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九王記  作者: 荒木小吾
一章 西の大陸で
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29話 会議

 魔獣の長が定めた刻限が明後日に迫った。

 ヘンギストの尻を蹴っ飛ばし、何とか準備を間に合わせたのは昨晩遅く。

 会議が始まる。

 眠い目をこすりつつ、朝食をとって、身支度をした。正式な会議をする以上、正式な装束は必要なのだ。

「陛下。お召し物でございます」

「ああ」

 装飾の多い格好に着替えた。

「ご立派なお姿です。先代の陛下もお喜びでしょう」

「よせ、何も始まっていないし、終わってもいない。ぬか喜びをすると気が抜けるぞ」

「ははっ」

 絶望の中で見た一筋の光、とでも言いだしそうな老騎士を丸め込んで、支度部屋から追い出した。

 場所は王宮。集まるのは私を含めて五人。

 謁見の間に円卓が一つ。

「えー、それでは、会議の主催者として、不肖この私が口火を切らせていただく」

 私、先代代王の第十子ロムルス・ウォーディガーン。

「書面にてある程度の情報は共有したが、この場で最終的な状況の整理を行っておこうと思う」

 高い音の咳払いが一つ。

「何か?」

 口を開くのは三十代前半の女性。

 彼女の名はクラン。とある商人の妾だったが手練手管で商人に取り入り、代王にある本店を巻き上げた人物。

 商才は確かなもので、東大陸への進出も考えていたらしい。だがその矢先、この災害に巻き込まれ、夫の商人とその一家が死亡。

 結局、手元には僅かな配下と資材だけが残っているという。

「わざわざ確認せずとも、本題に入ればよろしいんじゃありませんこと? 時間の無駄というものですわ」

「おい阿婆擦れ。時間の無駄ってんならよぉ、お前の依頼が時間の無駄っていうもんなんじゃねえかぁ? ん?」

 このがらの悪い男は、代王都近辺を縄張りにしていた盗賊団の頭で、ゲオルクという。

 魔力による部下の被害は比較的少なくすんだらしく、元気よく火事場泥棒を働いていた。ようなのだが、代王都が魔獣に囲まれて脱出が不可能になってしまった。

 そこに、同じように脱出を図ろうとしていたクランが現れ、包囲の薄い所を探してほしいと依頼してきた。

 前金の払いが良かったようで、すんなり危険な依頼を受けたものの、百万規模の魔獣の群れだ。薄い所を見つけても突破できるかは別問題だったらしい。

 その後、無理だと報告するゲオルクと意地でも脱出しようとするクランとの間で揉め事になった。

「その話はここでしなくてもよいではありませんか」

 弱みを握られるのが嫌なのだろう、クランは話を終わらせにかかる。

「いーや、手前がいかに信用ならねえかをここで言いふらしてやるね!」

「ふん。あなたがなんと言おうと、この場に居られる方々のお耳には入りませんわ。良識のある方々ですもの」

「お? そんなに言うなら言ってやろうじゃねえか。いいかあんたたち、この女はな、あの魔獣の群れの隙間を縫うルートを探させようってんだぜ! 無謀でしかねえだろ!?」

「お黙り!」

「ふざけんなババア!」

 取っ組み合いの喧嘩でも始めそうな二人を、それぞれの付き人が押しとどめた。

「殿下。続きをどうぞ」

 しゃがれた声のテングート・アルフォンソが重々しい口元を動かした。

「そうだな」

 揉め事は当事者間で解決してもらいたい。話を勝手に進めれば、睨みあって火花を散らしている二人の意識も逸れるかもしれない。

「とりあえず、我々の調査報告から話を進めようか。各々方、配布した資料をご覧いただきたい」

 それぞれ資料に目を通す。

 アルフォンソは懐から老眼鏡を取り出した。

 テングート・アルフォンソ。魔獣との戦いの中、私と共に戦ったテングート家の若当主の父にあたる。引退してしばらく経つが、若い騎士に稽古を付けたり、先代代王に相談役として呼ばれたり、代王都の貴族の間で中々の人望を持つ人物である。

 ただ、私にとって気がかりなこともある。軍関係の家柄のため、第六王子との関りが強かったのだ。私や、第一王子の文官勢力とは縁が薄く、疎んでいた気配もある。

 魔力の大暴走中でも、貴族を中心とした生き残りをまとめ、代王都の生存者を守っていた。

「推計ではあるが、被害状況をまとめてある」

 十万人いた人口は五分の一に、二万まで減った。

「人口減少の要因だが、高濃度魔力によるものがほとんどだ。魔獣に襲われたのは一部だった」

 主要な建造物は大きな被害を受けた。

「王宮を始め、城壁、砦、中心街、貴族の邸宅等々、大通りを中心に被害が出ている」

 物流も止まった。

「私の部下と、その他の住民の食料も足りていない。幸い水には事欠いていないが、限られた資源なので、現在は病人や怪我人に優先して供給している」

 会議の面々を見渡す。

 クラン。ゲオルク。アルフォンソ。そして、もう一人。

 誰もが異質なその存在に触れずにいる。

「アラリック、何か気になるところはないか?」

「被害の現状確認については特に」

 昨晩、ボルテの手紙を持ってやって来た。代理だそうだ。

 魔獣にも似た外見のため、長い外套を羽織って仮面をつけている。顔の横にある獣の耳がぴょこんとはみ出ているのが可愛い。

 耳だけ見れば獣人とも思える。

「ほかの者は?」

 特にないらしい。

 さて、そろそろ本題が近づいてきている。

「では次に、我々に被害を負わせた魔獣についての確認をしよう」

 ゲオルクが椅子の上で身じろぎをする。

 クランは円卓に肘をついてこちらを見やる。

 アルフォンソが腕を組み、瞑目する。

 アラリックの変化は分からない。

「私を含む代王国軍のとあの魔獣たちの戦闘の際、明らかになっていることは数と編成だ」

 概数は百万ほど。代王国建国から百年を数える。歴史の内で魔獣と戦ったことは数えきれない。しかし、大群と言っても万を超えたことほとんどない。片手の指で足りるほどしかない。

 また、群れに判別できないほどの種類が入り混じっている。

 群れというのは基本的に一つの種でしか成り立たない。例外的に、寄生や共生によって二種、もしくは三種になることがあっても、複数の種が入り混じることは考えられない。

「あとは、私の魔術の師の館において、魔獣の長と思しき存在と接した際に得た情報もある」

 あと二日。次の満月までにここを明け渡すように言ってきた。言い換えれば、次の満月にここで何かがある。それには私たちが邪魔であるということ。

 明らかに、これまで観測された魔獣とは異なる次元の魔獣の存在。明確に組織化されていて、恐らく階層化された階級制度もあると考えられる。私と何度か接触している黒い箱や、ギルダス達魔術師が出くわした空洞の鎧のような存在がいる。

 クランが手を挙げた。

「陛下。先日現れた魔力を吸い込んでいるものは何なのでしょう?」

「分からないが、いくつか推測はできる」

 あれが魔獣たちの目的である可能性。目的に必要なものである可能性。他にもいくつかある。

「あれを、手に入れることは可能ですか?」

 何を言いだすのだろう、この商人。売り物にでもするのか。

「難しいだろう」

 答えたのはアルフォンソだ。

「あれがなんにせよ、奴らにとって重要なのは確かだ。当然、防備も整えていると考えるべきだろう」

「あら、その防備とやらを突破してしまえばよろしいのでは?」

「ババア、無理言うんじゃねえよ。底の浅さが知れるぜ」

「は? なんだと盗人風情が」

 商人と盗賊が小競り合いを始めた。

「よせ、二人とも」

 すかさず私が止めた。

 どうしてこう、喧嘩の仲裁ばかりする羽目になるのだろう。代王って、そういう仕事だったかなあ。

「連中を侮ると、こちらは一気に全滅する。知性を持った存在に率いられた百万の魔獣だぞ? 中に突入しようとした時点で詰みだ」

 おい、アルフォンソ。もう少し後で話し始めてくれまいか。

 二人のやり合いなど目にも入らない様子のアルフォンソ。私が仲裁しているのにも気を配らず、言いたいことだけ言って口を引き結んだ。

 その姿から、儂は認めてない、と言わんばかりの雰囲気がにじみ出ている。

 確かに、半ば引きこもりでふらふら出歩いてばかりの十男が、自分の一目置いていた六男を差し置いて、いきなり王座を継ごうと言い出したのだ。そういう態度になるのも当たり前の話だ。

 気持ちは察しがつく、つくのだが、この場でその態度は困る。

「戦える連中もすくねえしな」

「そうだな、こちらの戦力は乏しい」

 戦力として考えられるのは千人くらいだろうか。

「私の部下が五百と、ゲオルクの盗賊団百と、ボルテを含む傭兵四人、アルフォンソを筆頭にした貴族達で四百人」

 数え上げると、戦力差に絶望しそうになるな。

「現状の確認は、終わり?」

 仮面が、いや、アラリックがこっちを向いている。向いているよな、多分。仮面でほとんど目を合わせられないので、会話がしづらい。

「そうだな。被害状況と、敵の確認、それと戦力の確認が終わった。ここからは、どう対応するかの話し合いだ」

「陛下の意見を話すべき」

「アラリックがこう言っている、それでいいか?」

 確認を取るものの、妙な間があった。

 ゲオルクがアラリックをじっと見る。

「陛下、あのさあ、そいつは誰なわけ?」

「私は、ボルテの代理人。アラリック。お見知りおきを」

「はーん…」

 品定めをする目つきで、ゲオルクがアラリックをじろじろ見た。

「その格好と、仮面は?」

「一身上の、都合」

「へえ…」

 アラリックは昨晩私の所に来た。ボルテの代理として会議に出ると言ったきり、私に事情は離さない。オドアケルも一緒に付いてきていて、アラリックの付き人として、仮面に外套という格好で床に座り込んでいる。

 兎の獣人アスラウグと樹人商人ボルテが、どこで何をしているのかは分からない。

「御前で怪し気な風体をお許しになるとは、嘆かわしい。商人の代理如きに侮られている」

 こら、アルフォンソ。聞こえているぞ。

 咳ばらいを一つ。

「ともあれ、奴らの要求をのみ、降伏し、他の町へ移るか。さもなくば他の道を選ぶか、我々の意見を一つにせねばならない」

「逃げの一手だろ」

「代王国の臣たるもの、ここで死なねば名が廃る」

「要求を呑むのがよろしいと思いますわ」

「徹底抗戦、こちらが生き残るためには、戦うしかない」

 割れたか。大きくため息をつきそうになった自分を押しのけた。

 気合を入れよう。ここからは読み合いだ。一挙手一投足に気を払うのが肝心になる。私の狙いは、ともかくこの五つの勢力の主導権を握り、しっかりと権力を握ること。

 戦うか、逃げるか、降伏するか、方針は正直どれでもいいが、勢力がまとまって動くのが望ましい。降伏と決まったのに魔獣を殺す連中が現れたり、戦うと決まったのに逃げる連中が出てはいけない。

 私がこの先、この西大陸で王として振舞うための重要な通過点である。

 会議に使っている円卓がずっしりとした存在感を放つ。黙る五人と、その付き人達。いびきをかいている奴もいる。

 発言は、誰からか。

「今すぐ逃げる以外に、選択肢があんのか?」

 ゲオルクからか。

「降伏するってやつと、戦うってやつがいたよな? だがよ、連中を甘く見すぎてるんじゃねえか?」

 刃傷のついた厳めしい顔を、ぴたり、ぴたりとそれぞれに合わせていく。

「魔獣が約定を定めたなんて話は聞いたことがねえ、大方、のこのこ出ていった間抜けを皆殺しにするつもりだろ。あと、戦うとか言ったぬけさくは、連中に勝てると思ってんのか?」

「ふん」

 ゲオルクの主張を誰かが鼻で笑った。

「なんだ爺。文句あっか」

 アルフォンソが口を開く。

「尻尾を巻いて逃げるか、いかにも頭の足りないコソ泥の思いつきそうな浅知恵だな」

「あ? 頭が足りねえのはそっちだろうが。どう考えても戦えるやつが足りねえ。さっさと逃げて、どっかの町に逃げ込むのがいいに決まってら。そうすりゃ何とかなる」

「ははッ」

 がなり立てるゲオルクに対して、アルフォンソは小鼻にしわを寄せて失笑するのみだった。

「老いぼれ、あの世で後悔しやがれ」

 忍耐力の切れた盗賊は、懐から刃物を抜いた。

 煌めく刃の切っ先に反応して、老貴族の付き人が剣を抜く。

 円卓を、剣戟の照り返しが染めた。

「アルフォンソは逃げられないと思っているのか?」

 殺気立つ付き人とは異なり、アルフォンソは悠然と卓についている。

「ええ」

「切り合いが起きる前に、理由を聞こうか」

「逃げた先、どこへ向かうのか考えれば明らかでしょう」

 ちらっと見ると、ゲオルクは分かっていない様子だ。

「もう少し詳しく聞きたい」

 私の目配せに気が付いたアルフォンソが訥々と言う。

「何、魔獣が追いかけてきた時の行き先が無いと申し上げているだけです」

 代王都に魔獣が襲い掛かってきて、国の中枢が麻痺した。大まかに数えて半月が経つ。しかし、未だに他の領主から援軍が届くことは無い。

 西大陸は広い。

 しかし、代王の治める領地はその半分に満たない。それに、水利も街道も十分に整備されている。

 半月もあれば、国の端から端まで軍隊を移動させられる。

 現状、こちらから使者を出すのは難しい。故に、単に知らないという可能性もあるにはある。だが、それを踏まえても、先の代王が魔獣の群れに野戦を挑んだ情報が届いていないはずもない。

 そして、この魔獣の数から推察すると、代王国中の魔獣が集まっていると考えるのが普通である。

 まとめると、現在各地の領主が掴んでいる情報は、代王国軍が魔獣の群れに負けたということ、代王国からの命が届かないので代王都に何かが起きていること、現状魔獣の脅威が代王都に集中していること。

「この三つの情報を各地の領主が持っているとすると、彼らは我々代王都の生き残りを見捨て、それぞれ生き残りのための道を探るでしょう」

 彼の意見を聞いて、私は胸中で深々と嘆息した。

 竜騎士フリティゲルンからの情報を統合すると、私の意見も彼と同じようになる。救援は望めないということだ。

「じゃ、じゃあどっかの山か原野にでも潜めばいい」

 幾分トーンダウンした調子の主張をする盗賊。

「山にしても、原野にしても、奴らの縄張りだ。魔獣本来の能力を発揮できる環境で、逃げ切れると思うか?」

 私はなるべく冷静な口調で告げた。

 ゲオルクが、刃物を持った手を力なく下ろした。のそのそと懐へ仕舞い、力を抜いて椅子に崩れ落ちる。

「はー。じゃあもう無理じゃね」

「だから逃げるのは下策なのだ。若造」

「戦うのも無理だろ。爺」

 一応反論してはいるが、ゲオルクは脱力しきって力がない。

「いい気味ね、盗賊」

「ちっ」

 クランの嫌味にも反応が薄い。

「アルフォンソ、戦うべきと考えるのはなぜだ?」

「ここは我らの町、地の利があります。ここで粘り、代王国存続の目があると各地の領主へ訴えかけ、救援を仰ぐのが生き残るのに最もよろしい」

「あら、物資もつきかけているというのに、籠城ですか? テングート卿?」

 力説のアルフォンソへ、クランがケチをつけた。

「商人の連中がため込んでいる物資を徴発すればよい」

「そういう態度なら、私はさっさと降伏しますわよ」

「なに!? 貴殿、それでも代王国民か!?」

 卓を叩いて睨みつける老貴族の眼光にも、商人はどこ吹く風だ。

「降伏に対して消極的な理由は分かりませんけれど、私は早く降伏してしまいたいですわね」

「クランが降伏するべきと考えるのはなぜだ?」

「簡単ではありませんこと? 向こうの要求をこちらが満たせ、こちらの要求を向こうが満たすことができます。要求をお互いに満たせば、取引が成立するものではありませんか?」

 商売人の目は持っているのだろう。クランのいうことは正しい。

 正しいが、その考えがどこまで魔獣に通用するのか分からないのが厄介なところである。

「アラリックの意見も詳しく聞きたい」

 商売人の代理としてきているのだ。彼女の意見も出させ、背後にいるボルテの考えを知りたい。

 徹底抗戦を主張してはいたが、どうにも本気とは思えない。

「私は断固戦うべきだと考えている。魔獣と人に、共存の道など無い。どちらかが死に絶えるまで戦うもの」

 恨みでもあるのだろうか。いやしかし、個人的な感情だろうし、この会議の場で話すように言うのは良くないな。

「なんだあ? 恨みでもあんのか?」

 おい、盗賊。

 もう少し配慮をしなさい、それに、態度がものすごく悪いぞ。ちゃんと座れ。

「ある。親を食われた」

 さらりと言うアラリック。

「あー、なるほどなー」

 そこでアルフォンソが、軽いやり取りに割って入った。

「おい、若造。同情する素振りくらいみせたらどうなんだ」

 厳しい声を出す。一方で、優しい目をした。

 悲しい過去に同情したのかどうなのか。怪しい風体のアラリックに優しさを見せる。

 ゲオルクは億劫そうに、首だけアルフォンソに向けた。

「俺のダチも親も仲間も、何人も魔獣にやられてきた。この国じゃ、当たり前のことだろうがよ」

 そう、この国は広く、魔獣は多く、そして強い。被害は出る。

 入植して百年。ようやく首都近辺で魔獣による被害が落ち着きを見せ始めていた所だった。

「当たり前だからと言って、悲しむ心は変わるまい」

 悲しむ心か。私の母や戦場で散った従者、うまい茶を入れてくれたあいつ。

 皆死んだが、私は涙の一つも流していない。

「ちげえよ爺。もうそういう同情の言葉をかける段階は終わってんだよ。自分みてえな奴を出さねえように、こいつは戦うって言ってんだろうが」

 だらけた姿勢だが、怒りが垣間見える。

 アラリックの心情を理解しているのは、アルフォンソよりもゲオルクがの方かもしれない。

「しかし、親を失って―」

 このアルフォンソの同情が、彼の傷に触れたのだ。

「爺、あんたの親はいくつで死んだ?」

 急な質問に少し間が空く。

「六十を超えた所で」

「俺の親は三十で死んだ。俺は十五だった。意味が分かるか?」

「それは不幸な―」

「ちげえよ。貴族様はいいもん食って、医者や術師に手当てしてもらえて、金も持ってるってことだよ」

 耳の痛い話だ。

「それは、先祖代々、積み重ね、受け継いできた財産がある」

「俺にはねえ。でもよ、だから違うとは言わねえ。むしろ逆だ。色々違っても、俺と爺は同じさ」

「―」

 意外なことを聞く。会議の場が、静かになった。

「お前らみたいに余裕があれば、親と死に別れたガキをかわいそうだと思うかもな。でもよ、お前らすぐ忘れるだろ。かわいそうだなと思って、ちょっと親切にしたらそれで終わりだろ」

 そういう連中を食い物にしている奴らもいることを考えれば、施しをするものの方が何倍もましだろう。

「何もしないよりはましであろうが」

 私もそう思う。

「別にいいよ。それで助かってるやつもいるしな」

 ただし、と気だるげな盗賊が続ける。

「自分のやってることが、かわいそうだと思った心を発散させてるだけっていう、自分のための行動だってことは自覚しろよな」

「馬鹿を言え。儂は善意から手助けをしとる。貴様のような盗人とは違う」

「うるせー。何が善意だ。あんたはいいことをする自分でいたいだけだっての」

「盗人風情が」

「誰でも自分が一番大事に決まってんだ。だからあんたたち金持ちは苦しい心を発散させるために俺ら貧乏人に恵んで、俺ら貧乏人は同じ境遇のやつを見捨てても、今日の飯だけ考えるんだろ」

「くだらん」

 アルフォンソがそっぽを向いた。

 私は、ゲオルクの方を向いた。

「同類なんだよ。人を助ける奴も、人を見捨てる奴も、どっちもやりたくてやってる。誰かのためじゃなくて、自分がしたいことをしてる」

「くだらん。実にくだらん議論だ」

「だからさぁ、あんたの同情なんてどうでもいいんだよ。ましてや俺の同情もな」

 やること、やれること。

 私のやれること、か。

 代王には手が届くだろう。魔獣も、何とかできる。

 そうして私はどこへ行く。

 竜騎士との約束がある。

 この国の闇を知る友人から目が離せない。

 熱狂的な人々の中心にいる奴もいる。

 深い傷を持った師から教えを受けたい。

 そしていつか、母のように突然の死に見舞われる人を、無くしたい。

 クランが白々しい拍手をした。

「大層な演説ですこと」

「結論が、出てない。会議を続けるべき」

 アラリックの話題転換に言い負かされたアルフォンソが乗った。

「戦うのに二票入った。妾、盗賊、殿下、魔獣にとことんまで抗うべきです」

「まあまあ、あまり鼻息を荒くするな。時間はまだある。一体感を持って魔獣達に対処しよう」

 会議は続く。

 明後日には結論を出さなくてはならない

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