への侵攻地点が散開しています」
そこで一度声が切れる。
隣の領主が戦斧を片手に立ち上がったからだ。
「同じく巨人の部族がいくつか進出中です。陛下におかれましては多方面への備えをお願いしたく存じます」
ほかの領主が魔術の制御文字を書きながら発言する。
「樹人と魔術会議の諍いが多発しております。議長にはしっかりと手綱を握ってほしいものですな」
嫌々発言させられた領主たちは魔術会議議長からの報復を警戒してそれぞれの獲物を握りしめた。
ギルダスはフンと鼻を鳴らしただけだった。
「師匠。御前ですので鼻水くらいは拭いてください」
鼻が垂れてきただけだった。
「王弟殿下もさぞやご苦労をなされることでしょう」
「予算をめぐり争う、王宮と魔術会議のただなかに立っておられる」
「この先どのように身の振り方を考えておられるのか」
魔王の三男アンブロシウスは魔導会議の最高位五賢弟の一角であるが、現王アウレリアヌスの実弟でもあった。
何かと資源を食いつぶす魔導会議と王宮は対立することが多々あり、そのたびに解決方法を兄と協議してきた功労者である。
それでも先代ウォーディガーンが存命中は師弟関係でもあったギルダス議長との関係は良好であったが、そこに先年の魔王崩御である。
魔術の指導と称して王宮へ通っていたギルダスだったが、それがぱたりと止んだ。
代わりに王弟アンブロシウスが魔導会議と王宮の仲を取り持っているのだが、如何せん魔王と議長の結びつきに比べれば弱い。
王弟アンブロシウスは魔導会議と王宮のどちらを取るのか。王都ロムルスの酒場ではよく肴にされるものである。
二代目魔王が咳払いをした。各領主たちの囁きが止む。
「その魔導会議だが、またしても天山山脈の鉱脈において不法採掘が行われたとの事実がある」
ギルダスが鼻をかみながら答えた。
「その件はすでに片が付いた。儂の個人的な貯蓄を解放したので、しばらくは実験に使う鉱物には困らん」
「ー今は無許可で採掘を行った者たちへの処罰について話している。ギルダス翁」
「許可は取った」
ギルダスは鼻をかんだ紙を魔術で燃やす。
「一度に採取できる量の上限を超えたことが問題になっているのだが」
「本人たちも反省しておる。それでしまいじゃ」
アウレリアヌスは天井を仰いだ。
短気な彼が剣を抜かないように、アンブロシウスが侍従に目配せをして砂糖たっぷりの果実酒の差し入れをさせる。
「すまない。気が高ぶった」
人種の赤ん坊がすっぽりと入る大杯を一息で空にしたアウレリアヌスは、会議を続けた。
その後もたびたびギルダスとアウレリアヌスのやり取りは繰り返される。そのたびにアンブロシウス、フリティゲルン、ヘンギスト、オイスク、ベーダらが助け舟を出すのだった。
会議終了まじかとなって最後の議題。
「今年の国庫からの支出だが、やはり魔導会議への支援は削減とする」
「くれぬというなら勝手にもらうだけのこと。それで話はしまいじゃ」
「師匠、せめて話は続けてください」
アンブロシウスの疲労のピークを迎えている。
「ふー」
ギルダスの前に煙管が現れて勝手に火が付いた。浮かぶ煙管はひとりでにギルダスに咥えられると、紫色の煙を出す。
「先年の魔王崩御から各国の動きが活発になっているのは知っての通りだ。落ち着いて研究ができる環境ではないと魔導会議の中からも声が上がっている」
ギルダスはちらりと弟子のアンブロシウスを見た。
「儂の耳には届いておらんな」
「耄碌したのか爺、さっさと議長を引退したらどうだ」
「あ?」
「ん?」
にらみ合った二人ではらちが明かないと、ベーダとヘンギストが目配せをする。
ベーダが口火を切った。
「研究費をなくすわけではない。実証段階にある研究に注力しろということだ」
「爺、聞き分けが無いようならいよいよ引退だな」
「ヘンギスト、黙ってろ」
叱られた軍総帥はすねた。
副総帥のオイスクが引き継ぐ。
「軍に配備する魔術師の数も足りず、魔道具も不足気味の状況です。人員の増強は順調ですが、このままでは装備の不足で後れを取る状況になりかねません」
魔導会議の長はプカリと水色の煙を吐いた。
「戦争が終わったとして、その先はどうなる。国の営みは戦いの中のみにあるのか?」
魔王を引きずり下ろした王は深くため息を吐くのである。
「理想を追うのは結構だが、周囲の支援を受けられない時のことも考えてもらおうか」
魔術師と王はそのまま物別れとなり、今回の議長だった聖光教教祖のベーダが議場を閉めて終了となった。
議場からギルダスが足早に立ち去る。魔術師が続き、ヘンギストとオイスクが軍人を引き連れて本部へ戻った。ベーダは配下の司祭を先に返して残り、アンブロシウスもまた残った。
「兄上、師匠のことをお詫びいたします」
「アンブロシウス殿下、誤ることはありませぬ。すべてあの耄碌爺のせいでございましょう」
「ベーダ卿、あまり師匠のことを悪く思わないでください」
「これは失礼しました」
「二人とも、雑談もいいが、何か要件があるのではないのか」
アウレリアヌスの促しで二人は譲り合うように押し黙った。そして先にベーダが口を開く。
「領土の南方において我が教会の襲撃が発生しております。人的被害がこれと言ってないのが幸いですが、治療に用いる魔道具や、各協会で管理をしている精霊の窃盗がとどまることを知りませぬ」
「南方ということはやはり魔術会議に連なる者たちか?」
「そこから先は私が」
ベーダが頷きアンブロシウスに引き継ぐ。
「現在の魔術会議本部において、所属する魔術師はすべて会議の敷地内に拠点の研究室を構えています。そこで私が抜き打ちで検査を行ったところ、聖光教の所有物と思しき魔道具は発見されませんでした」
アウレリアヌスの指がゆっくりとリズムをとっている。
「そこで目標を変更して魔術会議周辺に広がる地域へと捜索を広げました」
「なるほど」
会議本部は正式に魔導会議に参加を認められた魔術師のみが魔術の研鑽に励む場である。
大陸中、時にはほかの大陸からも入門希望者はやってくるが、時には入門を認められないものもいた。
そんな者たちは魔導会議の周辺に集った。
人が集まれば集落となる。宿ができるし食料を売りに来る商人も集まる。魔導会議への参加希望者はとどまることを知らず、じきにその集落は魔術師と魔術に関連する産業でにぎわう魔導会議の門前町の様相を呈してきた。
大変に活気のある町のひとつである。
個人的に魔導会議に所属する魔術師と交流をもって研鑽を積んでいる者がいたり、どこから手に入れたのか全く分からない希少な素材を売り買いできる商人がいたり、完全に違法な魔術を扱う腕利きの傭兵がいたりする。
そんなわけで魔導会議門前町は治安は悪化の一途を辿っているのだが、基本的にロムルス王国は取り締まることをしない。魔王ウォーディガーンの建国時の宣言によるものだ。
「我はすべての願いを肯定する。欲望を認める。汝の欲するところをなせ」
魔王伝第一章建国より一部抜粋。
そんな調子で、基本的に自力救済なのがこの国の特徴だった。
下剋上上等。衛兵はいるものの、その数は少ない。人里だろうがお構いなしに突然魔獣は現れて田畑を荒らし、飼いならした魔獣を襲い、人を食った。
強くなければ生きていけない。鍛えなければ生きていけない。
もっとも、ロムルス王国の治安が悪いかというとそういうわけではなかった。
軍、魔術師、聖職者が組織され、全国に配置されていることと、下手に犯罪を行おうとするものなら周囲の人間によってたかって縛り上げられてしまう。
食い逃げしようとした奴が店の主人に気絶させられたりするのはよくあることで、盗みをしようものなら店内の客につかまって店先に逆さづりにされ、無理やり美人を連れ込もうとした柄の悪い酔っ払いたちは叩きのめされて自分の汚物の中で目を覚まし、田舎者をカモにして金を巻き上げようとした美人局は肥溜めに投げ込まれた。
杖を突いた盲目の老人が実は軍総帥ヘンギスト配下の暗黒街の重鎮で、財布をすろうとしたスリ指をへし折った。とか、いかにも気の弱そうな美少女を手籠めにしようとしたが、彼女は聖光教の教祖から体術の手ほどきを受けていて金的を破裂させられた。とか、ヒョロヒョロで眼鏡をかけた少年をこき使っていたらいつの間にか魔術を覚えて全身の毛を燃やされた、とかとか。
犯罪に手を染める者たちは多いが、返り討ちにされる者もまた多かった。見た目で舐めてかかると痛い目を見る、というのがロムルス王国の共通認識なのだ。嘆かわしき修羅の国である。
魔獣への備えとしてあらゆる国民が魔術か武術に精を出す国である。地道に己を鍛えつつ悪事を働く者は少なかったし、魔王、竜騎士、第一使徒、魔導会議議長、聖光教教祖らを筆頭にした強者たちから見放されては、十日も持たずに魔獣の餌になってしまう環境である。
自分よりも弱いものを見下して安心するような人間は長生きできなかった。
「魔術会議の門前町ーいまだに名前のない町なのでこのように呼称しますーでは管理用の銘を丁寧に抹消した聖光教会の魔道具が確認されています。複数の業者を渡り歩き、すでに元の所有者とは接点が消えておりました」
報告書と思しき束をめくりながらアンブロシウスが報告を終えた。
暗黒街ではよくある話ではある。貴重な品や表立って販売できないいわくつきの素材などを売買するためにだけ経由させる中間点、品に応じた手数料と秘密保持の契約によって活動する商人たちがいる。
「買い戻せるだけ買い戻しましたが、回収率は五分といったところです」
「ギルダス議長に話を通せば何かしらの手を打ってくれるのではないか?」
二代目魔王は聖光教教祖のベーダへ問うた。
先代魔王の側近として活躍していた二人だ。長年のよしみで人手くらいは借りられると思ったが、ベーダは苦笑して肩をすくめた。
絶世の美男子として名をはせた男だ。齢七十を超えてなお、アウレリアヌスの近習のほほを赤らめるような笑みを浮かべる。
「あ奴にそのような根気のいる探し物はできませぬ。年を取ってからはなおのことおのれの弟子と魔術の研究の身に生を傾けるようになりましたのでな」
ほう、とため息をつく姿に見とれた通りすがりのどこかの領主夫人が手に持った扇を取り落とした。
(この爺、わざとやっているのかこれが素なのか)
魔王の息子たちは互いの目線のやり取りでどうやら同じ感想を抱いていることを察した。
「アンブロシウス、話は分かった。引き続き捜索の方は頼む。近衛から何名か騎士を出すことも考えよう」
「ええ、ありがとうございます兄上」
それでいいかと目線で尋ねられたベーダは小さくうなずいた。そのしぐさに…以下略。
「研究と言えば、ベーダ翁」
「なんでしょう?」
「翁が進めているという研究は順調なのか?」
「ふむ」
天山山脈には聖光教の研究所がある。研究所と言ってもベーダが個人的に研究しているところに、信徒の中で研究熱心な者たちが押しかけている程度のものだが。あくまで聖光教の実験を行っている場所なので研究内容は聖光教に反映されるし、国からも予算を出しているわけではなかった。
「幾人かの有志を集って実証試験を行っております。じきに各地の教会へと還元されますのう。ま、気長にお待ちくだされれば幸いです」
「人体実験か。あまり良い予感はしないな」
アウレリアヌスの脳裏にはギルダスの実験で暴走した研究対象の姿がよぎった。
なんとも思い出したくない事件であったが、否が応でも瞼の裏には焼き付いている。俺は当時存命だった魔王ウォーディガーンの下で剣を振るった。
「ギルダスの実験体が暴走した。自己破壊と自己再構築を繰り返しながら増殖を続けている」
軍総帥ヘンギストが副総帥オイスクに報告させた内容は、まるでいつもの定期報告のようだった。その内容は領土内に異形の怪物-魔獣とも人間ともつかなくなった生き物-が国民を襲っているというものだった。
「なぜ、みんな、何でもないように話すことができるんだ?」
俺の口をついた疑問は会議の間に消えた。
「へ、陛下。これからどのような手を?」
弟のアンブロシウスは声を震わせた。
魔王。教祖。総帥。魔導士。それぞれ無言。副総帥はすこし視線を下げた。
そのほかの領主たちからも動揺と恐怖の訴えが続く。
魔王が片手を挙げた。
「ー」
一転して沈黙。
昔は非力な引きこもりで魔術の本ばかり読んでいた王位継承権最下位の第十王子だった。らしい。
魔獣の魂を啜りおのれの一部と化して魔王となった。魔獣を生み出し呼び出し作り出す。魔獣の王。魔術の王。魔人の王。魔力の王。
物語の悪役。恐怖による支配。
原初の九王の魔力が歪に交じり合った末、現代の九王の一角がウォーディガーンという王だった。
昔ながらの付き合いがある側近はともかく、そのほかの領主たちにとっては無駄な威圧感は迷惑でしかないのだが。
「オイスク」
副総帥が呼ばれる。
かすかな駆動音を響かせて魔王軍副総帥が立ち上がった。魔獣を倒す効率を追求するあまり肉体を魔道人形のものと融合させたという人物である。
右腕からは灼熱の光線が出るらしい。
「ギルダスと連携して処理しろ」
「御意」
「…息子を同行させる。扱いは任せる」
その一言で俺と弟は死地へと赴いた。
俺とアンブロシウスはオイスクの従者扱いとなった。あとから振り返ってみると王と家臣の距離感としては少々おかしかったように思う。
処分する実験体はロムルス王国各地へと逃亡した。
少人数の探索部隊を統率するオイスク副総帥にくっついて辺境から辺境へと渡り歩いた。一年間である。
探索部隊を統率する部隊にいたが、しばしばその部隊にも実験体と邂逅する機会があった。
「嫌だ。嫌だ。嫌だ」
嫌だ。と繰り返すだけの知性しかなくなってしまっていた。
初めて人を切った。
「ああ、いやだー」
弟も魔術で人を殺めた。
その時のことについて話したことはない。切った感覚も当時の記憶も曖昧になっているが、どうしようもない嫌悪感だけがのどの裏側に張り付いて言葉が出ないのだ。
国中を駆け回ってギルダスの後始末をした期間は一年余りにも及んだ。
切り捨てた人は二十を超えた。弟も同じくらいだろう。
「これが最後の対象だ。まだ魔力は残っているか?」
「一撃分、何とか絞り出すよ」
アンブロシウスの得意な肉体強化の魔術が肉体の中を駆け巡る。魂から延びる魔力の道に入り込み、体を動かす力を増幅する。
俺は足に力を入れた。両足の親指に重心をかける。つま先で体を支える。ふくらはぎが倍の大きさに膨れ上がり、筋肉と血管が浮き出した。
熱。
一歩。踏み込み、踏み抜いた。
すでに抜刀している。魔力で鍛え上げられた実験体の肉体だが、俺はそれよりも鍛えている。
(死)
背骨と内臓を破壊した。実験体が倒れた。
「アンブロシウス。確認の魔術を」
「魔力測定開始」
周囲に敵対する生物はいない。しかし、剣の柄を握りしめていた。
アンブロシウスの肉体強化魔術の余韻がまだ駆け巡っている。五感が冴えわたっている。空気の味、実験体の血の味がする。魔力の音、アンブロシウスの魔術が不気味な音を奏でている。殺意の模様、俺と実験体の彼が発していた気配が薄れていく。嫌悪の匂い、彼の感情が嫌だ嫌だと立ち上る。希望の感触、これで終わるという確信が分かった。
剣の柄を握り砕いた。
「ー魂と肉体の剥離を確認。彼もしくは彼女は無事に九泉への王脈へ届くでしょう。兄上? どうかされましたか?」
砕けた破片を握りこむ。砂利よりも細かくしてから投げ捨てた。
「何でもない。弔おう。火を起こすぞ」
「魔術で起こします」
黒色の炎が彼を包む。
(いや、性別もわからないんだったか)
彼女、彼、どちらかわからない人が燃えていく。黒く包まれる体が不思議と温かい。
その日の夜。
夢を見た。
真っ黒な空間に月と太陽が重なっている。俺が真ん中に立ち、左に弟のアンブロシウス、右に誰かわからない真っ黒な影が立っている。
(月が太陽を隠している)
太陽の輪郭が月の陰から見えていた。
右の人影が前にでる。なぜか、彼を一人ではいかせられないような気がして、俺も一歩前に出ていた。
一歩分の歩幅。
ほんのわずかな角度の違いで、重なっていた太陽と月が分かれて見えた。
影の人は月を見ている。
俺は太陽を見ていた。
(見ているのか、見られているのか)
日輪と月影が人を見ているというのもおかしな話だと思ったが、なぜか視線を感じているのだから仕方がない。
(夢だからな。こういうこともあるかもしれない)
「お前ではだめだな。もうじき器が生まれる周期なんだが、お前は余分なものが入ってしまっている」
何を勝手なことを。
「フン。俺の作った土人形ごときが、生意気にも創造主に不満を抱くか。傲慢だな」
話の通じない手合いか。
「通じるわけが無かろう。次元が違うのだ。文字通りにな」
ならば疾く去れ。
「本当に傲慢だな。俺がいなければ何もできない矮小さのくせに」
何か一言言わねば気が済まないというのなら、もっと気の利いた捨て台詞を考えておけばいいものを。ありきたりな三文芝居のセリフですらもう少し才能を感じさせる。
「せいぜいそのように言葉遊びにうつつを抜かしていればよい。俺が再誕の時を迎えれば、真っ先にお前を焼き尽くしてやろう。煉獄の苦しみを味合わせてやる」
そうして日輪は沈んだ。
気が付くと目が覚めていた。
朝日が昇っている。どうにもまぶしい朝日だった。




