41話 挨拶
魔獣の群れを退けて一年が経つ。私は、二十一になった。
代王都は、元通りとはいかないまでも、人口は三万を超えようとしているし、商人と職人に加えて、戦士達も集まってきている。
目の前にある課題に対応している内に、国の姿が整っていくのを見ると、不思議な思いがする。
いよいよ正式な代王として即位する時期を迎えたと判断した。そしてそれは、先延ばしにしてきた厄介ごとに向き合うということでもある。
年の初めの儀式を一通り終えて、側近に召集をかけた。
年の初め、といっても暦の上だけのことだ。魔力災害が起こってから、生き物の行動は一年を基本としなくなった。穀物は年に何度も収穫できるようになり、魔獣の大移動は頻発する。天候は予測不能で、きつい日差しのすぐ後に北風が吹くこともあった。
「現在進行形で、この国にはものすごく厄介な問題がある」
側近を集めて会議を行う。
「政治の話は興味ありません」
ギルダス。
「どうした、深刻な顔してよ」
ヘンギスト。
「若、茶化すなら廊下に出ていてください」
オイスク。
「どんな困ったことがあったんですか」
ベーダ。
「例の件ですか?」
フリティゲルン。
五人が何のかんのと言いつつも、私の次の発言を待った。
「東に挨拶へ行かないといけない」
東。レムス王国。レムス王家。百年前にこの大陸へ渡ってきた私の祖先、ロムルス家の本流、
そこと連絡を絶っていた。意図的にだ。
「魔力災害から一年の間、全く連絡をとってこなかった理由を、どのように説明なさるので?」
アルフォンソがぬっとあらわれる。数か月前、軍の指揮をヘンギストとオイスクに任せるようになってからというもの、王宮の内部を歩き回っては、私に嫌味を言う仕事をしている。
それは言いすぎか。正式な役職名は相談役ということになっている。
「魔獣に遮られて船を出せなかったことにしようと思う」
「納得しますかな?」
「色々と偽装した方がいいかな」
いくつか偽装の方法を考えてみる。そこで、ヘンギストが口を開く。
「陛下。そもそも港は魔獣の勢力圏だ」
「うん? それなら、シンゲツの力で魔獣を追い払うことができる」
「出発するだけならそれでいいんだが、大型船の整備はどうする?」
船の整備。
「あっ」
「だよな。この一年、海岸の整備は全くしていない」
「どうしようか」
すっかり頭の中から消えていた。
ボルテが海外と交易していたと聞いて、魔獣を何とかすれば東大陸には行けるものだとばかり考えていた。
ヘンギストにも、水軍の整備は命じていなかったからなあ。
「うーん」
ボルテに頼んで一艘用意してもらおうか。代王国の港は疲弊していても、ボルテなら樹人の港に顔が利くかもしれない。
しかしそうなると、また出費が増える。
「オイスク、ボルテと交渉できるか?」
オイスクが鋭い目つきで書類をめくる。軍も含め、予算は私とオイスクとベーダの三人でやりくりしている。
枯渇はしていないが、余計な動きをできるほど余裕もない。
「現在、代王都の物流を担っているのはボルテ氏です。流れを乱さないようにするならば、中型船を一艘借りられればいい方でしょう」
「分かった、それでいこう」
アルフォンソが口を挟んだ。
「中型船では、威厳が足らないですな。交渉に難渋しますぞ」
「そこは、何とか工夫しよう」
アルフォンソが言いたいことは分かる。あの連中は見た目でしか物事を判断しない。だが、いくつか腹案はある。
「よし、オイスク。外洋を航海できる船を一艘用立ててくれ。なるべく予算は控えめでな」
「…善処しましょう」
船はこれでいいか。あとは、物資だ。
「アルフォンソ。中型船だと人数はどのくらいだ?」
「ふむ。どれほどの船かによりますが、動かすのに二十人、乗り込むのが二十人ばかりでしょうな」
「そうか」
私を含めて十九人か。思ったよりも少ない。
「なら、お前たちは全員残ってくれ」
その場にいた全員が、揃って嫌な顔をした。違った。ギルダスは全く興味がなさそうだ。
「何か言いたそうだな。一人ずつ聞こう」
まず、オイスクが口を開く。
「領主たちが何をしでかすか分かりません。魔獣を退けた代王がいるからこそ、表立って反抗をしていないだけで、いつ反乱を起こしてもおかしくない状況です」
「だからヘンギストとオイスクが残る。反抗する領主は、様子を見つつ一つにまとめて叩き潰す」
叩き潰すと言った時、オイスクが驚いた表情をした。
「次、ヘンギスト」
「魔獣をどうする。まだ月影の眷属達は残ってるぞ」
「ギルダス及びベーダの戦力で対応できるだろう。フリティゲルンもいる」
ギルダスが驚いたように私を見た。
「魔術師は研究が目的です。言ってみれば学者です。戦いの場には出ません」
「別に全員に出ろとは言わんが、魔獣が相手ならどんな実験もできるぞ」
「ほほう」
言葉遣いは落ち着いているが、目が輝いたのを私は見逃さなかった。
「陛下。よろしいでしょうか」
「ベーダか。どうした?」
「治療の魔術に長けた私の弟子を何人か伴っていただけますよう」
「二人まででいいか?」
「ありがとうございます」
「ベーダは賛成してくれるんだな」
「ええまあ。やらなければならないことであるのは分かっていますから」
別に他の面々が反対しているわけではない。ただ、懸念を共有しておこうというのだろう。
「陛下」
しゃがれ声が響く。
「難しい交渉になると思われますが、お一人でそれをなさるので?」
「そうだなあ。そうならざるを得ないな」
文官が足りない。それも、圧倒的にだ。
魔力災害そのもので、魔力に耐えられずに魂を壊されてしまった者も多い。その後の魔獣との戦いで生き残ることができなかった。
代王都の暮らしを整えるだけで精いっぱいで、交渉役として何人か連れて行けば、疲労で倒れる人数が倍になるだろう。
「まともに相手をされるでしょうか?」
「そこは、フリティゲルンに任せようと思う」
「ほう?」
人種に備わっている部分の眼だけを開けたフリティゲルンに視線が集まる。
「なるべく見た目が強そうで、忍耐力のある護衛を選んでくれ」
「かしこまりました。陛下」
アルフォンソが顎をさする。
「脅すつもりですか」
「そう言うな。口で敵わないなら、方法はこのくらいしかない」
「ふうむ。ならば、あまり余計な交渉はせずに、挨拶程度の使者にとどめておくのが良いでしょうな」
「そうか。代王位継承は次の機会にするべきか」
「まあ、話だけでもできればよいかと」
「後は、何かするべきことはあるかな」
「東大陸のロムルス家には顔を出した方がよいでしょうな」
「本家にか。そうだな」
そうすると、やるべきことはそれほど多くない。向こうに行っても、軽く顔を合わせる程度だろうし、それほど準備が必要なこともないだろう。
「滞在期間はひと月ほどになる」
オイスクが素早く計算する。
「片道一月として、最短で三月ですか…」
場に、沈黙が流れる。
「ご不在の間、主だった案件はどのように処理すればよろしいでしょうか」
フリティゲルンの発言で、微妙な空気が流れた。
「ギルダスが遠隔通信の魔術を開発している。それを使って、私が時々定期連絡をする」
このあいだギルダスの研究所を覗いた時に、喜色満面で説明された。ようやくまともに動く術式を組むことができたのだとか。
「そんな便利なものがあるのか」
「まだまだ試験段階ですが」
口調は謙遜しているが、表情は得意満面だ。ギルダスには腹芸は無理だな。もし連れて行くならギルダスだと思っていたが、これでは無理だろう。口に出す前で良かった。
「大量の魔力を使うので、繋がるのは十日に一度。三十人の魔術師が必要です」
「それは…。代王国の抱える魔術師全ての力が必要だということか?」
ヘンギストが、ただでさえ人手が足りない、と言い出す前に遮った。
「在野の魔術師に協力をお願いしろ、ヘンギスト。魔獣の解析なら何とかなる」
「しかし、戦闘時の手が足りない」
「魔術を魔術師に頼るだけじゃなく、兵に覚えさせろ」
「それは、軍の整備に遅れがでるぞ。いいのか?」
「人数は仕方ない。質を高める方向でいこう」
「むう。それも一つの方法だが」
「月影の眷属が現れたとして、並みの戦士が百人で止められるか?」
ヘンギストが何度か頷いて顔を上げた。
「分かった。ギルダスとフリティゲルン殿の力を借りてやってみたいんだが」
「いいか? 二人とも」
「私はご命令の通りに」
フリティゲルンはそうだろう。ギルダスはどうか。
「私はお断りします」
素直に言うことを聞く人間ではないのだが、予想通りすぎる。
「なるべく簡単に覚えられて威力の大きい術式を考えてほしいんだ」
「知ったことではありませんね」
「魔術を使える人間が増えれば、魔術師を目指す者が増えるぞ」
「それがなんだというのですか」
「分からないのか。お前の弟子が増えるかもしれないのだぞ」
「…」
「弟子に手伝わせれば、これからの魔術の発展に役立つと思わないか?」
「…ふん」
もう一押しだな。
私は小声でギルダスの耳元に囁いた。
「ベーダの弟子は増え続けているんだぞ。このままだと、魔術の素質があるものは、皆治療師の仲間入りだ」
「く…。確かに治療師の構えた治療所は最近増えてきました…」
ほとんどやる気になったな。止めといこう。
「東大陸にも魔術がある。何か面白い物を見繕って土産を持ってくるよ」
「…しょうがないですね」
「よし! 話はついたな」
「研究はしますが、教えるのはやりませんよ」
「だそうだが、ヘンギスト?」
「ま、簡単な魔術を使える奴は何人かいるから、そいつらをお前の所にやる」
話はまとまった。
「よし。細かい所は準備を進めながら詰めていくとしよう。これにて今日は散会とする」
各自、思い思いに散らばっていく。私も、執務室とは名ばかりの書類置き場に戻った。報告書と申請書が山盛りになっている。
魔術の研究、剣の鍛錬どころの騒ぎではない。この一年、ほとんど王宮の外へ出ることができないほどだった。
(早急に文官を増やさなければ、死んでしまう)
月影の眷属であるシンゲツの力を奪い、魔力と肉体は強化された。睡眠時間を削っても、さほど影響は出ていないが、毎日毎日字を追いかけ続けると、流石に飽きる。
(その息抜きも兼ねて、今回の東王国行を提案したのだが、流石に察してくれたのだろうか。思ったよりも反対意見は出なかったな)
魔獣の皮を鞣して作った書類をめくりながら考える。
(もっと過激な意見が出るかとも思っていたんだが、それもなかった。東王国など無視して勝手に王座につけばいい、とでも言う者が一人はいるんじゃないかと考えていたが…。結局、まともな成果を持ち帰ってくる外交ではなく、軽い挨拶程度の訪問になったからか?)
椅子を回転させながら、沈思に耽る。
思いのほか、東の一員という意識は強いのかもしれない。
(見た目の違う種族と接する点では、大分意識は変わってきている、はずだ)
「失礼いたします。陛下。お目を通していただいた文書に一部不備がございました」
文官が入ってきたので、椅子を回すのをやめた。
「分かった」
内容に特に問題はないようだ。形式が間違っていたのだろう。
目を通して、他の書類と一緒に返す。一礼して、文官は下がっていった。
また椅子を回し始める。
考えることは山のようにあって、考え事と書類仕事で一日が終わった。
「クエエエエエ!!」
そして、相棒の騎獣ペルシュロンの鳴き声と共に朝が来て、一日が終わり、それを繰り返し、しばらくが過ぎた。
側近の前で東への渡航を切り出してから一月である。
その間、準備に追われたが、どうにかこうにか出航できた。
「へーか。ほんとに俺らがついていくのでいいのかよ?」
「ちゃんと説明された。オド、何度も同じことを聞くのはうっとおしい」
「でもよお」
今は、海の上である。
顔見知りの魔人オドアケルとアラリックをはじめ、護衛として十九人が乗り込んだ中型船の上だ。ベーダの弟子という二名も魔人だったのには少し驚いた。そういえば、フリティゲルンと並ぶ魔人の戦士スティリコが近頃ベーダと共に行動していると聞く。彼を頼る者も多いのだろう。
フリティゲルンとスティリコに言い含められているとか言って、十七人はあまり私と話してくれない。名前も教えてくれなかった。
なので、航海中の話し相手は顔なじみの魔人二人と、ボルテの部下の船を動かす者達だ。
船に乗ってから、十日ばかりが過ぎていた。
(今のところ、何も無いな)
天候も荒れることなく、順調な航海なのだという。
(もっとも、初めの五日ばかりはひどい目に遭った)
この年になるまで、海を渡ったことは一度だけだ。その時は、代王の御座船、この船の数倍の大きさがあった船に乗っていたので、大して酔いもしなかった。
中型船に乗るのは初めてだ。そのため、かなり揺れる。
言わずもがな、船酔いになってしまった。シンゲツの力も船酔いには意味がなかったらしい。あいつは宙に浮いていたから、船酔いなんてしたことが無いのだろう。
護衛の十九人もほとんどが全滅で、ぐったりとした一行を、ボルテの部下がめんどくさそうに介抱してくれた。
三日ほど水だけを飲んでいると、腹が減り、思い切り飯を食った。
すると不思議なことに、すっかり酔いがなくなった。酸っぱいものを海に吐き出していたのが嘘みたいだった。
航海は続く。時折、島が見えるものの、あとは一面の海と空だ。
その頃、西大陸代王国領。
ウォーディガーンが呑気に海の上を飛ぶ魔獣を眺めている間にも、西大陸では暗雲が立ち込めていた。
代王国西方。巨人戦線を構築するエース領の一角。
「ご当主! ご当主はいずれに!」
屋敷の中庭で巨人からの鹵獲品を品定めしていると、使い魔を抱えた家人が大声で叫んでいるのが聞こえてきた。
若々しい、良い声だ。
「こっちですよ!」
対して、わたくしの声は無残なほど老いている。
「ご当主。ツヴァイ家の者より、知らせが」
周囲から、どよめきが上がる。
待ちに待った知らせが来たのだ。
使い魔が抱える皮を開き、内容を確認すると、わたくしは声を張り上げた。
「皆の者! 戦支度を整えよ!」
一瞬静まり、それから館の内部は鯨波の声で一杯になった。
「さあ、死に花を咲かせられますかどうか」
ぼそりと呟いた声は、鬨の声にかき消されたが、ときめきに似た何かを感じさせた。
それは、いかにも若者の声のようであった。
代王国北辺。トレース領。
当主ナサの幕舎にて。
「将軍! 将軍!! しょう―」
「うるせえ! 起きてるよ!」
耳元で何度も大声を出す従者を殴りつけようとした拳は、空を切って、寝床の傍に置いてあった水差しを粉砕した。
「将軍」
「なんだ」
「エース領のご当主より、伝令です」
「来たか」
「はい」
従者が、じっと俺を見てくる。
「何をしてる! さっさと出撃の準備をせんか!」
「もう整っております」
「なに」
十五の時から軍に入りたいと言い続けてきて、今年二十五になった従者だ。俺が言いたいことはすべて分かっている。と言わんばかりのすまし顔だ。
「なら、出撃する」
「はい。出撃します」
そういった瞬間に腹に一発食らわせてやろうとしたが、その時には従者は外に出ていた。
「くそったれめ」
いまいましいが、それを補って余りあるほどの高揚感が湧きだしてくる。
「若造。目にもの見せてくれる」
幕舎を出る。
騎獣兵が整列し、歩兵は既に進軍を開始している。
遠く、天山が見えた。
「行くぞ! 目指すはフスクの町! そして、その先にあるのは代王都だ!」
「進発!」
最後の一言を従者にとられた。くそったれめ。今度は心の内で言った。部下の前では、流石にみっともない姿を見せないようにしている。
代王国南方。石人山脈のほとりの砦。
北辺の領主、トレースが反乱を起こし、即座にフスクの町を襲ったと知らせが入ったのは、深夜だった。
石人の砦に広がる、できたばかりの名前の無い町で、ひっそりとその知らせを受け取った者がいる。
「若、始まりました」
出来たばかりの宿屋の寝床に、従者がやってきて報告する。
「何日前の知らせだ?」
「三日前です」
「早いな。流石は改良を重ねたという使い魔だ」
高い値を払ってでも買った価値があった。とツヴァイ家の次男、ファルコムは安堵した。
情報の伝達はうまくいきそうだ。
「これからどうなさいますか?」
「今から、話を付けてある商人たちを訪ねる」
通訳でもある従者は、ちょっと俯いた。
「お身体が心配です」
「なに、まだまだ死ねないよ」
立ち上がって、身支度を整える。代金は、部屋の机においておくことにした。
そして、名も無い町から、二人の姿が消えた。
魔獣を意のままに操り、代王都を百万の魔獣から救い出したという三代目代王、ロムルス・ウォーディガーンが航海へ出てから五日後の事である。
代王都ロムルスより、徒歩で北西に一月ばかりいったところに、フスクの町がある。代王都ロムルスとは北アムル川でつながっている物流の中継地点の一角である。
その一帯に、反ウォーディガーンの旗が挙がった。
中核となっているのは三名。北辺の大領主トレース・ナサ。西方の対巨人戦線指揮官、エース・ブレイナード。ツヴァイ家次男、ツヴァイ・ファルコム。
標榜するのは、現支配体制の改革。即ち、魔術師及び治療師、さらに魔人優遇政策の撤廃である。
一日もかからずフスクの町を占領したナサ将軍曰く。
「この大陸を切り開いたのは誰か!? 我々か!? それとも先住民である魔人達か!? 否、どちらも否である!! 我々の祖父、祖母たちである! 彼らは、この大陸の過酷な自然と闘い、共に生きた! その孫子が我々である! 開拓者よ、入植者よ! 気高き旅人に、我らが祖先と同じ魂を認めよう! 我々は心よりの敬意を払おう! そして、新たな朋輩としての地位を約束しよう!」
ということである。
「分かりやすく言えば、ウォーディガーン陛下の東大陸との断絶をやめて、入植者と開拓者をどんどん受け入れようということでしょう」
オイスクが報告を終えた。
代王都ロムルス。その城外に、軍が駐屯している。
中央に幕舎があり、ウォーディガーンの側近が集まっている。うちの一人、魔術師ギルダスの膝元には、会議の議事録を自動で書きだす魔術が発動し、ひとりでに羽ペンが走っていた。
「魔力災害の様子は伝わっているのだろう?」
なぜ今更そんなことを、と言いたげな表情でヘンギストが呟く。
「まあ、兵力の問題ではないかのう」
「卿よ、私はこの国の事情にあまり詳しくないので、詳しくお聞かせ願えますか」
アルフォンソがもったいぶるように顎を撫でる。
「入植者、開拓者と言えば聞こえはいいが、実際は食い詰め物の集まりのようなものでの。辺境の領主たちの軍は、行き場のない者達を受け入れる格好の場所だったわけじゃ」
ウォーディガーンがいないと、アルフォンソの口調も砕けたものになっている。
「ふむ。国境の戦線に危険があるというなら、陛下の兵を増援にさし向けると言えば、彼らも矛を収めるのでは?」
何を呑気なことを言っている。そうヘンギストがベーダの意見に口を挟む。
「今更遅い。とっくに反乱を起こしているのだ。言葉でどうこうするのは、一度殴り合ってからだ」
ヘンギストの拳が、卓を叩く。
「待ってください。兵力が足りないのにフスクの町に軍勢を派遣して、領地はどうなっているんですか?」
加熱しそうになった議論を、オイスクが止めた。その疑問をそれぞれが一瞬で頭の中に入れると、側近会議は喧々諤々となる。
「手の者を派遣しましょうか」
「各地を飛び回っているボルテを探して、聞いてみる手もある」
「私が巻竜に乗って確認しましょう」
立ち上がって今にも動き出しそうなオイスク、ヘンギスト、フリティゲルンを慌ててアルフォンソが留めた。
「待て待て、一旦陛下に連絡を入れてからだ」
そこでギルダスに目が向けられる。
「ぐう…」
そしてギルダスは昼寝をしていた。
「起きんか、馬鹿者」
アルフォンソの拳骨が落ちる。
「ふぎゃ」
「ぷぷぷ」
ギルダスの奇声に堪えられず、ベーダが噴き出した。
「ええと。なになに」
目をこすりながら、ギルダスは膝の上に置いていた紙を読み、こう言った。
「なるほど。じゃあ遠距離通信魔術の試験運転といきましょうか」




